衆議院第2議員会館での「図書館の現状と改革の課題―図書館職員の地位向上をめざして―」鼎談(ていだん)
図書館つれづれ [第123回]
2024年8月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

人生で初めて永田町に足を踏み入れ、2024年4月、衆議院第2議員会館で開催された「図書館の現状と改革の課題―図書館職員の地位向上をめざして―」という鼎談を聴いてきました。今回は、主催「文字・活字文化推進機構/全国学校図書館協議会/学校図書館整備推進会議」、後援「活字文化議員連盟/学校図書館議員連盟」という国の施策にも及びそうな鼎談の報告です。

報告

1. 活字文化議員連盟/学校図書館議員連盟

衆議院議員である笠浩史事務局長より図書館に関する国会からの取り組みが読み上げられました。学校司書の実態調査、「官製ワーキングプア」の要因のひとつといわれる会計年度任用職員制度と指定管理者制度や,読書バリアフリー対応、特別支援学校の図書資料などの現状が報告されました。

2. 文部科学省総合教育政策局

高木秀人地域学習推進課長より以下の目次で図書館行政の動向の報告がありました。

  • 子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画
  • 学校図書館について
  • 図書館について
  • 国における取組

第6次学校図書館整備等5か年計画では、総額2,400億円が「図書」、「新聞」、「学校司書」に振り分けられていますが、気になったのは、「学校司書」については単年度で243億円(小中学校の概ね1.3校に1名程度配置)の地方財政措置があるものの、現実とのギャップが見られたことです。教育委員会は状況整理をし、図書費や新聞も含めて充実に頑張ってほしいです。算定の資料が配布され、地方交付税算定額の試算方法があるのを知りました。以下のとおり表にしてみましたので、試しに、関係自治体の数字を入れて、予算額と算定額を比較してみてください。

小学校算定額 中学校算定額
図書費 学級数×40.7千円 学級数×63.1千円
新聞費 学級数×3.5千円 学級数×12.8千円
学校司書費 学校数×1,157千円 学校数×1,111千円

これらの達成状況は都道府県によって著しい差があり、学校司書の配置率に至っては、住んでいる場所によって10倍の差。教育の平等には程遠い数字に愕然としました。

国における読書活動総合推進事業の取り組みも紹介され、総合教育政策局発行の「マナビィ・メールマガジン」(注1)は、生涯学習・社会教育に関する情報共有を図るため、毎月2回配信しているそうです。先ずは知ることから始まります。

鼎談:パネリストからの報告

文字・活字文化推進機構の山口寿一理事長の挨拶のあと、3人のパネリストから報告がありました。

1.「北海道の読書環境に関する現状報告」荒井宏明氏:一般社団法人北海道ブックシェアリング(注2)代表理事

荒井氏が所属するNPOは「誰もが格差のない読書機会を享受できる社会」を主旨に、読み終えた本の再活用による図書施設の整備支援と、学校図書館や公共図書館に対して講師派遣を主軸に活動しています。北海道は、東京都の38倍の面積に、179市町村(国内総数1,718)のうち、人口1万人未満の小規模自治体が124町村(うち87が5千人未満)。公共図書館の設置率は50.7%とアクセスが不便な上、無書店自治体は42.5%という状況。文部科学省の北海道に関しての情報は、学校司書の配置状況、雇用形態、学校図書購入費どれも惨憺たる数値でした。学校図書購入費は57%しか使われず、自治体交付金、社会保障が優先されるのもやむを得ない事情もわかります。とはいえ、学校図書館のない学校や、年に数回しか開かない学校図書館など、次々と発表される状況に暗い気持ちになりました。ほかの学校図書館でも見られる現象ですが、学校図書館図書標準の達成率というのがあって、達していないと本の廃棄ができません。学校図書館に出向いた友人は、7割の本は除籍するしかないと嘆いていました。日本がお手本にしてきたイギリスでは、地域間の教育格差の是正や教育水準の向上を目的に2006年、学校教育費全般が国保負担となり、教育重視に大きく舵を切りました。日本も早く目覚めてほしいですね。

2.「図書館行政・施策の現状と改革の報告」嶋田 学氏:京都橘大学 文学部歴史遺産学科教授

嶋田氏は岡山県瀬戸内市立図書館の開館に尽力された方です。公共施設の老朽化対策の課題にも触れ、人口減少による利用需要の変化、長期的視点での施設の統廃合など、図書館行政は財政負担の軽減や平準化が見直され、大阪府豊中市や東京都清瀬市のような図書館縮小計画も出ています。荒井氏同様、イギリスがアウトソーシングによる諸問題の改善に向け、民営化した行政サービスを公営化に戻すインソーシング政策について紹介されました。民営化した歪は、今の日本によく似ています。インソーシング政策は、今回の重要キーワードと感じました。

2000年以降の「貸出重視」の図書館からサードプレイスまで、図書館は社会とともに変化しています。これからの図書館改革の方向性は、図書館というコモン(共通財産)を「ケア」を基調に高めていくミュニシパリズム(地域主権主義、自治体主義)だそうで、これまた新しい言葉を聴きました。ケアとは、配慮すること、関心を向けること。ケアを共にすることで、エッセンシャルワーカーの仕事につながります。命を育むはずの図書館がコロナ禍に閉館を余儀なくされたことにも自省を含めて言及されました。消費者志向がますます進む世の中だからこそ、ミュニシパリズムによる地方自治を実現させるためにも、情報提供だけでない社会装置としての図書館を唱えられました。

3.「ことのはじまりは幕別町図書館だった」太田 剛氏:図書館と地域をむすぶ協議会代表/編集工学機動隊GEAR代表/慶應義塾大学講師

太田氏が北海道幕別町で行った図書館改革は、「幕別モデル」といわれ、図書館と地域を結ぶために、3つの方法を採用し地域が循環するソーシャルイノベーションを起こしています。

  • 図書館システムとマークを最適化(カメレオンコードの採用)
  • 本は地元書店から、装備は福祉施設などの自治体内で行う
  • 地域の多様な人材を活用する

幕別町では、図書館で落語会を開催していて、前後にストレスチェックを行い、改善されていたら、浮いた医療費予算を図書館へ回すという交渉もしています。

国立国会図書館の書誌データを公共図書館の書誌情報に使う件については、Webコラム28回(注3)を、幕別モデルについての詳細は椎葉村図書館のWebコラム95回(注4)を参照ください。

鼎談と質疑応答

それぞれの立場からの報告のあと、職員待遇の問題から日本の教育問題まで短い時間ながら意見交換が行われました。図書館は単なる貸本屋ではなく、教育分野の一機能でもなく、知識基盤社会に向けた社会インフラそのものという意識改革がない限り、図書館職員の待遇問題も指定管理問題も何も解決できないというところで合意。一般会計の1%が図書館予算になれば、正規職員の比率もあがる。政策的にも評価されるためにも、もっと行政職員と密に連携が取れるようリサーチャーのスキルを上げること。

この先は、すぐに解決する話ではなく、国→都道府県→市町村という縦軸の法整備と、省庁の垣根をこえた情報提供と啓蒙、人材育成が必須とのこと。その上で、民間と自治体、個人の横連携システムを構築する。そんなイメージの話となりました。縦糸も横糸も大切なのです。

質疑応答の中で、秋田の方が秋田県の現状報告と要望発言をしました。後日メールをいただいたので抜粋します。「学校司書は、司書資格を持つ専門の職員を専任して配置する必要がある仕事だということ。配置された職員は児童生徒のために常にアンテナを高く立てて自費で研修に出向く人が望ましく実際にそのような人に多く出会っていること。学校図書館の棚を新陳代謝させ子どもたちと本を繋ぐことに工夫と努力していたこと。広く門戸を開くためという理由で3年毎に更新する仕事ではないということをスマートに伝えて永田町の中心で愛を叫びたかったのですが、巧くはできませんでした。」

とは言うものの、発言のあと、自然発生的に大きな拍手が起こったのは感動的でした。

アピール発表

文字・活字文化推進機構の赤熊千明企画・広報課課長からアピール発表があり、学校図書館整備推進会議の竹下晴信議長の閉会の挨拶で終わりました。主催者の「(公財)文字・活字文化推進機構」は、出版関係者が多い組織ということもあり、会場には出版、書店に関わる各種団体の方が多くみられました。後日聞いた感想の中にも鼎談の主軸が指定管理者制度反対の立場と捉えた方がいたように、事前にそんな背景を感じたのか、司書は引っ込み思案が多いせいか、はたまた平日で参加しづらかったのか、図書館関係者は少なかったように思えました。

議員発表や質疑応答に、いつもとは違う雰囲気を体感した貴重な時間でした。皆さんにこの現場感をお伝えできたのか不安にもなります。

感想

2024年5月14日の国会の参議院の経済産業委員会、環境委員会連合審査会の中で、鼎談に参加された川田龍平議員が、鼎談で問題点となった項目を投げかけ、経済産業省大臣から「経済基盤社会から知識基盤社会に向けての課題や問題点を整理する」と、成果のある答弁を引き出してくれました(注5)。書店や図書館が抱えている問題を周知してもらうには、やはり公の場で広く話題にあげていくことが必要なのだと感じました。

図書館に国の制度として何を望み何をしていくのか、意識と認識は生涯学習に関わっています。残念ながら今の日本には、方向転換したイギリスのような成長戦略がありません。「読書」は本を読むだけではなく、生きる上で学ぶことへの豊かな広がりを作ることという「読書」の概念を、今一度考えてみてはいかがでしょう。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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