先日友人たちと長野県の伊那市から松川村まで幾つかの図書館見学をしてきました。
Library of the Year 2013の大賞を受賞した図書館です。たまたまFacebookで知り合った伊那市立図書館の平賀前館長に連絡したところ、熱い想いが弾丸の如く返ってきました。以下抜粋です。
いろいろ書いたり話してはありますが、要は伊那谷地域の知の共有地、デジタルコモンズ(リンクト・デジタルアーカイブスとその活用基盤)を作りたいというのが出発点です。 その動機は、急速に土蔵ごと捨てられていく明治以降の写真、日記、書籍、モノ、人のキオクを今記録しなければという思いです。
真に地域の人の暮らし思いをベースにした歴史を残すということ、そしてその物語(伊那谷の自然環境とそれに働きかけてきた人々の暮らしの内包する共同体の価値観)を共有すること、それをベースに今日と明日を考え、創造すること、それを記録すること、と言えます。 それが、「伊那谷自然環境ライブラリー」の取り組みであり、デジタルコモンズができたなら、皆がそれを二次利用して活用できるのだということを知ってもらうためのパイロットプログラムが「高遠ぶらり」プロジェクトです。
そこに地域の人々の情報リテラシー向上支援と図書館活用の機会を埋め込むために、学校や諸団体との協働プログラムが生まれ、またWikipediaTown in Ina Valleyなどというプロジェクトが派生していっているのです。 伊那図書館でご覧になった「私の本箱」などというのもその流れで実現している、図書館内での取り組みの一つですし、ご覧いただきたかった「昭和の図書館」もそうです。
アプリに関して言えば、上記の思いの中で、電子書籍元年の2010年に小布施まちとしょテラソのデジタルアーカイブシンポでであった、NII高野研究室にいた中村佳史さん、アプリ開発元のATR Creativeの高橋徹さんとの出会いから生まれたもので、小布施ぶらりが最初のアプリということができます(その活用は全く別物ですが)
お話の中にでた「高遠ぶらり(注2)」は、古地図で現在地を示すことができるデジタル地図です。所々に高遠の歴史や文化についての記事もあり、観光マップやGoogleMap(グーグルマップ)とも切り替えられます。高遠で実際に動かしてみたかったのですが、アンドロイドがうまく作動せず断念しました。いきさつに興味ある方は、高遠ぶらりプロジェクト(注3)を参照ください。
高遠図書館には古文書がたくさん残っていて、浅間山噴火の立体古地図など現物も見せていただきました。迫力あって、炎の向きや記録された死者の数で、風の向きまで読み取れます。新宿にあった高遠藩の資料なども、全て高遠に戻ってきているそうです。
次に、伊那図書館の入り口で私たちを迎えてくれたのは、伊那谷を連想させる木のオブジェと、段ボールの電車でした。伊那電氣鐵道1号車が模型で100年を記念して製作されたそうです。
図書館では通常処分される帯を、ファイルにして利用者に見せる図書館は見かけたことがありますが、伊那では場所をとらずに壁に吊るして利用者に公開していました。簡単なことですが、コロンブスの卵でした。
伺った日は、発禁コーナーのイベントを開催していました。どうしてこれが発禁?と首をかしげる本まであり、一同釘付けになって見入っていました。歴史をさらすって大事なんですね。
伊那図書館には、「伊那谷自然環境ライブラリー」という取り組みがあります。図書館を「地域・環境・くらし」の地域の情報拠点にする取り組みとか。これらは、「伊那谷の屋根のない博物館の屋根のある広場へ(注4)」を読むだけでも、充分に伝わってきます。前館長は、その後も膨大な資料を紹介してくださり、あまりの想いの強さに押しつぶされて身動きが取れなくなりました。いつかこの資料に目を通し、また紙面で皆さんに紹介できればと思ってはいますが、実現できるかどうかは自信がありません(笑)。
塩尻市立図書館は、複合施設“塩尻市市民交流センター(えんぱーく)”の中にあります。“えんぱーく”のモチーフは、瓢箪のように大小二つの円(縁)が繋がっています。人々の集いや交流、文化が繋がって発信していく場を表現しているのだそうです。2つの円は親子のようにも見えます。「この場所から細胞分裂して新たな活動へと広がってほしい」そんな想いを感じました。
図書館の棚は、嘱託/臨時にかかわらず職員全員に1か所割り振られていて、その棚に関しては、返本も書架整理もテーマ展示なども誰からも邪魔されません。それだけ責任を持っているのです。私たちが見た図書館内にあった行政情報コーナーも、担当職員が広報や市報の特集記事などを探し求めて置いていたのです。しかもこのアイデア、嘱託職員さんから出た案を採用したものでした。任されているからこそ、モチベーションも上がるわけです。
棚に並ぶ本も、利用者の利便性を追求して工夫があり、NDC分類のまま置かれていません。 例えば、
など挙げればきりがありませんが、お聴きできる範囲を列記しました。目線が利用者目線なのです。棚管理は1人の職員に任されているので、別置のマークをつけなくても入れ間違いもありません。
ちくま文庫はほぼ揃っています。 筑摩書房の創立者である古田晁氏が塩尻市出身で、現在もご家族のご厚意により新刊書の寄贈が続いています。ちなみに、古田晁記念館の館長は塩尻市立図書館の伊東館長が兼ねており、年に一度古田晁記念館文学サロンを行い、古田氏や筑摩書房に関係する内容で講演などを行っているそうです。そんな繋がりがあるからこそ続いているんですね。
書店との住み分けにも工夫がありました。英語のコミックは市内の書店では何処も扱っていないため、英語の教材や外国の方にも日本の文化を知ってもらえればと、コミックは英語版の購入と決めたそうです。「ワンピース」が、ずらりと英語版で並んでいる姿は、ちょっと壮観でした。
塩尻の私の一番は、「壁柱」です。図書館の内部には、建物を支える、いわゆる大きな柱はありません。一般利用者が出入りするフロアは、「壁柱」と呼ばれる厚さ20cmの薄い板状の柱も兼ねている壁(97本)が仕切りの役目も兼ねています。壁柱1本にひとつ「塩尻トリビア」と呼ばれる塩尻市の豆知識が書いてあるそうですが、中々探すことができません。 目線をふっと上に向けると、フロアのあちこちに駅や姉妹都市の方向を示すリボン型のサインもあります。利用者に「?」と好奇心を持って、この空間を楽しんでほしい“遊び心”を感じました。
図書館の休憩場所以外にも、この壁柱で仕切られた通路というかコーナーというか、そんな空間があちこちにあります。壁柱もフロアも「1壁柱」「1㎡」単位に有料で貸出されています。といっても、床1㎡の貸出し額は“1時間3円”と、高校生でも借りられる値段設定です。
武蔵野プレイス(注6)は、若者に図書館へ来てもらうためにティーンズしか入れない空間を作りました。でも、塩尻は、この微妙な壁柱のお蔭で、若者があちこちに散在し、食べ物を持ち込んでおしゃべりしたり、勉強したり、様々なスタイルで図書館を楽しんでいました。この「壁柱」空間は、来てみて感じないと味わうことはできません。気になった方は是非塩尻へ足を運んで実感してみてください。
松本市は、国宝松本城のある歴史のあるまちです。ガラス張りの中央図書館は、旧開知学校の隣にありました。図書館は岩波文庫が充実していて、お隣の塩尻市とは何気なく住み分けされています。歴史のある図書館だけあって、崇教館文庫、柴田文庫など16の特別文庫がありました。山岳文庫は、松本南ロータリークラブにより寄贈された基金をもとに創設されたアルプスの玄関口にふさわしい文庫として、日本山岳史上貴重な資料を今も継続して購入保存しています。
一番釘付けになったのは、ユタ日報(注8)です。ユタ日報は、信州からアメリカに移民した寺沢畦夫・国子夫妻がユタ州ソルトレークシティにおいて1914年(大正3年)から1991年(平成3年)まで大戦中も途切れることもなく発行つづけた世界的に貴重な資料です。全号揃っているのは世界に2つしかないとのこと。日本人差別が激しかった太平洋戦争のさなかに何故発行できたのか、素朴な疑問がわきました。ユタ州には、キリスト教の中でも迫害を受けていたモルモン教徒が多かったのが、日本人に対して温情だったのではとの説もあるようです。
松本には戦時中、山の中に軍需工場があったそうで、その模型と平和資料コーナーが設けられていました。平和資料コーナーの前で、館長が、「小さい頃は、この穴の中で遊んでいた」と、エピソードを語ってくれました。貴重な資料を保管するだけでなく、後世に伝えられるかたちになってくれればと願っています。
松川村は松本市から車で40分ほど北上したところに位置する人口1万人ほどの小さな町です。図書館でまずびっくりしたのは、玄関を入ってすぐの小学生のランドセル置き場でした。小中学校が1村1校しかなく、その小学校はすぐ目の前。「寄り道しちゃダメ」なんて、くそくらえ!」と、感じました(笑)。糸賀先生の話では、沖縄にもランドセル置き場のある図書館があるそうです。
ちょうど「図書館戦争」関連のイベントコーナーを作っていて、普通は壁に貼ってある「図書館の自由に関する宣言」が、机に平に置かれていました。一瞬不思議に思ったけど、これも立派な展示資料だったのです。松川村図書館の演出は、ニクイ!!
蔵書約6万冊のうち、半分弱が児童書です。そのため0~8分類は一般書と混配していました。館の方針として児童に焦点を当てていて、直ぐ近くの「安曇野ちひろ美術館」とは相互に密な連携をはかっています。来夏オープン予定の「トットちゃん公園」内の電車の図書館についても運用を協議されているとか。小中学校と公共図書館との司書異動もあるから、学校との毎月の連絡会議や、館内に中学校図書委員会のコーナーがあるなど、相互に濃い連携をはかっています。
この図書館の極めつけは、小説の棚ざし見出しに、著者の写真とプロフィールが記載されていることです。見出しの裏側は、大きな字で著者が書かれていて、両面で機能していました。これは中々できない!館長の話では、何処を探しても写真のない著者も数人いたとか。
棟田館長の胸にはフェルトの「おおきなおにぎり」が光っていました。長野県図書館協会主催の「信州朗読駅伝」というイベントがあり、松川村はお米が美味しいので米にまつわる本を読んだ時に、みんなの胸に「おにぎり」を付けて挑みました。館長は、おにぎりに反応した子どもたちには、自分を「親分」と呼ばせているそうです。館長の人柄を感じたエピソードでした。