2023年の夏、友人たちと黒部峡谷を散策し宇奈月温泉から富山へ帰る途中駅に、カモシカが来館した図書館として有名になった舟橋村立図書館があると聞き、急遽「舟橋」駅で途中下車しました。一旦はコラムに書いたものの、やはり気になることがあり、2024年5月再度訪問させていただきました。今回は、富山県舟橋村立図書館と舟橋小学校図書館の紹介です。
富山地方鉄道と連携し、駅から直結の舟橋村立図書館がオープンしたのは1998年4月。村の玄関口である駅に利用者を呼び戻すため、富山地方鉄道と連携し「駅舎検討委員会」を設立。パーク&ライド方式を採用した経緯などは、ちょっと古い事例ですが、文部科学省の「舟橋村立図書館における村おこし駅舎との一体化(富山県舟橋村立図書館)(注2)」に詳しく記されています。ちなみに、パーク&ライド方式とは、郊外の駐車場に車を置き、電車やバスに乗り換えて市街地へ入る方法で、公共交通機関の利用の促進、都市部の車による渋滞緩和、環境汚染の防止などのための施策です。舟橋村の面積は3.47k㎡と日本一小さい村です。富山市中心部へのアクセスは約15分という恵まれた立地条件からベッドタウンとして人口も増加し、作家や芸術家なども住んでいるそうです。村外の利用も多く、住民一人あたりの貸出数は日本一。徹底した住民サービスに力を入れ合併せず独自の発展を遂げています。
そんな図書館に、カモシカが突然現れたのは2008年、開館して10年目の出来事でした。『カモシカとしょかん』という本にもなった記事は目にしたことはあったけれど、伺うのは初めてです。素足で上がったのはカモシカ君だけで、図書館内は床暖房になっていて、玄関で靴を脱ぎます。山の恰好をした4人が突然現れ、窓口で不審がられたので、黒部市立図書館宇奈月図書館の司書である山形香織さんの名前を出したところ、高野良子館長が対応してくださいました。その日はちょうど村内の学童クラブの子どもたちの読み聞かせがある日で、図々しくもその読み聞かせも聴かせていただくことができました。
館長はまず、お盆が近いからと、子どもたちを前に読経を始めました。「色即是空空即是色...」とありがたい館長のお経。思わず手を合わせ、首を垂れ、最後の「チーン」の鐘の声まで聴き入りました。お経が読めるとは、なんてすばらしい館長なんだ!と感激もひとしお。そうしたら、「みんなもお経を読んでみる?」と、子どもたちに向け、なにやらA4のシートを取り出して読み始めました。
「色即是空空即是色...」私は同じように手を合わせ聴き入ります。そして、3度目の読経で、子どもたちがザワザワし始め、笑いが起きてきました。館長のA4の紙に書かれていたお経の正体は、
もうすっかり騙されてしまいました。かくして、アイスブレイクでしっかり子どもたちの心を捉え、司書の方と一緒に、素話・絵本・紙芝居・手遊びとバリエーションにとんだお話会が始まりました。同行した学校司書2年目の友達は、熱心にタイトルをメモしていました。
ひとしきり楽しませていただいた後に、館内を案内していただきました。1階にはカモシカコーナーがあります。
カモシカ乱入時は、ちょうど中沢孝之氏(現白河市立図書館長)の「図書館の危機管理」研修を受けたばかりで、用意していた刺又がとても役に立ったと裏話もお聞きしました。カモシカには続きがあり、「カモシカさん、どうしているかなあ」と子どもたちに問いかけたところ、「森の図書館で本を読んでいる」と返事が返ってきました。そこで、2018年、2冊目の本『としょかんやさん』も作っています。村内の情報コーナーも充実しています。2階には県内の広報コーナーがありました。村内資料室の奥に館長席がありましたが、一度も座ったことがないそうです。
同じ建物の中に商工会議所の舟橋支所があり、「住民生活に光をそそぐ交付金」を利用して奥に食事ができるラウンジを作りました。
突然お邪魔したのに、気づけば2時間たっぷり居座っていました。村には小学校と中学校が1校ずつ。小さな村の1つの公共図書館に正規職員が4人(うち司書資格2名)いたこともあったのだそうな。肝心の現在の状況を聴きそびれ、2024年5月に再度訪問し、お話を伺ってきた次第です。
高野さんは、かねてより学校司書の必要性や学校との連携を、議員や村長に唱え続けていました。そんなとき、富山県内の公立図書館の学習スペースについて、雑誌に掲載する論考調査をしていた伊東さんが、舟橋図書館を訪れました。今まで見てきた図書館とは棚づくりも図書館の雰囲気も何かが違っていたといいます。偶然、村では学校司書採用の必要性が検討されていたこともあり、この訪問をきっかけに2022年4月から会計年度任用職員として採用されました。
現在の村立図書館の体制は、館長は教育長が兼ね、正規職員2人と会計年度任用職員2人。最初に伺ったとき高野さんは退職後の再雇用の館長で、3月で解任されるはずでした。ところが、教育長から待ったがかかり、2024年4月から「学校連携」の特命を受け、今はアルバイト待遇で働いています。伊東さんは中学校との兼任ですが、中学校へは火・木曜日しか出向けません。そこで、高野さんが公共図書館と学校図書館の橋渡しのほかに、小・中学校の司書不在時の穴埋めをしています。
松越正純校長の計らいで、昼休みに小学校図書館を見学することができました。図書館に上がる階段は伊東さんの二十四節気の力作でした。
図書館は学校の真ん中に位置し、昼休みも子どもたちは図書館が目的でなくても図書館の前を行き来します。それはもう賑やかで、図書委員2人も貸出に大忙しでした。利用券は、図書館で保管しています。地元新聞が置いてありました。
伊東さんは、小学校にも中学校にも職員室に席があり、給食も一緒に食べます。「チーム学校」の中に図書館がちゃんと存在しているのです。ちなみに、「チーム学校」とは、教職員だけじゃなくて、関係部署や専門家、地域の人等も含めたチームみんなで連携して学校運営や子どもの課題解決にあたろうという内容をさした教育用語なのだそうな。彼女は、図書館として授業に協力できることはお知らせして提案し、気になる児童の様子など積極的に情報共有するようにしています。学校行事や職員会議にも参加します。こんな配慮が、司書が孤立しないためには必要で、司書が暇ではないことも先生方に伝わっていきます。
一方で、読み聞かせ等の図書館の活動に教職員が積極的に関わり、本選びから読み方まで司書に助言を仰ぐこともあり、校長先生方も読み聞かせの助っ人をしてくれて協力的です。皆さんがきちんと子どもの成長に向き合っている現れだなと思いました。
帰り際、子どもたちが元図書館長に、「たかのさ~ん!」と、可愛い声をかけているのが印象的でした。退職して、草むしりしながら余生を過ごすはずだった高野さん。まだまだそんな時間は作れそうにありません。
実は私、素話とストーリーテリングと語りの区別がよくわからず、後日友達に聞いてみました。
ストーリーテリングとは、「本に書かれた物語などを語り手が覚えて、聞き手に語ること。公共図書館や学校図書館で、子どもを対象に行われる。そのまま読んで聞かせるのではなく、自分の言葉で語る。(中略)『おはなし』ともいう。」(『図書館情報学基礎資料』樹村房より)。
ちなみに、「昔はほとんどの場合、語り手が耳で聞いた話を自分のものにして語ったのに対して、今日の語り手は、昔話集や短編のお話集などからお話を探し、それを覚えて語っている」とあります。(堀川照代編著『児童サービス論』日本図書館協会 2014年)。うーん、わかったようで難しい。
小さな村だからこそできる図書館の一元化と、「図書館は役場で働く職員の保健室」という高野さんの言葉に、この村の頑張りを感じました。