dlib(ディープライブラリープロジェクト)の紹介
図書館つれづれ [第42回]
2017年11月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

dlib(ディープライブラリープロジェクト(以下、dlib))ってご存知ですか?今回は、私も少し関わっているdlibについてお伝えします。

1. dlibとは

私が専門図書館を知るきっかけは、定年退職後の2011年11月に開催された、公共図書館と専門図書館の連携を目指す初回の『産学官民!!情報ナビゲーター交流会』でした。その半年後、機械振興協会研究所のBICライブラリ(注1)が市政専門図書館(注2)と横断検索をすることとなり、システム開発にはカーリルが採用され、行きがかり上、私も末席に身を置くことになりました。まさかこれが、「専門図書館をつなぐ」夢の実現の第一歩なるとは、夢にも思っていませんでした。

専門図書館の蔵書の多くは、一般には販売していない雑誌や報告書や技術情報などISBNのない資料です。一方、カーリルが今まで手掛けてきた公共図書館の横断検索では、ISBNが串刺しキーとして使われていました。だから、同じ手法は専門図書館の検索には通じません。開発のもう一つの条件は、それぞれの専門図書館が現行使っているシステムに手を加えずに実現することでした。参加する専門図書館のシステムに修正が必要となると、別の予算が発生するからです。

こうして、2014年3月にBICライブラリと市政専門図書館との横断検索が実現しました。打ち合わせや専門図書館の集会などに参加するうちに、専門図書館の知識の集約の深さに驚きました。もしかしたら公共図書館の方々も専門図書館の存在を知らないのではと感じ、本コラム第5回(注3)で専門図書館を紹介したのです。

そんなとき、カーリルの吉本氏から、「専門図書館ってディープな資料がある場所だよね。例えば、『どんなこと知りたい?』という窓があって、何か入れると、『それには、こんな専門図書館があるよ』と教えてもらえる水先案内のようなツールがあると嬉しいよね」 という提案がありました。日本の公開型の専門図書館は、『専門情報機関総覧2015』(専門図書館協議会、2015.2)によると980館以上存在しますが、公共図書館にはあまり知られていないのが現状です。

ところが実際には、一般の利用者にも、研究者と同じように、より深い情報を必要としている方々がいるのです。これは専門図書館と公共図書館をつなぐだけではなく図書館と利用者の距離をぐっと近づけてくれるツールになるのではと思いました。

こうしてdlibは、公共図書館を利用する一般の利用者に専門図書館をもっと利用していただく目的で、2014年の暮れに発足しました。dlibの大きな2つの柱となる仕様も決めました。

  • dlibは、専門図書館の本の1冊を探し当てるより、利用者が求めるテーマに詳しい専門図書館へたどり着き、その図書館へ相談するきっかけをつくることに重きを置く。
  • WebOPACを持たない専門図書館にも参加できる仕組みをつくるため、蔵書だけでなく、Web上で公開している案内やPDFなどの諸情報も検索の対象とする。

dlibは当初より完成品を提供しているわけではありません。そして、今も、当初の仕様で完成していないものもあります。みんな手弁当の作業なので、まずは参加館を募り、公共図書館へリンクを貼っていただき実績を積むことを最優先としてきました。2015年3月の時点で参加表明している図書館は8館でした。

年が明けて2016年になると、大きな転機が訪れました。カーリルが画期的な横断検索のインフラを構築したのです。横断検索や統合検索には色々な手法が存在します。必要な情報をその都度Webサイトから抽出してくるデータ収集型の検索もあれば、事前にデータを受け渡すホスト型の検索方法などまちまちで、今までの横断検索ではその手法に合わせるための作業が必要でした。

でも、カーリルが開発したUnitradAPIは手法を選ばず、Googleの検索に似ています。検索された結果をキャッシュに保存し総合目録を作成する“横断検索型”のシステムだから、参加図書館への負担はほとんどなく、検索スピードがとても速いのが特長です。

一方で、実際にはあまり検索されないロングテールはヒットしないというばらつきがあります。当初、全てを網羅していないので、「これは検索ではない」と、私も戸惑いを感じていました。それでも、ロングテールのデータも、時間をかけて実績を積めば対象となっていくわけだからと納得できるようになりました。

これを受けて、参加館を個別に募るのではなく、WebOPACを公開している専門図書館をdlibに取り込む作業に取り掛かりました。2016年11月の図書館総合展では、約70館の専門図書館の横断検索が、シンプルで、日常業務を素早くこなす画期的な検索スピードで実現したのでした。

2. dlibフォーラム2017 vol.1

2017年7月10日に、dlibとして初めてのフォーラム「dlibフォーラム2017 vol.1」を、BICライブラリで開催しました。告知が遅かったにも関わらず、専門図書館、公共図書館、大学図書館、博物館、美術館、一般の方など、50名近い参加がありました。フォーラムの前半は、3人の講師の方から15分ほどずつ提議がありました。

福島幸宏氏(京都府立図書館)

デジタルアーカイブや書誌の統合などを手がけてきた福島氏は、本コラム32回(注4)でもお伝えしましたが、かねてよりISBNのない書誌について、横断検索時の書誌割れについて言及されてきました。今後更に情報の共有化が進んでいく中で、デジタルコンテンツの作成や収集に対し、長期アクセスを保証するために、できることを幾つか提言されました。

  • クリエイティブコモンズライセンスなどの利用規約の明示
  • 個別の資料・作品の情報を判別・識別できる重複しない管理番号を付与する
  • 特定のシステムやメディアに依存しないデータ形式とし、データの移行性を確保するetc

新出氏(白河市立図書館)

公立図書館中でも地域資料については、実は専門図書館と同じ機能や役目を持っていて、その収集や組織化や公開の課題など、運営体制も含めて千差万別です。とはいえ専門図書館と比べ、公共図書館は敷居の低さが強みであり、その強みを生かして、専門図書館への入り口となっているかと問いかけがありました。「専門情報機関総覧」を使っている公共図書館がどれほどあるか?資料を探す際に、今は、国会図書館のNDLサーチ、CiNii Booksにないものは、「ない」とするケースが多く、dlibによる発見につながればと期待の話がありました。

吉本龍司氏(カーリル)

dlib誕生の話から現在80館近くの専門図書館が横断検索でつながっていて、最終的には、カーリルはすべての図書館をつなぎたいと考えていると話しました。

後半は参加者も交えての意見交換でした。「博物館と専門図書館は似ているところがあるのに、図書館の場合は、そこにしかなくても出典を明らかにしていない」との指摘がありました。参加者に博物館の方がいたからこその視点でした。現在「JAPANサーチ」という博物館、美術館、図書館などの日本の文化資源を一斉に検索しようというプロジェクトが立ち上がっているそうです。でも、なぜか専門図書館のことが抜けていたとフォーラムの場で発覚しました。元々は文化資源ごとに中間サーバを介する設計のようで、dlibが専門図書館の仲介になればよいのではとの意見も出ました。「個別の情報ではなく、こんなところが強いという集合群検索があればよい」との意見は、懸案のプロフィール公開が実現すれば可能になりそうな意見でした。準備不足な上に、何か結論が出たわけではありませんが、dlibの方向性を皆さんと共有できた時間でした。

3. 次のステップへ向けて

フォーラムの意見も反映し、かねてから懸案だった仕様も幾つか改善し、dlibがバージョンアップしました。まずはdlib(注5)にアクセスしてみてください。

dlib.jpトップページ下に「後援:専門図書館協議会/BICライブラリ」を明記しました。専門図書館協議会の後援が得られたことで、dlibが怪しいサイトではないと身元が保証され、公共図書館からのリンクが貼りやすくなることを期待しています。運営名称も「ディープライブラリープロジェクト」と簡潔にしました。現在80館の専門図書館の横断検索が可能です。まずは、そのスピードを体感してみてください。

検索結果を地域のカテゴリで絞り込む機能もあり、検索結果から、その専門図書館のプロフィールも確認できます。dlibは、専門図書館の本の1冊を探し当てるより、利用者が求めるテーマに詳しい専門図書館へたどり着き、その図書館へ相談するきっかけをつくることに重きを置いているのです。

ホームの画面右上にある、「<公式ブログ」をクリックすると、dlibの活動報告が表示されます。公共図書館がdlibにリンクを貼るための素材は、画面左のリンクの「リンク用素材」にあります。

実現していない機能もあります。WebOPACを持たない専門図書館も参加できる仕組みをつくるため、今後は、ウィキペディアとの連携構想を膨らませています。横断検索をする時の課題のひとつは書誌同定ですが、これまでの検索結果のキャッシュが相当数保存されていて、必ずしもISBNを実装していない資料についても、このキャッシュの情報を元に書誌同定の可能性も出てきました。

ある公共図書館から、地元の地域資料をdlibに加えてほしいとの依頼がありました。公共図書館の地域資料は貴重な専門資料なのですが、公共図書館の一般書と同じデータベースで構築されています。追加したくてもdlibの検索結果に目的外の一般書まで表示されてしまうため、今は懸案事項になっています。参加館が増えれば、当然目的外の検索結果も増えます。この辺りもまた懸案事項です。

実現していないことはまだまだありますが、皆さんと協力してdlibを育てていけたらと願っています。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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