2025年6月24日、マイナンバーカード機能のiPhone搭載がスタートしました。これにより、iPhone XS以降でiOS 18.5を搭載している機種であれば、スマートフォン(以下一部、スマホ)から顔や指紋での認証「Face ID」や「Touch ID」で、マイナポータルへのログインが可能になります。
実際にスマホに搭載されるのは、マイナンバーカードのICチップの中にある「電子証明書」と呼ばれるデータで、インターネットの世界で、間違いなく本人であることを証明するため「公的個人認証」機能が利用可能になったのです。
既に、2023年5月からサービスを開始しているAndroidスマホへのマイナンバーカード機能搭載に加えて、市場シェア60%以上といわれているiPhoneへの搭載がスタートしたことで、今後マイナンバーカードの活用は、スマートフォンからの利用が中心になっていくと思われます。
このマイナンバーカード機能のスマホ搭載によって、日常的に持ち歩いているスマホから、引越し手続きや児童手当の申請などの手続きをオンライン上で申請することが可能になり、市役所の窓口へ行かずにスマホ一つで完結できるようになります。
また、住民票の写しや印鑑登録証明書などを、コンビニのマルチコピー機で取得することができるコンビニ交付サービスや、銀行の口座開設、携帯電話を契約する際の「本人確認」がネット上で可能になり、民間サービスでの活用が期待されています。
ただし、ここで一つ大切なポイントがあります。スマホに搭載される機能は、あくまで物理的なマイナンバーカードを「原本」とすると、その「副本」のような存在だということです。
この仕組みによって、「原本」のマイナンバーカードが紛失や盗難、有効期限切れなどで失効した場合には、スマホの中の「電子証明書」は自動的に無効化されるなど、デジタル的な複製を作れない点がセキュリティ上の特徴になっています。
いつも持ち歩いているスマホに身分証明書を入れるなんて、リスクがあるのでは? と感じる方もおられるかもしれません。しかし、心配はご無用です。マイナンバーカードのスマホ搭載では、皆さんの大切な情報を守るための、何重もの強固なガードシステムが構築されています。
スマホの電子証明書を利用する際には、その都度、iPhoneの「Face ID(顔認証)」や「Touch ID(指紋認証)」などの生体認証が必要になるので、万一、スマホを落として悪意を持った人の手に渡ったとしても、あなた自身の顔や指紋がなければ、スマホ内の情報にアクセスすることはできない仕組みになっています。
そして、「電子証明書」などの重要なデータは、スマホ本体のメモリとは隔離された「セキュアエレメント」と呼ばれる、非常にセキュリティレベルの高い専用のICチップ内に格納することで、不正なアプリなどによるデータの抜き取りを防止しています。
また、国が一元的に個人情報を管理しているので、一度ハッキングされたら全ての情報が流出するのでは? という不安の声も聞かれますが、これも大きな誤解です。マイナンバー制度では、年金・医療などに関連した個人情報は、それぞれを保管・管理する別々の組織が「分散管理」することで、リスクを低減させています。
マイナンバーは、あくまで各機関が情報を連携する際の「鍵」として使用されるだけですので、仮に一つのサーバーが攻撃を受けても、そこから芋づる式に全ての個人情報が抜き取られる危険性は極めて低い仕組みになっています。
さらに、物理カードのICチップ自体も、不正に情報を読み出そうとすると壊れる仕様になっていることや、万一スマホを紛失した場合は、24時間365日対応のコールセンターに連絡することで、機能を停止させることも可能など、様々な安全対策が施されています。
いま私たちは、当たり前のようにスマートフォンを日常的に利用していますが、そこにマイナンバーカード機能が搭載されることで、我々の暮らしはどのように変化するのでしょうか。
一例を挙げると、決済アプリと組み合わせることで、お酒などの年齢確認が必要な商品をセルフレジで購入することや、これまで対面確認が必須だったホテルでのチェックイン作業をアプリ上から行えることで、宿泊客はデバイス上で「デジタルキー」を受け取り、そのまま部屋へ直行することが可能になります。
そして、2025年9月から医療機関で実証が開始された、Androidスマートフォンでの「マイナ保険証」のスマホ利用について、iPhoneでも順次対応可能となることが、医療分野における「マイナ保険証」利用促進の重要な転換点として期待されています。
この仕組みが本格的に普及すれば、スマホを専用のリーダーにかざすだけで資格確認が完了するだけではなく、過去の薬剤情報や特定健診の情報を医師と共有することに同意することで、より質の高い医療体制を享受することも可能になります。
自然災害やパンデミックなどの緊急時においても、過去の健診データや投薬履歴などの医療情報を医師が適切に把握することで、不要な検査を繰り返すことなく、個人の病歴や持病に合わせた、より的確な治療を受けられる可能性が高まります。
外出先で災害に巻き込まれた場合も「マイナ保険証」があれば、駆け込んだ病院であなたの医療情報(検査データや常用薬など)が共有され、より良い医療のために活用されます。これが「マイナ保険証」がもたらす最大のメリットではないでしょうか。
また、日常の生活シーンにおいても、Apple Payなどの決済サービスや、交通系ICカード、クレジットカードなどを、Walletアプリに登録することができますが、今後はコンサートチケットや、一時的なデジタルキーなどが、スマホ上のアプリに集約されていくと思われます。
ここで留意すべきは、「個人認証」機能がスマートフォンに搭載され、デジタル化したことで、本人を確認する「認証プロセス」が、従来とは大きく変化したことを理解していることが重要なポイントであることです。
従来の確認作業がデジタル化されたことで、「電子証明書」の有効性確認や、データそのものの真正性の検証によって、セキュリティレベルが向上すると同時に、「不必要な情報を相手に渡さない」運用が実現するのです。
今後、様々な業界のサービス提供事業者は、「個人認証」「デジタルキー」「決済手段」という3つの要素がスマートフォンに入っていることを前提に、ユーザーの利便性を向上させながら、サービス向上を図ることが求められると思われます。
今回のiPhoneへのマイナンバーカード機能搭載は、実はもっと大きな、世界的な潮流の中に位置づけられる動きで、その中心にいるのが他ならぬApple社です。
Appleは、iPhoneの「Wallet」アプリを単にクレジットカードや交通系ICカードに対応した「デジタルの財布」から、個人の身分を証明する「デジタルID」へ進化させようとしています。
アメリカ国内では、既に一部の州で運転免許証や州発行の身分証明書をWalletアプリに登録することが可能になり、空港の保安検査場などで利用が始まっています。
Appleはさらに、パスポート機能のスマホ搭載も視野に入れて、同社のサイトにはそれを示唆する記載があるなど、将来的には海外旅行もスマホ一つで、という未来を描いていますので、今後iOSのアップデートには大きな期待が寄せられています。
またこの動きに関連して、iOS 26ではApple Walletの「搭乗券」機能が大きく進化し、フライトの遅延やゲート変更があれば、すぐ画面上に表示する「Live Activities対応」や、搭乗口やラウンジ、荷物受取口までのルートを案内する「空港マップ連携」、AirTag対応スーツケースの位置をチェックできる「Find My連携」など、空港内での移動を支援するサービスの提供が始まっています。
Appleによると、対応する航空会社も順次拡大中で、最初に「搭乗券」機能を導入した「United Airlines(ユナイテッド航空)」に続いて、「American Airlines」「Delta Air Lines」「Air Canada」「Virgin Australia」「Lufthansa Group(ルフトハンザ グループ)」など、9社が順次対応の予定と発表しています。
いま、Apple社を中心に世界規模で推進されている、スマホを活用した様々なサービス展開の背景には、免許証やパスポートのデジタル登録に向けた基盤の整備と、同社が進めている「デジタルID」の統合構想があると思われます。
つまり、Apple Walletはカードを登録するアプリから、個人認証と移動支援サービスのハブへと進化しようとしているのです。本人確認から支払い、搭乗券の発行や荷物の追跡までを一つの仕組みの中で連動させる、これがAppleの描く次のステップではないでしょうか。
近い将来、iPhoneでチェックインして、Apple Watchで搭乗、AirTagで荷物を追跡し、Vision Proで現地のナビを見るなど、全てのサービスや体験が一つの「デジタルID」で繋がっていくのかもしれません。
日本国内においても、JALやANAでは既にAPIレベルではAppleの最新仕様を取り入れられるよう準備が進んでいるといわれていますので、今後は「フライト情報の自動更新」「手荷物トラッキング連携」などが使えるようになる可能性があります。
今回のiOSアップデートで、Apple Walletはデジタル化した財布から、旅の情報を提供し、そのための移動を支援するパートナーへと進化しています。いまは米国中心の動きですが、マイナンバーカード機能のiPhone搭載など、技術的な基盤整備は既に日本国内でも始まっていると思われます。
今後は、顔認証ゲートや、マイナンバーカードとパスポートのデジタル統合など、行政と様々な事業者の連携が進展することで、日本でも「デジタルID」や「Wallet」を活用した「新しい旅」が始まるのかもしれません。