いまから約10年前、自治体関係者に衝撃を与えた「消滅可能性自治体」というキーワードが再び注目を集めています。2024年4月、民間の有識者グループ「人口戦略会議」は、2050年までに20代から30代の女性人口が半減し、全国で744自治体が消滅する可能性があると発表しました。
2014年の報告と比較すると、最新の推計で将来的な外国人の入国増加が見込まれているため「消滅可能性自治体」の数は152減少していますが、少子化の根本的な傾向は変わらず楽観視できる状況ではないとしています。
今回の報告で、新たに「消滅可能性自治体」に分類されたのは99自治体で、前回の分析で対象外とされた福島県の33自治体も含まれています。一方で、239の自治体は「消滅可能性自治体」から脱却しました。
また、若年女性人口の減少率が20%未満の65自治体を「自立持続可能性自治体」と名付けて、将来的にも持続可能性が高いと評価しています。
九州・沖縄地方では、34の自治体がこのカテゴリーに含まれ、宮城県大衡村のように2014年の「消滅可能性自治体」から、「自立持続可能性自治体」に転換した自治体もあります。
さらに、大都市近郊に位置する25の自治体については、出生率が低く他地域からの人口流入に依存していることから、「ブラックホール型自治体」と呼称して、出生率向上のための対策が特に必要としています。
近未来の自治体経営では「高齢化率」28.9%を超える状況の中、確実に予測できる社会構造の変化「人口動態のシニアシフト」を考慮しながら、人口減少型社会への移行に伴う「税収減」にも対応していく必要があります。
そして、かつてない厳しい状況を克服するためには、「住民サービスの向上」や「行政事務の効率化」「生産性の向上」等の取り組みに加えて、デジタル化によって地域全体の「DX」を図る新たな取り組みが必要になります。
一例を挙げると、千葉県流山市では、30代~40代前半の子育て世帯を対象に「母になるなら、流山市。」「父になるなら、流山市。」のキャッチフレーズでPR活動を展開し、住み続けられる街としてのブランディングに注力しています。
具体的には首都圏に勤務・在住する「子供のいる共働き世帯」をターゲットに、駅広告やWeb上でのPR活動を展開することで、首都圏からの転入者を増加させ、その結果、市内の0歳~9歳及び30歳~49歳の人口も年々増加傾向を示し、人口増加率は、2017年~2020年の4年連続で全国1位を記録しています。
さらに、市民が集まるイベントの実施や「ママ友作りコミュニティ」の立ち上げなど、市内で活動する「コア市民」を中心に、子育て世帯の定住を意識したプロモーション活動も実施されています。
この流山市の「子育て世代」へのアプローチのように、今後はターゲットをしっかり設定したシティプロモーションを実施することが重要であり、これと併走した実施後の見直しと、施策をフォローする施策展開にも注力する必要があります。
世界に目を向ければ、バルト三国のひとつ「エストニア」のように国家戦略としてデジタル化に邁進する国家が現れていますが、人口約132万人、面積は日本の約9分の1程度の小国「エストニア」が、なぜ世界でもトップレベルの「電子国家」になり得たのでしょうか。
かつては、デンマーク、ドイツ騎士団、スウェーデン、ロシア帝国、そしてソ連と次々に支配者が変わった歴史から、物理的に国が奪われたとしても、オンライン上で電子的に国をデータとして保管・分散管理することで国民を守り、国と民族を永続させるための戦略がその根本にあると思われます。
電子国家としての「エストニア」の戦略は、単にテクノロジーによって生活の利便性向上を目指すだけではなく、自分たちの歴史や生活、そして自由を守るための生き残り戦略と思われます。
国家という中央集権的な組織が、分散・管理されたデータを連携させる非中央集権的な仕組みを重要視する姿勢は、新たな時代の国家のあり方として、注目に価する戦略ではないでしょうか。
極言すれば、「エストニア」の電子立国の戦略は、ハードウェアともいえる「国土」と、ソフトウェアの「国家OS」を使用し、データをネットワーク上に展開することで、国家を具現化するシステムと言い換えることができます。
VUCA時代と呼ばれる現在、この仕組みであれば、戦火によって一時的に国土が失われたとしても、新たな国土で「国家OS」を再起動させ、ネットワーク上のデータを連携させれば、新たな国家を再興することが可能になります。
いま、新たな動きとして注目されているのが「学習(ラーニング)」と「休暇(バケーション)」を融合させた「ラーケーション」制度の導入です。最初に始めたのは愛知県と大分県別府市で、2023年度から実施され、2024年度には茨城県や栃木県日光市、沖縄県座間味村においても導入される予定です。
愛知県では、2023年3月から「ラーケーション」への取り組みをはじめ、県全体の「休み方改革」プロジェクトの一環として、子供たちが平日に校外で自主的に学ぶ日を設定しています。
愛知県が2024年3月に実施した調査では、「ラーケーション」の日を取得したのは小中学生の保護者17.3%、高校生11.5%で、取得予定を含めると、それぞれ35.4%、30.9%に上ります。「よいと思う点」としては、「家庭でも子供と触れ合う時間が増える」が最多で、小中学生の保護者の64.5%、高校生の53.4%が賛同しています。
2024年度には、茨城県、栃木県日光市、沖縄県座間味村でも導入が開始され、茨城県では、108校で年5回まで取得が可能になります。市町村立学校では保護者との活動が前提ですが、「ラーケーション」が定着することで地域の活性化が期待されています。
観光産業と教育現場に新たな可能性をもたらす取り組みとして注目されている「ラーケーション」ですが、家族とのふれあいや地域社会とのつながりを深めることで、子供たちに豊かな学びの機会を提供するこの制度は、今後の地域社会において重要な役割を果たすのではないでしょうか。
今年4月1日から、日本版「デジタルノマド」ビザ制度の運用が開始されました。「日本にビザなしで入国できる国・地域の国籍」を持つ「年収1,000万円以上」が条件で、米国、オーストラリア、ドイツ、フランス、韓国、香港、台湾など約50カ国・地域が対象となり、在留期間は6カ月となっています。
「デジタルノマド」とは、ITを活用して場所に縛られずに、遊牧民(ノマド)のように旅をしながら仕事をする人達の総称ですが、コロナ禍の影響で一気にリモートワークが普及したことで、新しい時代のライフスタイルとして世界的に注目を集めています。
「A Brother Abroad」社の2022年調査では、世界で3,500万人以上の「デジタルノマド」が存在し、その経済効果は全世界で7,870億USD(約119兆円、※ 1USD=150円換算)とする試算もあります。
「デジタルノマド」が注目される背景としては、働き方の変化が挙げられます。社会全体のデジタル化の進展によって、物理的な場所・時間に制約されず、気に入った空間で仕事も余暇も楽しみたい、そんなライフスタイルが誕生しているのです。
そして、「デジタルノマド」の特性として、高収入層が多い上に滞在期間が長く、経済波及効果が大きいことが挙げられます。「ワーケーション」に注力してきた地域・自治体等では、既存の地域資源や蓄積してきたノウハウを活かし、グローバルな関係人口を創出するチャンスではないでしょうか。
海外では、タイのチェンマイが「デジタルノマド」の聖地といわれていますが、物価の安さやバンコクなどの都会にはない穏やかな雰囲気と、まちなかに多く点在するコワーキングスペースやカフェの存在がその要因になっています。
今後、日本版「デジタルノマド」ビザ制度の推進については、このようなコワーキングスペースの拡充による施設面の充実と、在留期間の最長はインドネシア・バリ島の5年、タイの4年、2024年に制度を発表した韓国は2年など、海外諸国と比較して短期間と感じられる我が国の6カ月の期間延長が必要と思われます。
我々を取り巻く環境は今後も絶え間なく変化し続けると思われます。そして、これまでの10年と比較して、今後10年の変化の方が激しいことは容易に想像することができます。
デジタル時代の自治体には、既存事業の強みの維持・強化を図りながら、新規の価値を生み出し、イノベーションを創出する「仕組み(システム)」づくりと、柔軟な自治体運営へ向けたマインドチェンジが必要ではないでしょうか。
「DX」が単なる組織改革や新規事業創出ではないといわれるのは、一過性の取り組みではなく、長期にわたり継続的に取り組む必要があるためです。言い換えると、地域の課題解決に永続的に取り組むことでもあります。
今後、人口減少型社会が進展し就労人口が縮小する中、職員数の減少は避けられません。一方で、新たな価値観を探索し創出しようとする自治体では、既成概念に囚われない、これまでにないビジネスモデル・生活支援サービスが求められます。
目指すものは、デジタル施策を通じて人口減少という問題に立ち向かい、サービス受給者である「住民」を中心とした「暮らし価値」の向上と、日本版「デジタルノマド」ビザ等による、グローバルな視野に立脚した「関係人口」の創生と、イノベーション創出ではないでしょうか。