生駒市図書館の取り組み(ビブリオバトル全国大会 etc)
図書館つれづれ [第36回]
2017年5月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

ビブリオバトルって、ご存知ですか?ビブリオバトルは、小学生から大人まで楽しめる本の紹介コミュニケーションゲームです。ルールはいたって簡単です。

  1. 発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる
  2. 順番に一人5分間で本を紹介する
  3. それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを2~3分行う
  4. 全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を参加者全員一票で行い、最多票を集めたものを『チャンプ本』とする

「人を通して本を知る。本を通して人を知る」をキャッチコピーに日本全国に広がっていて、ビブリオバトルの公式ウェブサイト(注1)もあります。実は私、ビブリオバトルは、なんだかプレゼンテーション能力を養う教育的な空気を感じて苦手でした。そんなビブリオバトルの全国大会が生駒市図書館で開催されると聞き、仲間と一緒に伺ってきました。

今回は、図書館を指定管理者の運営に任せる自治体が増えている中、市直営で市民と一緒にまちづくりを進める拠点として、「人と本との出会いの場、人と人とがふれあいを深めることのできる場」を目指す、奈良県生駒市図書館(注2)のビブリオバトル全国大会をはじめとするユニークな取り組みを幾つか紹介します。

ビブリオバトル全国大会(注3)

『夜は短し歩けよ乙女』で山本周五郎賞、本屋大賞(2位)などを受賞し注目を集めた“森見登美彦”氏は、生駒市出身の作家です。生駒市のビブリオバトル活動は、2012年に森見氏の講演会を企画し、講演会の前に森見氏の本からテーマをとり、図書館でビブリオバトルを3回開催したのがきっかけでした。

最初は、どんなふうにすればよいかもわからず、奈良県立図書情報館を参考にしたり、ビブリオバトル普及委員に協力を仰ぎました。そこで、「続けたい!」という声が上がり、半年後には“生駒ビブリオ倶楽部(以下、倶楽部)”が立ち上り、図書館と共催で毎月1回ビブリオバトルを開催しています。

また、関西大会に参加していた一人の中学生がきっかけで、図書館と中学校のビブリオバトルでの交流が生まれ、市内中学生大会を開催することになりました。学校ごとの対抗戦にならないよう配慮して、他校との交流やYA世代の読書推進に一役買いました。更に全国大会まで開催するようになり、図書館と倶楽部で「Bibliobattle of the Year 2016」を共同受賞するまでに育ちました。

ビブリオバトルは、本に興味がなかった人でも興味を持ってもらえるし、今まで手に取らなかったジャンルの本も読むようになり、終わった後の交流会は職業も年齢も異なるメンバーとの一種の異業種交流にもなっているといいます。月に一度の開催では、大人に混じって、小学校2年生のお子さんが自分の意志で参加したこともあるそうです。チャンプ本は逃したそうですが、決して多くないボキャブラリーを駆使した姿が目に浮かびます。ビブリオバトルは、プレゼンテーション能力だけではない「『今ここ』の想いをどれだけ伝えられるかが神髄」というのも頷けました。

生駒のビブリオバトル全国大会は、北は北海道、南は長崎県まで、中学生から80代までの32名のバトラーで午前中に予選があり、午後は、朝井リョウ氏のトークイベントのあとに決勝戦がありました。朝井氏が目当てで400人もの人が集まったと思いきや、トークイベントが終わった後もほとんど席を立たず、ビブリオバトルを観戦しました。会場内には、ときに、感嘆や驚きや笑いが聞こえ、和気あいあいとした雰囲気の中で進行し、終わった後は爽快感にあふれていました。

バトルというと競争をイメージしがちですが、「勝ち負けはあるけれど、プレーそのものを楽しむスポーツ観戦の視点がある」との友達の鋭い指摘に納得しました。同行した仲間の中にも私のようなひねくれ者がいたのですが、少なくとも、生駒のビブリオバトルは全員楽しく観戦しました。ちなみに、チャンプ本は、「不思議な文通」でした。5人のバトラーが紹介した本は、どれも面白そうで、そのまま「おすすめリスト」に使えそうです。

本の宅配サービス

本の宅配サービスのきっかけは、「本を届けるボランティアをしたい」という利用者の申し出でした。本の好きな方が、病気や足腰の老化で、図書館へ行けなくなったら一大事です。「自分が図書館へ通えなくなった時に、そんなサービスがあったらいいな。だから、元気なうちは、本を通じて誰かの役に立ちたい」きっとそんな想いもあったのではないでしょうか。

そこで、6年前に地区を限定した宅配サービスが始まりました。最初は利用する人より宅配ボランティアのほうが多かったという話に、如何にも謙虚な日本人らしさを感じました。意地悪な私は、個人の相性の問題とか、トラブルはなかったのかと、しつこく聞きました。もちろん心配はしていましたが、それらは取り越し苦労に終わりました。貸出返却の本の管理やプライバシーなどの配慮は必要でしたが、対応策を考えて検討していきました。

そして、2016年から市全域にエリアを拡大し、現在40名を超える宅配ボランティアが本を届けています。区域を広げると想定外のことも起きたそうですが、今後もその都度対応を考えて続けていきたいとのことでした。

本の宅配サービスは、利用する人に対し、数人の宅配ボランティア体制が組まれていて、ボランティアの方に負担がかからない配慮がされています。読みたい本は、図書館に直接連絡がはいることもあれば、届けに伺ったときに聞いてくることもあります。手渡しするから会話が生まれるのです。本を用意して、配達時間や届けるボランティアの調整も図書館が行います。届けるのは、本だけでなくて、人と人のつながりなんですね。

宅配ボランティアのほかに、「耳で楽しむ本の会」というボランティアもあります。毎月、時代小説やエッセイなどが音訳の技術を生かして朗読され、視覚障がい者だけでなく誰でも参加できる楽しみの場となっています。人に聴いていただくには専門的な練習も必要で、「してあげる」思いでは続きません。朗読する側も聴く側も、双方向に与え合っているものがあるからこそ続いているのだなあと思います。

糸賀雅児氏の「図書館とまちづくりワークショップ」

向田館長は生粋の図書館人。庁内の各課との連携も率先しておこないます。図書館を理解していただこうと、市長に、全国の図書館をめぐっている糸賀雅児氏(当時慶應義塾大学教授)の活躍を話していました。図書館をまちづくりの拠点として期待していた市長は、東京に出張する機会があった前日に、糸賀氏へ連絡をし、翌日研究室まで伺って、ワークショップを直接お願いしました。

2016年秋に計3回、糸賀氏をコーディネーターに開催された市民参加型の「図書館とまちづくりワークショップ」は、こうして生まれました。ワークショップは、高校生から70代の方まで22人が参加し、3班に分かれて、「人と本、人と人をつなぐ図書館」をテーマに、アイディアを出し合ってもらいました。市長も2回顔を出されたそうで、糸賀氏もびっくりしていました。

ここで提案された優秀賞のうち、平成29年度は以下の2つのアイディアに予算がつき、市民と一緒に開催します。

(仮称)図書館でお茶会をしよう

生駒市の特産品である茶筌(ちゃせん)に注目して、お茶会を図書館施設でおこなう。

伝統産業を守るとともに、子供たちの身近にお茶があり、おもてなしの心を持つ生駒となる。

茶筌やふるさと生駒全般に興味を持ったら、図書館資料で学ぶことができ、茶筌づくりの話を聴いたり体験することはもちろん、地元の竹が手に入りにくくなったことを知れば、里山の自然を守る活動をされている方と交流するなど、広くまちづくりに関わる。

(仮称)リビングライブラリー

生きている(リビング)人間を本に見立て、本を読むようにその経験や人生を聴く。

集まった仲間と語り合い、いろんな興味が湧いてくると、図書館の本を利用し、詳しく調べることができる。「生きた本」から始まって、「紙の本」にたどりつく。

また、居間(リビングルーム)で語り合うような、ゆったりとした居心地の良い場を目指す。

駅前図書室木田文庫

生駒市図書館は、分館分室ごとに、とても特徴のある図書館運営をされています。駅前図書室は、駅の賑わい創出に、一役も二役も買っています。

駅前図書室の棚は、一般書と児童書の混配です。最近の本は、児童書といえどもあなどれないから、図書館の規模や利用者によっては、これも一つの選択肢かなと思いました。子どものお話し会の部屋の裏に、人が一人通れるぐらいのデッドスペースがあります。それをあえて潰さずに、子供が鬼ごっこ感覚で遊べる工夫がされています。

児童コーナーの外の小さな滑り台は気分転換にもってこい。遊びに飽きるとちゃんと本を読むために帰ってくるそうです。そのほかにも、6畳ほどのスペースをうまく使ってイベントをしたり、ウナギの寝床のようなスペースに椅子と机を配置したり、心憎い演出が随所にありました。

図書室の本は本館に比べて少ないですが、駅前とあって、本の動きは活発です。本館に配送する前のわずかな時間も見逃さず、本を借りられる仕掛けがありました。

館内に民間のカフェはありませんが、珈琲会社とのコラボで、自動販売機に独自のPOPがありました。豆も生駒特性ブレンドです。こんな心憎い演出に協力してくれる業者がいるのです。想いが人をつなげているのかもしれません。

そのほかにも、「図書館de婚活」「本deしりとり」をはじめ、ユニークな企画が目白押し。経済振興課や役所の中だけでなく、商工会議所などとの連携イベントもします。

目指したのは、「つながる図書館」。図書館の敷居は低くて、間口は広いのです。「何か頼まれたら、『やる』、『行く』」が向田館長のモットー。「余分な仕事」「失敗したら?」なんて妄想は取っ払って、ちょっとしたきっかけが、「人と本、人と人」をつないでいきます。

トピックス

  • 図書館が交流の場として変身中
    知人の福留洋一郎氏も掲載されていて、読み聞かせボランティアについて語られています。老後生活の生きがいのヒントにも。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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