東北ツナガルツアーからの報告
図書館つれづれ [第44回]
2018年1月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

友達と東北の図書館を訪ねてきました。旅の目的は、もう一つ。本コラム40回で紹介した、さんぶの森図書館の豊山さんが、「全国地域づくり人財塾」でつながった元気な公務員の方々を訪ね、私たちも‘ツナガル’のが目的でした。今回は、その報告です。

1.訪問した図書館から

今回訪問した図書館は7館。同行者の一人である慶應義塾大学非常勤講師の長谷川豊祐氏がまとめてくださった表からの抜粋です。

館名市立米沢
図書館
山形市立
図書館
東根市
図書館
由利本荘市
中央図書館
八郎潟町立
図書館
国際教養
大学中嶋記念
図書館
秋田県立
図書館
延床面積
(平米)
(3,857)3,150(504)2,5256851,87012,446
蔵書冊数
(千冊)
(291)303(46)1521878860
奉仕人口
(千人)
(85)25148826.31,310人1,057
登録者数
(千人)
(31.2)41.0(28.9)16.71,564人--107.1
貸出数
(千冊)
(282)791(82)2082213409
2016年度
予算:
図書館費
(千円)
(134,546)87,373(21,279)31,8915,00061,593(*)170,195
同:資料費
(千円)
(15,900)24,206(2,321)10,8905,00013,658(*)38,311
新館竣工
年月
(2016.7)1979.72016.112011.12.192015.42008.31993.11.2
複合施設-
フリー
WiFi
専任(人)215(1)53224
非常勤(人)1913(9)112--14
パート(人)【6】
  • ※ 数値は『日本の図書館 2016』によるデータ
  • ※ 登録者数,貸出冊数は2015年度実績,(*):2015年度決算
  • ※ ()は旧館参考データ、【】は新館参考データ

最近の建築は全て複合施設で、県産の杉をふんだんに使った建築が目につきました。運営方式は様々ですが、それぞれが個性的な運用をされています。各館の特徴を少し記載します。

山形県 市立米沢図書館(注1)

村野隆男館長は、東京国立博物館の展覧会の企画・運営のあと、米沢市上杉博物館を手がけた、博物館のプロです。2008年より図書館に関わり、実質的には2010年に新図書館、新市民ギャラリーそれぞれの整備検討委員会を立ち上げることから始まったそうです。住民の意見を吸い上げ、図書館と市民文化ギャラリーの文化複合施設「ナセBA」が開館しました。倉庫には、展示会用の品々をコンパクトに納める、館長ならではの工夫がありました。図書館は5階まで吹き抜けで、壁一面に本物の本が詰まっている姿は圧巻でした。

市100%出資の財団の指定管理ですが、正規採用されているという強みからか、利用者への気配り、ポップの見せ方など、司書力は半端ではありませんでした。

山形県 山形市立図書館(注2)

昭和54年に開館した図書館です。住宅街の中にあり、決して立地条件はよくないにも関わらず、多くの利用者が訪れていました。当時は斬新なデザインだったのでしょう、スロープと柱が特徴的な建築が目を引きます。歴史のなせる業か、サービスもそれだけ利用者に浸透していて、調和を感じた図書館でした。図書館の玄関前には、ボランティアの方々の活動を展示する場があり、皆さんと共に育てていく姿勢を感じました。

山形県 東根市図書館(注3)

合施設「まなびあテラス」は、PFI方式による指定管理者の運用です。市民や地域を支える情報拠点としての図書館のほかに、美術館、市民活動支援センター、都市公園からなる複合施設です。講座室やラウンジ、プリント工房や電気釜を持ったアトリエもありました。カフェは、なんと、図書館の中からでも注文できます。蓋つきの飲み物は、図書館に持ち込むことが可能で、居心地の良さは抜群でした。銀行やNPO経験者などの地元出身の人材確保ができているからか、ビジターへの対応はとても素晴らしかったです。運営は、制度の問題ではなく、やはり「人」なんだなあと改めて思いました。東根市は新しい街、これからの発展が楽しみです。

秋田県 由利本荘市中央図書館(注4)

図書館は、文化交流館「カダーレ」の中にあります。まるで宇宙基地のような建物で、映画「図書館戦争」のロケ地になった水戸市立西部図書館などを手がけた、新井千秋都市建築設計です。館内には、ギャラリーやホール、会議室、和室、レストランのほかに、スタジオや茶室やプラネタリウムもある、まさに一大文化交流館です。

図書館内の色調は濃い茶色で統一され、カウンターの高さも結構高く、サインなどにも設計者のこだわりを感じました。建築前に図書館の意見を述べる機会はなかったそうで、設計者の意向とそぐわない部分を、司書の方々が工夫しながら使っていました。

秋田県 八郎潟町立図書館(注5)

複合施設「はちパル」は、大きく、図書館、子育て、交流の3つのゾーンからなっています。 図書館が、構想からたった1年10カ月で開館できたのは、秋田県立図書館の支援がとても大きかったとお聞きしました。開館時には、人の支援もおこない、全面的にバックアップしたそうです。面白いところでは、小さなFM局もありました。コンパクトにまとまった工夫がされていて、小さいながらも濃縮されたメッセージを感じました。

秋田県 国際教養大学中嶋記念図書館(注6)

秋田市にある、授業は全て英語でおこない、1年間の海外留学を義務付けるなど、グローバルな人材教育を理念とする国際教養大学の中にあります。日本一美しい図書館と称されるだけあって、まさに別世界。知人は、「ここは日本ではない!」と絶句していました。図書館は、24時間365日開館で、窓口業務もサービス業務も業務委託です。図書館に限らず、国際教養大学全体が落ち着いた学習環境を提供していました。

秋田県 秋田県立図書館(注7)

県立図書館の目標は、「打って出る」。入口の一等地にあったのは、郷土の資料でした。階段に掛かっていた大きくて素敵な壁かけは、「あきたこまち」のもみ殻でできていました。児童のカーペットも、もみ殻からできたカーペット。水をこぼしても拭くだけの丈夫な優れものは、ビジネス支援から生まれたそうです。地方創生は、平成27年度の主要課題で、「雇用創出のための産業振興」、「少子化再作」、「移住・定住対策」に関する資料が集められていました。高校や特別支援学校に対しては、テーマごとに本をコンテナに入れて貸出しています。全ての活動に、秋田県立図書館の「覚悟」のようなものを感じました。

2. 自治体職員とツナガル

今回私たちが旅先でお会いした自治体職員のうち、後藤好邦氏(山形市役所企画調整部企画調整課交通企画係 係長)と、神坂文康氏(由利本荘市総務部秘書課秘書班 主任)のお二人から、色々なお話を後日伺うことができました。

そもそも、お二人と豊山さんとの出会いは、総務省主催の「全国地域づくり人財塾」がきっかけでした。お二人とも自治体以外の図書館職員と出会ったのは、その時が初めて。後藤氏は、佐賀県武雄市の図書館など、新しい運営方法が生まれていることを知ってはいたものの、図書館は学生が勉強している静かな空間というイメージが強かったそうです。神坂氏は、武雄市など自治体の図書館を視察した経験があったものの、その他の図書館関係者の方々と交流する経験はなかったそうす。お二人にとっても人財塾での出会いは、良い出会いだったそうです。

親交を深めていくうちに、豊山さんの図書館の様々な取り組み(例えば、夜の図書館たんけんや、書籍のお楽しみ袋詰め貸出セットなど)の話を聴き、図書館は、ただ図書の貸出をするだけでない、「地域の人に読んでもらう、楽しんでもらうという思いによって、地域の中でのサードプレイス機能」をより強く感じるようになりました。そして、図書館に対するイメージというよりは、図書館職員に対するイメージが変わりました。前例にない斬新なことにチャレンジする図書館職員が、少なくともお二人の周りには見当たらなかったそうです。後藤氏は、私たちに、地元で頑張っている図書館職員を引き合わせ、ツナイデくれました。

さいごに、「自治体として今後図書館に求めるものは?」とお聴きしました。あくまで私的な意見と前置きして、こんな言葉が返ってきました。

「市民の方等に本に親しんでいただくことや、歴史的な文献を保存することなど、本来、図書館が持つべき役割に加え、市民同士が繋がる場づくりであったり、市外の人を呼び込むための集客施設としての役割が、図書館には今後ますます求められてくると感じています。つまり、図書館にも多様性が求められているということです。それらの役割のうち、何を重視すべきかは、それぞれの自治体に住む住民が決めることですので、住民ニーズの把握に努め、そのニーズに合致した図書館づくりが重要になってくると思います。いずれにしても、図書館として本来持つべき本質と新たに求められる価値観を融合させ、守るべきところは守り、変えるべきところは変えていきながら、市民に愛される図書館にしていくことが自治体として重要だと感じています。」

「本を読む、活字にふれる、などといった教育的側面も図書館の基礎的な役割として非常に重要であると思いますが、そこに加えて、先にふれたように地域の中でゆるやかに人が集うことのできる『場』としての側面が求められてくるのではないかと思います。もちろん多様な利用者がいるわけですから、静かに読書したい人、子どもと共に時間を過ごしたい人、逆にやることが無くて時間をつぶしに来ている人、それぞれの目的を阻害することなく、かつ集った人たちの中で新しく面白い考えや取り組みが生まれてくる場になると楽しいですね。それがカフェだったり、食堂だったり、公民館だったり、様々な形が考えられますが、その選択肢の一つとして図書館が加わるのではないかと思います。(もともとからそういう側面があるのだと思いますが)」

図書館だけでなく、全てのことに通じることですが、「変えるべきことと、守るべきことのバランスが、これからの時代は大事」との言葉、どう受け止められましたでしょうか?

役所の仕事など縁のなかった私ですが、次回は、神坂氏も出向していた一般社団法人地域活性センターと図書館の関わりを、探ってみようかと思います。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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