2022年1月に、友人が紹介してくれた「見やすく・読みやすく・わかりやすいデザインのためのユニバーサルデザインの基礎」セミナー(注1)を聴きました。ディスレクシア(識字障害)の方がどんなふうに文字が見えているかを知って以来、ユニバーサルデザインフォント(以下、UDフォント)が気になっていました。少し工夫することで、図書館の案内も見やすくなるのであれば、採用したほうがよいと思ったのです。
目からうろこの濃密な時間を与えてくださった講師は、高知市を拠点に印刷物やウェブのデザインを手がけている間嶋沙知氏。今回は、私の復習を兼ねてまとめてみました。
ユニバ―サルデザインとは、文化・言語・国籍や年齢・性別などの違い、障害の有無や能力差などを問わずに利用できることを目指した建築・設備・製品・情報などの設計(デザイン)をいいます。障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(いわゆる障害者差別解消法)が2013年に制定、2021年6月より施行されました。同時期に、公的機関だけでなく民間事業者においても合理的配慮が法的義務化という改正が成立して、3年以内に施行される(法的効力が発生する)予定になっています。合理的配慮とは、例えば、図書館では小さい字が読みにくい方に拡大鏡を提供し、カウンターに筆談用用具を置くなど、障害者が社会の中で出合う、困りごと・障壁を取り除くための調整や変更のことです。前後して、誰もが読書できる社会を目指して、2019年6月に視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律(いわゆる読書バリアフリー法)が成立。その好事例としてオーテピア高知(注2)が紹介されました。点字ブロックは「声と点字の図書館」だけでなく、オーテピアの館内全体に敷かれていて、大活字本やLLブックは一般開架にもあり、利用者の利便性を考慮しています。
ところで、バリアフリーとユニバーサルデザインの違いってご存知ですか?バリアフリーは、障害のある人のために専用の補助を加えますが、ユニバーサルデザインは初めから多くの人に使ってもらうようバリアをつくらずに設計します。だから、ユニバーサルデザインのほうが、利用者全体のユーザビリティは向上し、コストも低く抑えられるのです。この違い、私は初めて認識しました。
高齢者に限らず、視覚障害・聴覚障害・ディスレクシア・発達障害・外国人など、日本国内で2人に1人は生活において何らかの困難を感じているといいます。ユニバーサルデザインは、永続的な障害でなくても、メガネを忘れたり、体調不良になったり、実は私たちみんなに関わってきます。
ユニバーサルデザインの7原則と、その例が挙げられました。
普段意識していない場所や物で、実際にユニバーサルデザインは使われています。
では、良い色使いとはどんな配色なのでしょうか?ベビーグッズのラッピングの色合いと工事現場の方が着るベストの色合いは違います。良い色合いとは、目的を意識した色選びが大事。そこで、色が見える仕組みの話になりました。
どんな光の下でどんな人が見るかによって色の見え方は変わります。光を認識する視細胞には、赤・緑・青の光をそれぞれ感じる錐体細胞があって、人により色覚特性があります。一般的なC型色覚に対し、所謂色弱の1型色覚P型や2型色覚D型の方は、どれかに変異があって区別がつきづらい色があります。見えにくい色の組み合わせとして、赤と黒、赤と緑、ピンクと水色など挙げられました。一般色覚者にははっきり区別できる色も、見る人によって見え方が変わります。スマホアプリに「色のシミュレータ」というのがあって、見分けづらい色の体験ができます。気になる方は試してみてください。見分けにくい配色に気づくことがカラーユニバーサルデザインの第一歩だそうな。高齢者が見分けにくい、白と黄色・紺色と黒・低いコントラストの配色は一般色覚者や視覚が不自由な方も見分けづらいから、そのあたりを配慮すると多くの人にとって見やすくなります。
見分けにくい色の組み合わせを見つけたら、
例えば、危険を示すときに使われる黒地に赤はP型色覚には見えづらいため、赤をオレンジ寄りにする。色だけでなく、特に注意を喚起するときは太字で書く。グラフでは、色の配色に気をつける、境界線を加える、凡例表示ではなくラベルをグラフ内に記載など、知っているのと知らないのとでは大違いです。安全色及び安全標識に関する JIS 改正(注3)も参考にしてください。
コントラストとは、文字と背景色との相対的な明るさの比率のことです。薄暗い部屋で見るときは明るい背景はかえって見えにくくありませんか。コントラストは強ければ良いものでもなく、色との組み合わせによっても違います。コントラスト比も感覚ではなくツール(注4)で確認できます。色々なツールがあるのにもビックリです。
例えば、市役所に置かれている用紙に「ピンクの紙を用意ください」だけでは色に不自由な方は困ります。色覚をバリアにしないためには、用紙にも「ピンク」などの文字を付加する配慮も必要です。色以外の情報である地模様(パターン)を使う場合もあります。東京メトロでは、日比谷線と南北線など区別しにくい色にはパターンで区別ができることも初めて知りました。その他にも形やサイズを変化させたり、テキストを併記したり、色名を付けたりするなど、確実に伝える方法は一つではなくて、いろいろ工夫してみることが大事だと教わりました。
文字はボディサイズ(字の枠:仮想ボディ)と字面(レターサイズ)から成り立っていて、同じ文字サイズでもフォントによってイメージが変わってきます。込み入った文字では、白内障や弱視の方は細い線が飛んで見えなくなったり、近視や乱視などの人は焦点ずれを起こし文字が潰れてしまったりします。込み入り具合はフォントによって異なります。特に、形が似ている(例:OCG569 ばぱ)、文字の一部が隠れると識別しにくい(例:RB)などがあります。それらをできるだけカバーするためUDフォントが生まれました。
UDフォントの特徴は、字面を大きくし、画線をシンプルにして、文字のかたちがわかりやすく、読み間違えにくくするのが目的です。
出典:DTP Transitオンラインセミナー「ユニバーサルデザインの基礎」のスライドより引用
UDフォントは案内表示や食品の成分表示、役所の書類や金融機関の契約書などにも採用されているとのこと。
だからといって、何から何までUDフォントにすればよいというものではないという話は目からうろこでした。誌面の印象を保ちつつ、読みやすさを改善するのがUDフォント。そのUDフォントにも、UDゴシック、UD丸ゴシック、UD明朝とさまざまなフォントが用意されています。読みやすさを追求するなら教科書体もUDフォントにするべきですが、教科書体には、とめや払い、書き順を学ぶ目的があります。UDフォントを使うだけではユニバーサルデザインは実現できません。目的と用途に応じた使い分けと、適切な文字の組み合わせが必要なのです。目からうろこの奥深さを感じました。
文字サイズは必ず読んでみて確認することが大事です。行間も読みやすさに大きく影響しています。適切な行間は行長に比例し、「字間<行間<段間」の法則もあるのだとか。1行あたりの文字数は長すぎても短すぎても読みづらい。本文は10字から40字前後までと、さまざまな例を示してくれました。
知っていて得することを列記すると、
「より多くの人に確実な情報を届ける武器になる、それがユニバーサルデザイン。でも、100%は存在しない」と、講義を締めくくられました。
多様性を受け入れるのに努力はいるけれど、できないことではありません。ちょっとひと手間、気にかけることから始まります。図書館流通センター(TRC)が図書館のピクトグラム(注5)も公開しています。そのあたりも参考にしてみてください。