フロントヤード改革による自治体DXの推進
~住民と行政の新たな接点について考える~

VUCA時代に再考する情報化施策の本質 [第7回]
2024年10月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

自治体業務システムの標準化は、自治体のデジタル変革に欠かせない要素といわれています。一方、急速に進展する人口減少型社会の到来に伴い、効率的な業務運営が求められる中で行政分野においても、新たな模索が始まっています。そこで、注目されているのが、フロントヤード改革・バックヤード改革による、自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進です。

人口減少に伴う、生産性人口減少への対応が喫緊の社会的課題となっていますが、自治体内部においても、このような状況に対応し業務効率を高めるためには、業務プロセスの見直しと、デジタル技術を活用した新たな仕組みの構築が必要不可欠になります。

既存の自治体業務を刷新するためには、まず現行の業務プロセスを詳細に検証し、各業務がどのような手順・手続きで進められているかを細部まで確認することが重要です。このような取り組みによって、限られたリソースをより重要な業務に集中させることが可能になり、業務の改革につながると思われます。

フロントヤード改革によって、住民との接点をデジタル化することで、利便性を大幅に向上させ、バックヤード改革で内部業務の効率化を図ることで、業務のスピードと正確性を向上させるなど、自治体業務を変革することで、行政サービスの質的向上が可能になります。

住民との接点強化に向けて

フロントヤード改革とは、自治体の窓口業務やサービス提供方法の見直しを行い、住民との接点を多様化・充実化させることで、住民と直に接する部分の利便性を向上させる取り組みです。

これまでの行政手続きのオンライン化とは異なり、窓口業務を中心に住民と行政の接点を全面的にデジタル化することで、住民サービスの質的向上を目指すことがその目的です。

フロントヤード改革においては、住民との接点を強化することが最も重要です。子育て支援に関する申請などをオンラインで可能にすることで、住民の手間や時間が削減されるなど、従来は対面での申請・手続きが必要なものがネット上で完結するようになると、住民の利便性が大幅に向上すると思われます。

例えば、マイナンバーカードを活用したオンライン上での本人確認により、書類の提出が不要になるケースや、生成AIを活用したチャットボットサービスを導入することで、住民からの問い合わせに対して、迅速に対応する取り組みなどが考えられます。

既に、一部の自治体ではオンライン予約システムや電子申請システムを導入し、住民のインターネット上での各種手続きを可能にする施策が実施されていますが、このような自治体の取り組みによって、フロントヤード改革が進行し、住民サービスの向上が実現されていきます。

さらに、このような施策では「申請ナビサービス」や「書かない窓口」の導入、セルフ端末・オンラインサポートの設置など、サービスデザイン手法に基づくユーザー起点の改革アプローチが採用されることで、住民にとって使いやすくストレスの少ない、行政手続きの実現に寄与していると思われます。

マイナンバーカードの利活用については、自治体のデジタル技術活用の中核を担う重要な位置を占めていますが、公的個人認証の仕組みを活用することで、住民は様々な行政手続きをオンラインで行うことが可能となり、住民側の視点からも利便性が大幅に向上することが期待されています。

三重県明和町の事例では、「子育て世代をターゲットに行政手続きをデジタル完結する」という目標を掲げて、マイナンバーカードを利用した申請ナビサービスやセルフ端末が導入されましたが、子育て世代に向けたこのような取り組みは、新たなサービスモデルとして、フロントヤード改革の全国的な普及展開につながるのではないでしょうか。

内部業務の効率化と期待される効果

バックヤード改革とは、自治体内の業務効率化を目指す取り組みです。フロントヤード改革が住民との接点の改革を目指すものであるのに対し、バックヤード改革は、行政機関内での仕事の仕方やプロセスを見直し効率化することを目的としています。

自治体におけるバックヤード業務は、内部処理事務のため住民からは直接見えませんが、実際には多岐にわたる業務が行われています。これらの業務を効率化することで、限られた人的資源を有効に活用できるようになり、住民へのサービス提供も円滑になると思われます。

例えば、文書管理システムやオンライン会議システムの導入により、書類の検索や共有が迅速になり、会議の準備や実施がスムーズになります。さらに「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」の活用により、定型的な業務を自動化することで、職員がより創造的な業務に集中できるようになります。

自治体DXを通じたフロントヤード改革とバックヤード改革によって、住民に対する行政サービスの向上や、オンライン申請や迅速な情報提供が可能になることで、住民の利便性が高まるなど多くの効果が期待されています。

業務の集約化と効率化

バックヤード改革の一環として、業務の集約化と効率化が挙げられますが、これまでは複数の部署で重複して行われていた業務を一箇所に集約し、効率的に処理する仕組みを構築することや、デジタルツールやAIの活用により、書類の整理やデータ入力などのルーチンワークを自動化することで、人的ミスを軽減することが可能になります。

クラウドベースのシステムやコミュニケーションツールを活用することで、チーム間の連携を強化すると同時に、人員の最適配分が行われ、業務のスピードと質が向上すると思われます。

そして、窓口対応の効率化や問い合わせ対応の自動化などの取り組みが進められることで、住民と直に接する機会が増え、より質の高いサービスが提供できるようになります。

さらに、デジタルツールの導入により、業務の視覚化が進み、業務の進行状況が一目でわかるようになるため、担当者間の情報共有が円滑になります。これにより、業務のスピードが向上しミスの抑制も期待されます。

また、人口減少に伴う人的リソースの縮小など、デジタル技術を活用することで、少ない人手でも高効率な行政運営が可能となり、現場の負担が軽減されるとともに、住民サービスの継続的な提供につながると思われます。

近い将来、自治体情報システムの標準化や地方公共団体間での情報共有がさらに進展することで、地域を跨いだ自治体が連携して、行政サービスを提供することが実現することも想定されます。

今後の課題

現在、我が国の自治体は少子高齢化と人口減少により深刻な人員不足に直面しています。これにより、自治体職員の人材確保が難しくなり、既存の職員に対する負担が増大しています。

特に、行政サービスの現場であるフロントヤードの業務は住民と直に接するため、人手不足が顕著です。フロントヤード改革の推進においても、この人材不足の解消は大きな課題となっています。

自治体の業務は多岐にわたり、その多くが断片化し、低効率に陥っています。特に、バックヤードでの業務では手作業や紙ベースの処理が依然として多く見られ、これが作業の遅延やミスの原因になっています。

また、各部門間の連携不足やシステム統合の遅れにより、情報共有や業務の効率化が妨げられています。バックヤード改革を進めることで、業務の集約化と効率化を図り、自治体全体の運営効率を向上させることが求められているのです。

今後の対応課題としては、「DX」の推進に伴う人材不足や予算不足が挙げられます。特に、アナログ文化が根強く残る地域においては、その克服が不可欠になります。

自治体業務DXやフロントヤード改革、バックヤード改革を進めるにあたっては、デジタルツールの導入や高度なシステムの運用に対応できる人材の確保が急務になることから、職員が新しい技術に対応するための教育・研修が不可欠になり、専門的なスキルを持つ職員の確保も大きな課題になります。

その一方で、住民のデジタルリテラシーの向上が必要になります。デジタル化が進展することで、一部の住民が新しいサービスを利用できない状況を回避するには、デジタルデバイドを解消するための教育やサポート体制を整えることが重要です。

そして、セキュリティの確保も重要な課題です。自治体が扱う情報は機密性が高く、デジタル化に伴うサイバーセキュリティリスクも増加します。そのため、情報漏えい対策やセキュリティ強化のためのシステム構築が欠かせません。

フロントヤード改革は、デジタル技術を活用して住民と行政の接点を改革し、住民利便性の向上を図るものです。一方、バックヤード改革は業務の集約化・効率化を目指し、柔軟な人員配置を実現するための取り組みです。

フロントヤード改革とバックヤード改革との連携によって、窓口等の「住民と行政との接点」における、新たなサービスモデルを創出することで、自治体業務の最適化を図り、「利便性向上」とともに「業務の効率化」を実現することが可能になると思われます。

今後、マイナンバーカードの普及や利活用が進む中で、公的個人認証システムを活用した、新たなサービス展開が期待されますが、地方自治体間でのコラボレーションやサービス連携強化に向けた、技術面・運用面での課題解決がより重要になるのではないでしょうか。

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