最近の図書館事情
千葉大学アカデミック・リンクと山本順一氏基調講演から

サブコラム:忘れえぬ人々
図書館つれづれ [第9回]
2015年2月

執筆者:ライブラリーアドバイザー
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

最近の図書館事情

図書館は静かに本を読む場所から、今大きく変わろうとしています。公共図書館ではありませんが、最近の大学図書館の紹介と、アメリカ事情をお伝えします。

千葉大学アカデミック・リンク ※

千葉大学アカデミック・リンクを見学させていただきました。今の大学の図書館って昔と全く違っていて驚きの連続の時間でした。

アカデミック・リンクは、千葉大学において「生涯学び続ける基礎的な能力」「知識活用能力」を持つ『考える学生』を育成するために、附属図書館、総合メディア基盤センター、普遍教育センターが協力して立ち上げた、教育・学習のための新しいコンセプトです。
平たく言うと、単に講義にでて、教師の話をただ言われるままに理解するのではなく、自らが問題意識を持って、自発的に学ぶことができるように、学習環境とコンテンツ提供環境を一つにしようという、千葉大学で学ぶ学生を1Stopで支援する基地です。

アカデミック・リンクでは、3つの機能を実現しています。

  1. アクティブ・ラーニング・スペース
    コンテンツを活用しながら、学習支援者(教員、図書館員、スチューデント・アシスタント)の支援を受ける事が出来、グループや個人で学習できる快適な学習空間。
  2. コンテンツ・ラボ
    授業の動画などの大学内で生産される学習に役立つコンテンツを制作、発信するとともに、大学外で生産されるコンテンツも利用可能にします。
  3. ティーチング・ハブ
    ラーニング・マネージメント・システムの運用を支援するとともに、教材の電子化や情報通信技術の教育への応用等のためのファカルティ・ディベロップメント(FD)、アクティブ・ラーニング・スペースで活動するスチューデント・アシスタント(SA)の育成を行います。

建物は、4つの棟で構成され、各々異なるコンセプト空間(合わせると、LINK)となっています。

L棟:Learning 黙考する図書館

静かに読書をする、いわゆる伝統的な図書館です。
咳払いしても響くほどの静寂な閲覧室もありますが、全てガラス越しに見えます。その中でゆったりと読書を楽しむ学生もいました。

1階にはカフェっぽい内装の学習エリアもあり、隣接する生協書店と扉でつながっています。イベントなどで連携するときには行き来できるようになっていて、生協側に設置された印刷コーナーでは、教材をオンデマンドで印刷することもできます。

I棟:Investigation 研究・発信する図書館

自由に動かせる椅子や机に実験的ワークショップもできる「セミナー室」。
講義そのものも録画編集できる「コンテンツスタジオ」もあり、録画された動画を編集したり、新しい教材を開発できる「コンテンツ制作室」など、環境も機材も人的配置も整っていて、“これが図書館の中にあるか!”と皆が感嘆した空間でした。

しかも、学生にとどまらず、教員同士が学びの議論をする「ティーチング・コモンズ」なる部屋もあり、学生・教員・職員の垣根を越えた創造的な学びを考える拠点でした。更には、民間企業との共同研究の部屋もあり、大学が大きく変わっているのを目の当たりに感じました。

N棟:Networking 対話する図書館

全く新しい図書館の形でした。
1階の図書館を入ってすぐはプレゼンテーションスペース。毎週火・金曜日の昼休みに開催されるショートセミナー「1210あかりんアワー」は、教職員や卒業生の講話を、通りがかりの人も自由に聴くことができます。毎週誰かが話すということは、毎週企画をする必要があるわけで、それだけでも体力と持久力が必要です。このスペースは、図書館が特にこだわった空間です。「1210あかりんアワー」の動画もアーカイブされていて、学生は館内で見る事が出来ます。

2階のコミュニケーションエリアは、机・椅子やホワイトボードはすべてキャスター付きで、学生が自由に動かすことができます。私たちが伺ったときも、グループに応じて椅子も机も適度に配置して活発な意見交換をしていました。同じフロアに「学習支援デスク」があり、SAが学生をサポートしています。SAは大学院生が担当します。報酬も出ていて、院生生活を経済的にもサポートしていました。

3階のグループワークエリアや授業でも使用される4階の学習室も全て全面ガラス張りで閉塞感が全くないオープン空間です。「見られる」ことで学習者の意欲を引き出すのが狙いとか。“会議室は密室”のイメージが、完全に一掃されました。

N棟全体を通して、「ブックツリー」と呼ばれる分類を超えた「見せる」本棚があります。図書館の外からよく見える1階のブックツリーには、サークルの作品や研究成果なども展示することができます。

K棟:Knowledge 知識が眠る図書館

K棟は伝統的な書庫としての機能を中心に考えられた建物であり、貴重書室、マイクロ室、巨大な電動集密書架などを備えた知識集積拠点です。時間の関係で、こちらは見学をパスしました。

感嘆したのは、これらの棟やフロアを、学生がどんな動線で利用しているかを分析していて、センターの運用にフィードバックしていることでした。作りっ放しでないところが素晴らしい!

アカデミック・リンクは、ハードは勿論ですが、生涯学び続ける糸口を学生に見つけてほしいという「目に見えないつながり」を支えるコンセプトや人的資源が、きっちりあるのを実感しました。図書館は学生が望むあらゆる学習タイプの空間を提供していて、どう使うかは学生の選択に任せられていました。

10月に聴いた竹内氏の講演の中で、大学図書館は情報の消費地から情報の生産地へと向かっている。外がどう動いているか敏感になれるかどうかが鍵と話されました。公共図書館にも参考にすべきことはありそうです。機会があれば是非見学をお奨めします。

山本順一氏基調講演から

関東・甲信越静地区図書館地区別研修で、桃山学院大学の山本順一教授が基調講演されました。その中から、アメリカの図書館事情について少しだけ紹介します。

あるアメリカの図書館では、日本では考えられない物が図書館で借りることができます。「あなたが知らない図書館から得られる15のいいもの」と題して、実際に以下のものが貸出されています。

  • 博物館や催し物のチケット
  • 録音図書
  • DVD
  • 写真コレクションonline
  • 先祖の情報
  • 年齢を問わない催し物
  • 望遠鏡
  • 高額商品の購入助言
  • 調査研究支援
  • 無料コンピュータ教室
  • 集会室
  • 各種のゲーム
  • 電気自動車の充電
  • 家庭で使う道具類
  • 同人誌

スコップやのこぎりが図書館で借りられるなんて想像もできませんよね。
アメリカの図書館は、日本の図書館に比べて、はるかに日常生活に密着した「コミュニティに寄り添う図書館」のイメージが何となく伝わってきます。また、図書館内の無料コンピュータ教室ではコンピュータリテラシー教育をおこなっています。更に、ヘルスリテラシー教育や国際帰化手続きの支援などのリテラシー教育の場としても図書館が使われています。

アメリカの図書館が目指しているのは、本や情報を提供するだけではなく、「コミュニティ・アンカー」とのことでした。だから、地域の再開発プロジェクトなどにも積極的に参加します。足しげく通えば、名前も当然憶えてもらえます。「図書館のxxさん」と職員が個人名で呼ばれるほど、顔が見れるサービスが提供されています。

日本の公共図書館で地域の行事に個人的に参加する職員がどのくらいいるでしょうか? 図書館司書は資料知識や情報探索スキルに加え、情報加工しながらコミュニティと関われるコミュニティレファレンスへとシフトを迫られていくのではとの話でした。

詳細は来年論文で発表されるそうです。興味のある方は論文をお待ちください。

~サブコラム~ 忘れえぬ人々(図書館に吹いたM館長旋風)

K図書館システム入れ替えの商談は、今から5年ほど前の市町村合併の後でした。H副主幹も図書館経験がなく、4町のうち2館はシステム化がされておらず、新システムも決まらず小康状態が続いていました。そんな中、図書館経験のないM館長が着任されました。時間が押し迫っていく中、M館長とH副主幹は手探り状態で前へ進め、システムの採用までこぎつけてくれました。

システムと並行して館長が手掛けたことがありました。最初に図書館へ出向いたとき、職員がジャージー姿にスリッパで動きまわる姿に唖然としたのだそうです。合併直後の各館の温度差がまだ強く残る頃でした。

「図書館は市民の窓口」が持論の館長は、職員へのマナー研修をまず実施し、そして資生堂の方を講師にメイクアップ研修をおこないました。私も化粧は苦手ですが、口紅を塗るだけでも着るものから履きものまで変わってきます。もちろん図書館の雰囲気も随分と変わっていきました。(これには余談があって、なんと2組のカップルまで誕生したのです。「あのジャージーで飛び回っていた人?」と見間違うくらい綺麗に変身していたのには驚きました。)

M館長の旋風はまだまだ続きました。合併した分館の1つは老朽化した建物で奥まったところにありました。館長は市長を自ら連れだし、「こんな危険な場所で、若い女性を働かせるのですか」と直訴しました。そして、補助金を受け、A分館の立て直しを、1年ちょっとの早業で成し遂げたのです。オープニングには、他の館からも応援に駆けつけました。オープニングイベントには、元民間放送局のアナウンサーの読み聞かせと、大学准教授の基調講演があったと聞いています。

館長を見ていると、できないと諦めたらおしまい、自分のできる最大限の効果を考えて、落としどころを踏まえながら、できることから取りかかる、そんな姿勢を感じました。

今でこそ当たり前になりましたが、消防署と連携して人命救助のAED訓練をしたり、出先機関である図書館が孤立しないよう働きかけを続けます。役所の方も、「あの館長に頼まれたらなあ~、やらないわけにはいかない」と、皆さん重い腰を起こしていたそうです。出来上がった分館で、お見合いパーティをやりたいと言われていましたが、風の又三郎のように図書館を吹き抜け、今は自治体の他の施設で市民のために、きっと奮闘していることと思います。

「二度とない人生だからこそ、真摯に生きたい」館長からいただいた言葉です。



トピックス

  • 花みち図書館
    文京区の料亭を改造して地域のコミュニティ広場として開放している絵本図書館。
    絵本はメッセージ付きで寄贈。まだ日本語に翻訳されていない絵本の翻訳プロジェクトも。
    最近こうした私設図書館が増えています。しかも若い方々が立ち上げているのも共通しています。この現象に、「改めて、公立図書館の役割は何だろう?」と、知人が呟いていました。YouTubeでも画像が公開されています。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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