図書館システムの歴史
 ~システムは成長する有機体

図書館つれづれ [第2回]
2014年7月

執筆者:ライブラリーアドバイザー
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

コラムを担当することになったと知人に話したら、是非図書館システム(コンピュータシステム)の歴史について触れてほしいと要望がありました。
今回は図書館システムの歴史についてエピソードに触れながらお話しします。記述の年代は私の関わった図書館を基にしましたので、実際は数年のずれがあるかもしれません。ご了承ください。

ハードの歴史:汎用機からUNIX、そしてクラウドへ

図書館システムのコンピュータ化の歴史は古く、1970年代には既にシステム化されていました。
私が関わっていたシステムの原型は、外資系のハード(ハードウェア)だったため、日本語辞書の構築に大いに苦労したと聞いています。

日本の図書館システムは、アメリカと比べると、蔵書管理システムより貸出システムとしてスタートしました。いまでこそ、小さなサーバになりましたが、当時のハードは汎用機を使っていて、とても高価で、ソフト(ソフトウェア)は「ハードのおまけ」みたいな時代でした。

1980年代に入ると、ハードに依存しないUNIX(注1)の図書館システムが現れます。
私たちが関わるようになる前身のシステムも、この頃生まれました。UNIXには仕事の優先順位という概念がなくて、貸出処理も統計処理も同じように並行に処理します。そのため、早く処理してほしい業務をいかに早く処理させるかが、当時は課題でした。

2007~2008年くらいからクラウドコンピューティング(インターネット経由で提供されるさまざまなサービス)が話題になりました。図書館システムで提供されるクラウドは、ハードもアプリケーションも提供するSaaSと呼ばれるサービスです。即ち、インターネットの環境さえあれば、利用可能になるのが図書館システムのクラウド版です。

クラウドの利点は、サーバの調達をしなくてよいので、価格が抑えられ安価になります。
データは雲の上にあるので、サーバのお守りをすることはありませんし、ディスクの容量の心配をすることもありません。一方で、問題点もあります。
雲の上のサーバは、多くの図書館と共有するので、システムの個別カストマイズが難しくなります。データは手元にないので、移行作業などのそれなりの対処はあらかじめ決めておかないと大変なことになります。

また、個人情報を預けるので、個人情報保護条例に従わなければならず、場合によっては条例の改定に議会承認が必要となります。クラウドは数の論理です。たくさんのユーザが同じハードを共有すればするほどハードや施設利用料は安くなります。クラウド版の図書館システムは、比較的小規模の図書館に向いているシステムといえるでしょう。

インターネットが変えたシステム

1992年に、現在は沖縄のOIST(沖縄科学技術大学院大学)副学長代理の森田洋平氏が、日本で最初にホームページを発信しました。当時の森田氏でさえ、今のようなインターネット世界は想像できなかったそうです。インターネットはその後猛スピードで普及し、今では、インターネットなしでは生きていけない時代になりました。

便利なものには必ずリスクが伴います。回線を通じての犯罪行為に対処するためのウイルス対策やセキュリティ対策は、システム提供会社側にもネットワークエンジニアの育成を強いられました。DOS攻撃の対応にも苦慮します。図書館のサーバが踏み台になった事件は、私たちも経験したことがあります。

当初はメモリもCPUも高くて十分なハード構成でなかったから、Googleの検索エンジンがアクセスしただけでも検索が“ピタッ”と止まってしまい、心臓も止まるような思いをしました。
2010年3月に発生した岡崎市立図書館のLibrahack事件は、図書館内部にも反響を及ぼしました。もはや、図書館の方々も「インターネットはしらない」なんて言っておれない時代になりました。

インターネットでの書影表示が新しい機能のように言われていますが、1990年代に、デジタルカメラで絵本の表紙を撮影し、館内OPACで書影表示を実現していた図書館がありました。デジタルカメラが1台100万円近くしていた時代です。回線も128KBと今とは比べ物にならないほどの遅さでした。画像データをその都度サーバに取りにいくのでは、貸出・返却のレスポンスに大きく影響します。パソコンに蓄積されていない画像だけサーバへ取りにいく工夫をしてシステム構築をしました。

カーリルの横断検索(注2)が図書館界では話題になっていますが、2003年に、近隣の図書館システムを解析して横断検索を作り、インターネット上で公開した図書館長がいました。当時の図書館の方々はしっかり未来を見据えて仕事をしてきたのだと、改めて思います。

都立図書館の横断検索が始まると相互貸借での貸出が増えるようになりました。公共図書館の資料費削減が拍車をかけ、図書館システムに相互貸借機能を構築しました。そうして、インターネット上での貸出状況の表示や予約が始まっていき、通信データの暗号化(SSL)も必須となっていきました。

インターネット上で予約ができるようになると、予約のキャンセルも実現しましたが、これが結構トラブルになりました。利用者が自分でキャンセルしたのか、職員の操作ミスなのか、どちらかわからなくなってしまうのです。そのため、解除はインターネットからなのか、それとも業務端末なのか、履歴を確認する画面「予約キャンセル履歴」の要望が出てきました。必要に迫られて構築しましたが、予約のキャンセル履歴といえども、立派な履歴です。いつまで保管するのかが問題になり、システムパラメータで期限を設け、期限を過ぎると自動的に削除するようにしました。

インターネットでの予約は、図書館の職員の運用も大きく変えました。朝の数時間は、皆さん大変な思いをして棚から本を抜き出し、利用者のリクエストに応えているのではないでしょうか。

インターネットから外れますが、2000年問題というのもありました。昔はハードもメモリもとても高かったので、少しでも節約しようと、西暦は下2桁しかデータとしてもっていなかったのです。
2000年になると、“00”年になってしまい、1999年の“99”年より古くなって矛盾が起きてしまいます。
システムはこぞって回避するための改造を行いました。プログラムが正常に動くのを見届けるため、私たちも大みそかに徹夜して待機したのを覚えています。元号区分を持たずに管理をしていたシステムでは、昭和から平成になった時に同じような混乱があったと聴いています。

法律がシステムを変える

システムは、法律とも大きな因果関係があります。
1997年に学校図書館法が改正され、2001年に制定された「子どもの読書活動の推進に関する法律」の具体化のため、文部科学省が学校図書館のモデル事業に着手しました。それまで未着手だった学校図書館のコンピュータシステムが手掛けられるのはこの頃からです。

2000年に電子自治体構想が発表されました。住基カードは中々普及せず、そこで、利害関係の少ない図書館に白羽の矢が当たりました。補助金を利用して随分と大規模なシステムのカストマイズをしたのですが、住基カードの利用は普及までには至りませんでした。
2003年に個人情報保護法(注3)が施行され、セキュリティやプライバシーへの配慮が強化されていきます。

職員がカウンターに入る度にID、パスワードの入力をする業務権限機能もこの時生まれました。図書館の職員は、カウンターにいるかと思えば、利用者を案内するなど絶えず動いています。自治体からの要望に、当初私たちも戸惑いましたが、ID権限により不必要な業務には展開できないように構築しました。特に大きな図書館では、この業務権限機能が使われています。

システム提供会社はプライバシーマーク(注4)の取得が必要となり、保守体系も変わりました。今までは電話1本で済んでいたリモートメンテナンス作業は、メールで受け付け、作業許可をもらい、別室で作業をして報告書を作成しなければならなくなるなど、手順が一段と複雑になりました。コンプライアンスや説明責任が要求されて、システム提供会社にも図書館にも事務手続きに手間のかかる時代になっていきます。

新しい図書館のかたち

2003年に、六本木のアークヒルズライブラリー(注5)が開館しました。会員制の図書館は、図書館に“ステイタス”という付加価値のあり方を示しました。

2004年は、山中湖創造館が指定管理者第1号と謳われた年でした。人件費効率化のため、システムと電話網をつなぎ業務の効率化を実現するCTIサービスや、ICタグを利用した自動貸出機、自動返却仕分け機のシステムも出現しました。
自治体財政はますます逼迫し、2006年に横浜市で貸出レシート広告を採用しました。利用者サービスの一環でコンビニ受取サービスも現れました。コンビニ受取サービスは、聴くところによると、本が図書館を出るときに、既にコンビニ館で貸出状態にしているようです。

ビジネス支援やジェンダーフリーが話題になり、貸出・返却などのカウンター内部業務から利用者サービスを意識したレファレンス検索などもシステムに取り込まれていき、システムの性別コードを廃止した図書館もありました。

2009年はiPadやKindleが出てきて、電子書籍が巷に現れ始めました。「図書館が消える!」と随分話題になりましたが、電子書籍の話もかなりトーンダウンしています。利用者へのサービスはますます拍車がかかり、アマゾンのようなリコメンドサービスや“My本棚”を提供する図書館も出てきました。

技術の進歩は際限がありません。私が退職した2011年以降も、Androidやおサイフケータイ対応などシステムは日進月歩で進んでいます。2012年に国会図書館がJAPAN/MARC(注6)を公開しましたが、まだ公立図書館への普及までには至っていません。

図書館もまた、2013年に武雄市図書館でCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)社を指定管理者とした運営が話題になり、その影響は多賀城市や海老名市などへも波及しています。

最近では、市川市の行財政改革大綱(注7)に見られるような、図書館のあり方そのものを問うような報告もされています。

システムの移り変わりをざっと見てきました。インドの図書館学の父と呼ばれたランガナタンは、「図書館は成長する有機体」と唱えましたが、図書館運用のツールとしてある図書館システムも又「成長する有機体」なのです。
公共図書館はこれからどこに向かっていくのでしょうか。

最後に、先日お会いしたある図書館館長が話された、「今の図書館がずっと続くような社会を守りたいですね」という言葉をお伝えして、今回は筆をおきます。

注釈

注1)UNIX
1968年にアメリカAT&T社のベル研究所で開発されたオペレーティングシステム(OS)。C言語というハードウェアに依存しない移植性の高いプログラム言語で記述され、ソースコードが比較的コンパクトであったことから、多くのプラットフォームに移植された。

  • 注2)カーリルの横断検索(https://calil.jp/)
  • 注3)個人情報保護法(http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H15/H15SE507.html)
  • 注4)プライバシーマーク(https://privacymark.jp/)
  • 注5)アークヒルズライブラリー
    (https://www.mori.co.jp/company/press/release/2013/05/20130522113000002640.html)
  • 注6)JAPAN/MARC(https://www.ndl.go.jp/jp/library/data/jm.html)
  • 注7)市川市の行財政改革大綱(http://www.city.ichikawa.lg.jp/common/000178537.pdf)

トピックス

どちらも少し時間が経ってしまいましたが、お知らせしたくて記載しました。

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    情報ステーション(http://www.infosta.org/)は船橋市を中心に“まちづくり”をキーワードに、図書館活動をしている団体です。
  • 村岡花子著の「たんぽぽの目」(http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1169930/1)
    NHK朝ドラ「花子とアン」にも紹介された村岡花子著の「たんぽぽの目」は、近代デジタルライブラリーで読むことができます。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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