今回は、9月19日に富山で開催されたフォーラム“図書館総合展フォーラム2015 in 富山 - 地域資料の活用とデジタルアーカイブ -”の様子をお伝えします。
図書館設置率が高い北陸地域。2つの図書館の現状報告がありました。
石川県立図書館(注1)は、明治45年開館の100年以上の歴史を持つ図書館です。特色あるサービスとして、東海北陸ブロックへの無料宅配サービスや貴重資料のデジタル化をあげられていました。
「pまつり」って、聞かれたことありますか?実は、私も初めて耳にしました。勉強不足ですね(笑)。
「pまつり(ページまつり)」はSNSから生まれた遊びです。ルールは簡単。まず、偶然性のある番号を決めます。参加者は、好きな本のそのページから好きな一文を抜書きするだけ。パネリストがFacebook上でおこなった「pまつり」は、開催者が突然当日の月日を組み合わせたページを指定し、その日の終わる夜12時までに、友達同士で投稿数を競うゲームでした。友人の読んでいる本や自分の蔵書にも再発見があり好評だったそうです。
そこで、パネリストは、これを図書館で開催できないかと考えました。題材の本は目の前にあるので、まさに、「リアルpまつり」。今回の話は、SNSの遊びを、図書館イベントとして初めて取り入れた、5月4日に開催した「54pまつり」の報告でした。
好きな一文は、図書館が用意したA3の用紙を縦に半分に切ったものに書いてもらい、番号を振ってロビーの掲示板にまとめて紹介しました。展示のキャプションとして目録を書く紙は、歴史100年の図書館に残っていた目録カードを使い、紹介された本とコーナーに展示して貸出へと繋げます。利用者は、ロビーで気になった一文を目にしたら、同じ番号が振ってある目録カードへたどり着き、本を借りるという流れです。目録カードは、本が貸出中の時のお留守番書誌情報となり、当然予約もできます。
これなら敷居が低くて誰でも楽しめそうですね。石川県立図書館では、更に工夫して今後も開催予定で、他の図書館でも自由に開催してもらい、「pまつり」の輪を広げていきたいとのことでした。
鯖江市図書館では色々な取り組みをしていますが、ライブラリーカフェの紹介がメインでした。ライブラリーカフェについては、第16回の図書館コラムで紹介しましたので、そちらをご覧ください。
図書館に直接関係はありませんが、メガネ・繊維・漆器のまち鯖江市(注2)では、「ゆるい移住」と銘打って、「家賃無料でとりあえず住んでみる」という企画にも取り組んでいるそうです。午後の部で紹介されたオープンデータへの取り組みなど、何かと気になる街に伺って、また皆さんへレポートしたいと思っています。
山本一力氏の講演ということで、この時間帯は一般の方々も大勢聴講されました。富山で偶然出会った女学生の“人を気遣うしぐさ”に感動したエピソードから話が始まり、言葉は自分の想いを相手に伝える大切なツール。英語を覚えることより伝えるものを持つことが大事と、本や地域を通して学ぶことの大切さを話されました。講演の前に立ち寄った富山市立図書館本館の山本氏の特設コーナーで、山本氏に偶然遭遇。記念写真を一緒にとっていただきました。自慢話でごめんなさい(笑)
8月22日、富山市に「TOYAMAキラリ」という、ガラス美術館と図書館本館の複合施設がオープンしました。建築は、かの隈研吾氏が手掛けた独創的な建物です。私も事前に見学させていただきました。館長から紹介のあった本館の特色を幾つか紹介します。
街中の新たなにぎわいの拠点を目指してオープンした本館の詳細は、(注3)を参照ください。お話には、「約500タイトルの雑誌の登録作業や装備などの維持管理が大変」などの苦労話もあり、図書館の奮闘に、かえって親近感を抱きました。
富山市立図書館には本館含めて26の図書館(分館)が存在します。中でも、富山駅前のCICビル4階にある、「子育て支援センター」と「こども図書館」が一体となった施設「とやまこどもプラザ」は、行政が横軸で運営する珍しい試みの図書館です。図書館の内装は、ブルーナのミーフィーを思わせる世界。機会があったら、是非自分の目で確かめてみてください。
歴史と文化の地域資料を、デジタルアーカイブする図書館が増えてきました。資料のデジタル化・アーカイブの可能性やオープン化についての発表と討論がありました。
射水市のシステムを手掛ける時、博物館から2つの要求“字が読めること・郡ごとの絵図が見れること”があったそうです。確かに、高解像度で撮影されているので、どんなに小さくしても字が読めますし、古文書や現代語訳など重ねて体系的に見ることができます。
ちなみに、地図と言えば、「伊能忠敬」を思い浮かべますが、同じ時代に北陸には、「石黒信由」という測量家がいました。新湊博物館の資料の多くは、石黒信由に関するものです。今の地図に遜色ない石黒信由の地図を、デジタルアーカイブで実感してみてください。
富山市立図書館では、富山の置き薬のパッケージ、古地図、山田孝雄文庫所蔵の一部を電子化。デジタル資料は拡大表示も可能ですし、通常の所蔵資料としても、検索が可能です。
射水市新湊博物館のデジタルアーカイブシステムは、図書館振興財団からの助成金により、藩政期の歴史資料「高樹文庫」をデジタル化しました。デジタルアーカイブの可能性に触れられました。
そして、デジタル化できた要因は、それまでの地道なデータの蓄積があったからだと述べました。
一般に流通していない郷土資料や地域資料のデジタル化を通して、地域の図書館の果たす役割は重要になっていくと結ばれました。
Webは情報を共有する場として発明されましたが、本当に世界を変えましたね。今やインターネットを利用しない世界は考えられない時代になりました。オープンデータとは、「Web上にコンピュータが読めるデータ形式で誰でも使えるライセンスで公開すること」で、鯖江市の取り組みが紹介されました。
発表を受け、司会の岡本氏より、オープン化が再投資につながると、「例えば、京都府立のオープンデータ“百合文庫”のデータを、Tシャツのデザインに使っても構わない」などの具体的な二次活用事例が紹介されました。
デジタルアーカイブの課題点について、皆さんから幾つか出ました。
特に、公開することに対しては、市民が損害を被るのではという不安があげられました。それでも、今失敗するから次の時代があり、冒険が次の世代を引き継いでいくと前向きな発言がありました。地域資料の現物は、どんどん劣化していくため保存の必要が急がれています。
デジタルアーカイブの面白い点も挙げられました。
アーカイブのデータは、目録データ、画像データ、テキストデータの組み合わせでできています。でも、標準化されていないのが現状です。更新時の縛りにならなければと、個人的には危惧しています。
最後に、「デジタルアーカイブを実現するためには、人間ネットワークも必要」を強調し、フォーラムは幕を閉じました。