突然ですが、読者の皆さんは「地方創生」という言葉を聞いてどんなイメージを思い浮かべられるでしょうか。2014年に取り組みが始まって以来、自分たちが暮らす地域をより良くするため、全国で様々な施策が展開されてきました。
そして気がつくと10年以上の歳月が経過し、正直なところ「本当に地方が元気になったのか?」と疑問に感じている方々もおられるかもしれません。
そんな中、「地方創生2.0」というキーワードが注目されています。この「2.0」という数字には、「これまでを振り返り、新しい時代に合わせてアップデートしていこう!」という熱いメッセージが込められているのではないでしょうか。
これまでの経過を振り返ってみると、「東京一極集中の是正」は、地方創生が掲げた大きな目標の一つでした。しかし、残念ながらこの10年間で東京一極集中の傾向はさらに深まり、住民基本台帳人口移動報告2024年によると、東京都の転入超過は圧倒的で、一年間に約8万人が増加しています。
しかし、これは決して「地方創生」が施策として失敗したということではありません。むしろ、この厳しい現実を正面から受け止め、「もっと根本的な部分から変革を起こそう!」という強い決意が「地方創生2.0」の背景にはあると思われます。
政府が発表した「地方創生2.0の基本的な考え方」の中で、特に印象的なキーワードがあります。それは「楽しい地方」という表現です。「楽しい地方」とは、一体どんな地域の姿を目指しているのでしょうか。
今回の考え方の中では、「人口減少が続く地方を守り、若者・女性にも選ばれる地方」こそが「楽しい地方」だとされています。つまり、一人ひとりが自分の人生を楽しめるような、魅力あふれる地方を創っていくという人間らしい視点が加わっているのです。
多様な価値観が認められ、誰もが自分らしく輝ける社会であること。そして、高齢者も含め、誰もが安心して暮らし続けられる医療や福祉、コミュニティが充実していること、これらが「楽しい地方」の要素として挙げられ、地方が元気になれば、それは日本全体の活力に繋がるとしています。
ただし、大都市圏と地方の生産性格差を温存したままでは、ミクロでは合理的でもマクロでは望ましくない結果となる「合成の誤謬」に陥る可能性もあることから、単なる地方の活性化策を超えて、日本という国のあり方そのものを変革する、そんな大きな潮流を生み出すことを目指していると思われます。
「地方創生2.0」が目指す未来は、とても魅力的に映ります。しかし、ただ理想を語るだけでは、これまでと同じ轍を踏んでしまうかもしれません。だからこそ、政府はこれまでの10年間の取り組みについて、真摯な「反省」を表明しています。
この反省点には、「いい仕事」や「魅力的な職場」、「人生を過ごす上での心地よさ、楽しさ」が地方に足りなかった点や、人口減少の影響や課題への認識が十分に浸透していなかったこと、人口減少を前提とした地域の担い手育成や労働生産性の向上、生活基盤の確保が不十分であったことが挙げられています。
これに加えて、国と地方の役割分担のあり方についての検討不足や、省庁間と自治体部局間の連携が不十分で、縦割りが課題となったこと、また「産官学金労言(産業界・官公庁・大学・金融機関・労働団体・報道機関)」の関係が「意見を聞く」にとどまり、「議論」にまで至らなかったことも反省点としています。
読者の皆さんは、「まさにそこが問題だったんだ!」と共感されるかもしれません。特に、「若者・女性から見て魅力が足りなかった」という点や、「人口減少を前提とした対策が不十分だった」という観点は、まさに地方創生の核心を突く反省といえるのではないでしょうか。
「地方創生2.0」では、これまでの反省を踏まえた上で「若者・女性にも選ばれる地方」を主眼とし、賃金上昇、働き方改革、アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)の解消などを進めることで、地域の子供たちが地域の魅力を再発見し、将来を考え行動できる教育を重視するなど、様々な観点から方向性が示されたのです。
ここまで「地方創生2.0」の基本的な考え方と、これまでの反省点、そして今後の方向性を見てきましたが、あなたの住むまちが「どんな未来を目指しているのか」、具体的な言葉で説明できるでしょうか。
もし、地元自治体の総合計画などに記載されている「将来像」や「都市像」が、近隣の地域と同じような、何処の地域にでも当てはまる抽象的なものであれば、残念な思いを抱き失望するかもしれません。
これからの時代は、それぞれの地域が「自分たちだけの理想的で創造的な将来像」を誰もが解かるような言葉やキーワードで表現し、政策・立案に反映させることが何よりも重要になります。
例えば、かつて「スーパーシティ」構想を形容する言葉として「ドラえもんの世界」という表現が使われたように、住民に向けて誰もがワクワクするような、直感的にイメージできるフレーズが必要なのです。
「この地域でしか体験できない未来は何か?」「どんな暮らしがこのまちで実現できるのだろう?」そう問いかけながら、地域の個性や魅力を最大限に引き出す、そんな言葉を生み出すことが地域住民の共感や行動を促す第一歩となるはずです。
このとき、外部のコンサルティング企業に丸投げするのは、最も避けるべき行為です。有能なコンサルタントは、課題分析のフレームワークを提供し、陥りがちな「過ち」を防ぐアドバイスを与えてくれる心強いパートナーになると考えられます。
しかし、本当の意味で「自分たちが目指す未来」を表す言葉を生み出せるのは、地域住民や自治体職員など、地域に根ざして活動しているプレーヤーと、まちを愛する人々ではないでしょうか。
優秀な家庭教師を付けても、本人にやる気がなければ成績は上がりません。家庭教師は学力向上の確率を高める可能性はありますが、目標達成の主役はあくまで自分自身なのです。自治体とコンサル企業の関係もこれと同じではないでしょうか。
他の自治体での成功事例を「うちの地域でもできないのか?」、こんな声が上がることがあります。もちろん、先進事例から学ぶことは大切ですが、ここで大切なのは「そのまま真似すること」ではありません。
「自分たちの地域課題は何なのか?」「その課題の根本的な原因は何だろう?」これらの視点から地域を深く掘り下げ、先進事例の「本質的な要素」「成功に至るプロセス」を見極めながら、自分たちの地域に合った政策を策定していくことが重要です。
「いま、実施している施策や事業は、本当に地域課題の解決に繋がっているのか?」「もし効果が薄いなら、思い切って廃止することも含め、見直すべきではないか?」これらの設問と向き合い、「本当に効く施策」に人手や財源など限られたリソースを集中させる必要があります。
例えば、「仕事」を創るという観点から考えると、これまでのように大手企業の工場を誘致するだけでは、地域から流出した若い世代など、ターゲットとなる人材を呼び戻すのは難しいかもしれません。
この先は、企画・マーケティング機能と研究開発部門がセットになった「本社機能移転」や、業界でトップシェアを持つ「ニッチトップ企業の誘致・育成」「若年女性の起業・副業・兼業支援」など、難易度は高くても持続性確保へ向けた人口減少克服手段が求められると思われます。
平成の大合併を経て、日本の自治体は一度規模を拡大しています。しかし、その後の20年間の人口減少によって、再び自治体規模は縮小の一途をたどっています。特に人口の少ない小規模自治体では、全ての施策や事業を「フルセット」で実施することが限界に近づいています。
今の自治体規模で、本当に独自性のある施策や事業を生み出す「知恵」や「力」が保持できるのでしょうか。この問いは、私たちに重くのしかかっています。もちろん、いきなり「合併を!」という話ではありません。
そこで重要になるのが、「広域連携」や「事務の共同化」です。周辺の自治体と連携し、共通性の高い事業を一緒に実施することで、効率化を図ることが可能になります。
もちろん、自治体ごとに異なる業務プロセスを調整するのは大変です。しかし、「完全に統一しなければ共同化は無理!」と諦めるのではなく、部分的にでも共通化できるところから進めるなど、柔軟な発想が必要です。
そして、この広域連携や事務の共同化を進める際には、徹底的な業務改革とデジタル活用が欠かせません。一度共同化したものを見直すには多大な調整コストが掛かるため、最初からデジタル化をフル活用し、最も効率的で持続可能な業務プロセスを確立することが未来の自治体運営には不可欠になります。
決して道のりは平坦ではありません。しかし、私たちひとり一人が、それぞれの立場で「どうしたらもっと私たちのまちが楽しくなるだろう?」という視点で、これまでの経過を真摯に反省し、積極的に議論しながら行動することが肝要です。
いまこそ、デジタルツールを最大限に活用した自治体の施策そのものを「再定義」した「変革アクション」が必要ではないでしょうか。