「withコロナ」「アフターコロナ」など、新たなキーワードが次々に誕生し我々の日常生活も激変しました。そして、「アフターコロナ」という言葉に象徴されるように、これまでの考え方や社会の仕組みが過去のものとなり、さまざまな観点から見直しが求められています。
新型コロナウイルスの感染拡大によって緊急事態宣言が発出されて以降、全国の自治体では感染症拡大防止の観点から、「職員の出勤7割削減」などの目標が掲げられるようになり、在宅におけるリモートワークやフレックス出勤など、新たな生活様式に対応した働き方が強く奨励されるようになりました。その後、6月19日に緊急事態宣言は解除されましたが、このような自治体における「withコロナ」時代の新たな働き方の模索はいまも継続しています。
総務省のデータによると、2020年3月26日時点における全国自治体でのテレワーク導入状況は、47都道府県では「44団体(93.6%)」、20政令指定都市では「14団体(70.0%)」が導入しています。しかし、市区町村1721団体においては「51団体(3.0%)」の低率にとどまり、コロナ禍を機に民間企業で一気に導入が加速したテレワークが、地方自治体では進展していない状況です。
自治体業務においては個人情報を取り扱うだけに、セキュリティ対策を重要視する観点から、従来の働き方から踏み出すことが難しい状況です。各自治体では新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、「三密」解消の緊急対応として部署ごとにテレワークを開始したものの、個人情報を保護するため、在宅でのリモートワークでは、文書の集約作業等の業務と資料作成など、庁内データにアクセスする必要がない業務に限定されているのが現状です。
とはいえ、新型コロナウイルスの第2波、第3波の感染拡大を想定した時、現状の仕組みを継承しながら、本庁舎以外の施設にサテライトオフィスを設置し、リモートワーク・テレワークを可能とする環境の構築を図るなど、現状において可能な業務改革の打開策を見出す必要があると考えます。
自然災害発生時等の緊急時における危機管理の観点からも、リモートワークが役立つのではないでしょうか。最も単純なWeb会議システムであっても、在宅からリモートでつないで各担当課の状況を確認することが可能になります。また、メール等を活用して各部署がスムーズに連携することで、災害時の初動体制は早まると考えられます。リモートワークを普段から実践することで、緊急時においても、行政機能が停止することはないと思われます。
現場へ出向くことが多い部署においては、報告書を作成するために帰庁する必要がありましたが、その作業がリモートワークで可能になると時間に余裕ができることで、より多くの現場を巡回することが可能になります。
また、テレワークは1日単位ではなく、短い時間だけ部分的に利用することも可能です。職場での勤務とリモートワークをフレキシブルに組み合わせることで、子どもの学校の行事に参加することや、先ほどの事例のように報告書を書くため帰庁するなどの無駄をなくすことが可能となります。これにより現場からの直帰率が上がり、家事・育児に要する時間を作り出すことで、職員のワークライフバランスの向上にも役立つと思われます。さらに、業務や時間が効率化されることによって、最終的にはこのような業務改善の積み重ねが住民サービスの向上につながると考えられます。
自然災害発生時など職員の登庁が困難な状況においても、リモートワークを併用することで、一定のレベルで自治体の業務を維持することが可能になると思われます。いまやリモートワーク・テレワークは特別なことではなく、平常時の業務体制の延長線上にある働き方なのだと、認識を改める必要があるのではないでしょうか。
自治体がリモートワークを推進するため、サテライトオフィスを整備する目的としては、以下の2つがあると考えられます。
人口の流出が進む地方自治体においては、他の地域から自分たちの地域へ企業を誘致することができるサテライトオフィスの整備は、人口減少に対応するための施策となるだけではなく、生産性の向上や優秀な人材の確保などの観点からも、有効な手段になるのではないでしょうか。
実例としては、和歌山県白浜町に開設されたサテライトオフィスでは、「地域と連携した、ICT活用による地方創生に貢献する事業の実施」を目的に、地方自治体が他地域の企業を誘致して、テレワークする職員を招き入れる取り組みが進められています。
また、福井県鯖江市においては、地方で問題となっている空き家をサテライトオフィスとして改装整備する施策を推進しています。この事業は総務省の「おためしサテライトオフィス」プロジェクトにも選定され、一定の期間サテライトオフィス勤務が体験できるツアーも開催するなど、全国的にも注目を集める動きとなっています。
自宅やサテライトオフィスなどで仕事をするリモートワークでは、業務用パソコン・タブレット端末等をモバイル環境で使用することが前提になりますが、モバイル端末の紛失や盗難の危険性、外部のネットワークから接続することによる「情報漏えい」のリスクなど、普及を阻む要因を克服する必要があります。
しかし、これらの課題はクラウドサービス基盤の活用や「VPN」、「仮想デスクトップ」、「データの暗号化」、「生体認証」等による「ログイン認証」など、各種の要素技術を利活用することでリスクを回避することが可能になっています。
また、「ログイン認証」機能については、「顔認証」「指紋認証」など人間の身体的特徴を用いて認証を行う「生体認証」を採用することが基本になります。さらに、「顔認証」システムとマイナンバーカード等による「個体認証」を併用する「二要素認証」を行うことで、PC搭載カメラによる顔面画像と、マイナンバーカード内の顔面データを照合するなど、より強固なログイン認証が実現できると思われます。
「テレワーク」の作業環境については、モバイルPC端末からオフィス内に設置したデスクトップPC等の端末を遠隔操作・閲覧する「リモートデスクトップ」方式と、ネットワーク上の仮想PCに接続してこれを利用する「仮想デスクトップ」方式に大別されます。
モバイルPC端末にデータを保存しない点はどちらの方式も同様ですが、オフィス内の端末とモバイルPCの複数の機材が必要になる「リモートデスクトップ」と比較すると、オフィスに端末を用意する必要がなく、サーバ上で仮想PCの管理が一括して可能な「仮想デスクトップ」方式にメリットがあると思われます。
これまでの運用方法であれば、職員が使用するPCのディスプレイ上にデスクトップは存在し、データは個々のPC内に保存されていましたが、「仮想デスクトップ」方式では個々のデスクトップがクラウド上に構築され、ネットワークを介してそのデスクトップを操作することになります。そのため、使用するPCは必要最低限の性能でよくなり、リモートワーク用に高スペックのモバイル端末を用意する必要がない利点があります。
そこで、いま注目されているのが、クラウドサービスを利用して「仮想デスクトップ」を実現する「DaaS(Desktop as a Service)」と呼ばれている仕組みです。
「DaaS」には、その運用方法によって、以下の3つの形態があります。
他の団体・企業等とは完全に独立した環境の下でクラウドを活用する「プライベートクラウドDaaS」では、クラウド環境が独立しているため高度なセキュリティが確保され、OS・ソフトウェアなどのカスタマイズも容易になるなど、独自のシステム環境を構築することが可能になります。しかしその反面で、システムの導入・運用に要する経費は高額になることに留意しておく必要があります。
「バーチャルプライベートクラウドDaaS」については、サービス事業者が提供する「IaaS」、「PaaS」等のサービス基盤上で「仮想デスクトップ環境」を利用するもので、代表的なサービスとしては、「AWS(Amazon Web Service )」、「Microsoft Azure」、「Google Cloud Platform」などがあります。完全に独立した環境ではないものの、他の団体等が同じ環境を混在して利用することはなく、セキュリティ対策面では「プライベートクラウドDaaS」に準じた運用が可能になると思われます。
「パブリッククラウドDaaS」では、パブリッククラウド上に構築されたオープンな環境を不特定多数の団体が共有して利用する仕組みで、代表的なサービスには、「Amazon WorkSpaces」、「Microsoft Windows Virtual Desktop」などがあります。カスタマイズ性は低く、セキュリティレベルも高度ではない反面、導入にかかる経費は低廉になり、自前でサーバなどを管理する必要もなく、OSのアップデートやメンテナンスが不要になるなどのメリットがあります。
ネットワークが発達した現在、オフィスに集まって勤務することで、無駄な時間やコストが発生することに気付くべきではないでしょうか。今後、社会全体のデジタル化が加速化し、価値観やライフスタイルが多様化することで、リモートワーク・テレワークが特別なものではなくなり、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が進展すると思われます。
「DaaS」等のサービス基盤を利活用し、システム運用を外部の専門業者に委託することによって、コストや手間を削減するとともに、職員がより付加価値の高い業務や、新たな政策の策定など、クリエイティブな作業に集中できる環境を創り出すことが可能になります。
我々には多様な「働き方」が求められていますが、これは我が国の人口問題とも大きく関係しています。今後、生産性人口が減少していく状況の中で、人材の確保は最優先事項ですが、生産性人口を構成する若年層は「育児・介護のダブルケア」を担う世代でもあります。
いま我々に求められているのは、どのような「働き方」で限られた人的資源を効率的に活用していくのか、災害発生時・緊急時等において、どのような「働き方」で行政機能を維持していくのか、今回のコロナ禍の経験を糧に、試行錯誤を繰り返しながら前進を続ける強い意志ではないでしょうか。