地域活性化センターと、つながりによるまちづくりinもばら
図書館つれづれ [第47回]
2018年4月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

オフサイトミーティングってご存知ですか?職場を離れて色々な方々と意見交換する場を言うのだそうです。都道府県及び市町村立図書館は、自治体の一組織です。今回は、東北ツナガルツアーで知り合った自治体職員の方が出向していた一般財団法人地域活性化センターと、千葉県茂原市で開催されたオフサイトミーティング「つながりによるまちづくり~ネットワークのススメ~inもばら」の報告です。私にとって、どちらも未知の世界の扉でした。

1. 一般財団法人 地域活性化センター(注1 以下、地域活性化センター)

地域活性化センターは、活力あふれ個性豊かな地域社会を実現するため、ひとづくり、まちづくり等地域社会の活性化のための諸活動を支援し、地域振興の推進に寄与することを目的として、全国の地方公共団体と多くの民間企業が会員となって設立されました。もう30年以上の歴史があるとのことですが、私は名前さえ知りませんでした。お恥ずかしい限りです。伺ったのは、東京駅に近い日本橋丸善の隣のビルの中。このビルの1階には、全国の市町村のパンフレットが揃えられていて、自由に持ち帰れます。旅行会社などが出すパンフレットとは違い、宣伝などがないから、例えば修学旅行のレファレンスなどにも使えます。地域活性化センターは、人材育成事業、情報提供事業、助成金事業の3つの大きな事業展開をしています。人材育成では、地方公共団体から研修生を受け入れる人材養成塾をはじめ、全国地域リーダー養成塾、地方創生実践塾など様々な事業が行われていて、卒業していった塾生へのフォローも充実しています。戴いた地域づくりの情報誌に目を通してみると、NHKのドキュメント番組に取り上げられた地方創生のまちづくりがたくさん紹介されていました。情報提供には、出向している自治体職員の記事もあれば、自主研修グループの報告もあります。防災・減災・復興支援などの団体活動の事例集も別冊でいただきました。

今回インタビューに付き合ってくださったのは、自主研究グループ図書館チームの谷田由香氏(出向元:北海道名寄市)、稲葉淳一氏(出向元:奈良県生駒市)、加藤淳子氏(出向元:秋田県由利本荘市)のいずれも30代前半の若い3人です。ちなみに加藤氏は、事務局としてリーダー塾の仕事をしています。受講料はなし、宿泊費、旅費etcは自治体負担です。加藤氏は、図書館から広報課も経験する由利本荘市派遣2代目。最初に指名されたときは、「なぜ自分!?」とビックリしたけど、外を見るチャンスと思ったそうです。稲葉氏は、生駒市では初めての派遣者で、「何やってる団体?」というのが最初の感想でした。北海道名寄市から出向の谷田氏に加え、もう一人の越氏も含めたメンバーが、図書館自主研究グループのメンバーです。まず、どうしたら自治体からこの組織に出向できるのか素朴な疑問を質問したら、全ては自治体の首長の判断に委ねられているとのこと。まちづくりに活発に取り組む自治体であれば、それだけ情報のキャッチも早い。助成金を貰いながら、まちの活性化もできるというわけです。

「図書館は本を貸出するところ」という概念は、資料購入費が軸になっています。ところが、現在は若者の活字離れ等の影響もあり、図書館の利用者は減少してきていることから、従来の図書館の機能である「資料の収集・貸出」だけでない、プラスアルファ(まちづくり)の要素が図書館に必要になってきたのではと、図書チームは調査を始めました。まず、数々の図書館訪問をされているアカデミックリソースガイド株式会社の岡本真氏に、日本の図書館の現状を聴きました。実際に、武雄市(佐賀県)、瀬戸内市(岡山県)、田原市(愛知県)、紫波町(岩手県)などの図書館見学もしました。これらの調査結果はいずれ報告書として公表されるそうです。

加藤氏以外は図書館に勤務した経験はありません。司書も行政職の一員のはず、司書という専門職はとても大事ですが、一方で、司書も行政職の一員です。司書の気質と固定概念のせいかもしれないが、行政職員の一員であるという捉え方が希薄な気がしたといいます。正規⇔非正規問題もクローズアップされる中、図書館で働く職員も、ぬるま湯からの脱却を迫られているのです。大学での司書科目についても言及され、本好き=司書という時代から、司書に必要とされる資質や科目も変わっているとの話も出ました。

図書館を見学調査して感じたことをお聴きしました。図書館のあるべき姿は、まちを向いていること。その地域に何が求められているのかは外に目を向けないとわかりません。最近キラーコンテンツ(思わずWebで調べました)になっている拠点としての図書館機能「場としての図書館」は、本をきっかけに広がるつながりの空間です。財政難で資料費が減少する中、本を選ぶ目、図書館を運営する目も司書に求められていると感じたそうです。最近は図書館でもPOPによる本の紹介が盛んですが、POPは元々本屋の技術。もちろんPOPのような技術も必要だけど、連綿と地域の歴史を積み重ねてきたのが図書館です。まちづくりをするときに戻るのが過去の歴史。その時に必要なのが図書館ではとのことでした。面白い例えも出ました。100万回見られたシティプロモーション、それだけ人気があると思いきや、もしかしたら見るたびに100万回嫌われたのかもしれないというのです。市民に喜ばれる事業をするのか、数字に表れない事業をするのか、図書館の一面を問いかけた興味深い話でした。地域活性化センターは東京駅にも近いです。是非足を運んでみてください。

2. つながりによるまちづくり~ネットワークのススメ~inもばら

茂原市で開催されたオフサイトミーティングに、昨年の東北ツアーで知り合った山形市役所の後藤好邦氏が講演されるとお聞きし伺いました。参加者の7,8割が自治体職員という何とも場違いな会でしたが、我がまちに熱い想いを抱いている方々と、つながる機会になりました。

若かりし頃の後藤氏は、スキーのモーグル競技に熱中するごく普通の公務員だったそうです。33歳(2005年)の時、関西で開催された自主的な勉強会に参加し、まちを元気にする活動をされている人たちと知り合い、転機が訪れます。2009年に12人の仲間と立ち上げた自己研鑽のネットワーク「東北まちづくりオフサイトミーティング(注2)」は、今では全国に850人を越す会員がいます。どこの自治体も人口減少と高齢化が進む中、自治体だけでなく、地域住民自らによって、主体的・積極的に進める地域づくりが求められています。成長社会から成熟社会に入った今、求められるのは、「つながりの輪」や「つながれる人」。つながりは、単にその人を知っているということではありません。つながりを活かすためには、自分の活かされ方も考えないといけません。自分にない能力を持った友達をつくることで、自分の強みを生かして弱みを補う可能性が広がるといいます。つながるプロセスを大事にし、何よりも小さな一歩からでも始める勇気と、始めたことを続ける勇気を説きました。

会場から、「これからネットワークを立ち上げるためのアドバイスを」との質問がありました。それには、まずは少人数で、目標は高くせずに小さな一歩から。そして目標には期日を定めることだそうです。成功の秘訣は、優秀なフォロアーを持つこと、活動は身近で刺激的かつ感動的に、誰もが主役になれ、一人ひとりのスタンスに合わせた参加可能な仕掛けづくりが必要とのことでした。職員が仕事して辛くならないのが、後藤氏のゴールです。モチベ―ションの核は、「自分がやりたいから」。無理をしないで自分が楽しんでやれることなら続きます。ネットワークも目的に合わせた使い分けが必要とのこと。例えば、東北をフィールドに活動している広域ネットワークはINPUT中心。山形オフサイトミーティングなど地元のネットワークはOUTPUTを期待するなど使い分けます。人づてに得られる情報の価値は、「人が動くのは、その人を知っているから」で、だからこそ、つながることが大切なのです。

「役所の中での評価は?」という質問もありました。後藤氏は、最初はあまり目立たずオフサイト活動に取り組んでいたそうです。そのうち色々なメディアで紹介されるようになり、役所内でも知られるようになったとか。これまでは直接住んでいる地域とは異なる地域の活動に参加してきましたが、今後は子供の成長に合わせて、こども会の活動など近くの町内会活動にも参加するかもしれないとのことでした。地域との関わり方は、その人の置かれている環境によっても違います。個人のつながりが、やがて組織や地域のつながりになり、住民へのオフィシャルなつながりになっていく。オフサイトでつながるメリットは、住民の本音が聞けることが一番だそうです。役所生活最後の10年は後輩の育成支援にも力を入れたいという後藤氏は、月刊ガバナンスの連載コラム「知域に飛び出す公務員ライフ」も執筆中です。

その他にも「つながる」をキーワードにしたミニプレゼンがありました。

神崎町(千葉県)の澤田聡美氏は発酵伝道師として、お里ちゃんに扮し、昔からあるふるさとの強みを掘り下げて、新たな名産「発酵の里・神崎」をPRされました。山武市(千葉県)の豊山希巳江氏は、さんぶの森図書館での、夜の図書館たんけんやエコノミックガーデニングなどの「人と人、人と本がツナガル。」活動を報告しました。館山市(千葉県)の角張洋平氏は、見える世界を広げたいと、チーム千葉県や館山市役所内の自主研究活動を通して、自治体職員が外とつながる場づくりに取り組んでいます。シビックテックもばら代表の磯野智由氏は、茂原市をより良くしていこうと茂原市職員の篠田智仁氏らと共に「シビックテックもばら」を立ち上げ、市民を巻き込みながら街に貢献しています。パネルディスカッションのあとはワールドカフェで意見交換があり、和田あずみ氏が素敵なグラフィックレコーディングでミーティングの内容を可視化してくださいました。

「場違いな場所に来た」と連呼する私に、主催者から、「場違いな場所に行ったということは全くなく、むしろ地域にお住まいの方々はそういった感覚をお持ちだと思うので、どのくらいそういった方に来ていただけるかが大切なのだと思います。」と返ってきました。自治体職員がオフサイトミーティングを行う理由、目的、狙いがまとまっているサイト(注3)も紹介していただきました。自治体に限らず企業でもどこでも通じることと感じました。

最後に、後藤さんの言葉をお伝えします。「先行きが見えないからこそ、明確な目的やプランが立てられないこの時代だからこそ、仲間とともに『やれそうだ』という可能性を感じて前に進んでいく人が増えれば、この閉塞感を打ち破ることができるのではないか、そう信じています。」

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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