NovelJam(ノベルジャム)の勉強会に参加してみた
図書館つれづれ [第105回]
2023年2月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

友人が2022年11月に開催された東京都港区立三田図書館・情報学会月例会で、特定非営利活動法人HON.jp(注1)の鷹野凌氏から、「NovelJam」(注2)という、図書館がこれから出版や資料と関わって展開できそうなイベントの話を聴いてきました。興味を持った友人が鷹野氏に直接アタックしたところ、トントン拍子に内輪のZoom勉強会までこぎつけました。HON.jpもNovelJamもなんのことかもわからずに、友人の「図書館でやっているところはまだないそうですが、実現できたら、図書館の資料を活用して新たなコンテンツを生み出す活動ができるのではと期待を寄せています。」の魔法の言葉に引き寄せられて参加しました。まずは、実現の可能性を探る勉強会でしたが、こんな世界もあるのだと知っていただくレベルの紹介です。

特定非営利活動法人HON.jp

「本(HON)のつくり手をエンパワーメントすることにより、創造性豊かな社会を実現する」というのがHON.jpの掲げるビジョンです。「支援」という言葉を使わずに、「エンパワーメント」というのもこだわりだそうです。その事業の一つに、短期集中型出版創作イベント「NovelJam」があります。

NovelJam(ノベルジャム)

NovelJamとは、「著者」と「編集者」と「デザイナー」が一か所に集まってチームを作り、当日与えられたお題に基づき、ゼロから小説を書き上げ編集・校正して表紙を付け「本」にして販売までを行う「短期集中型の作品制作・販売企画」です。即興演奏のように、参加者が互いに刺激を得ながらその場で作品を創り上げていき、「小説ハッカソン」あるいは「ライブ・パブリッシング」ともいうのだそうで、こちらも初耳の言葉でした。

1チームは、著者2人と編集者とデザイナーで構成され、数チームで競い合います。著者は書くことに集中ですが、編集&デザイナーが著者2人を担当するのは暇にならないようにも考えての編成だそうです。編集者は2人の著者の進捗管理や帯情報などの雑務も全て引き受けます。デザイナーは本の作成と同時進行してイラストや表紙を担当。著作権は、著作権者(作品原稿は著者、表紙はデザイナー)に帰属し、初出と合本は、HON.jpから配信しますが、出版権は設定しません。イベント内で制作したプロットやラフ案などは、最終稿を除き、一般向けにクリエイティブ・コモンズライセンス(CC BY-NC-SA4.0)で公開する辺りも、従来の出版社とは違った展開だと感じました。

NovelJamを通じ、日本語の表現・編集・校正・デザイン・制作・プロモーションなどの出版行為に必要な技能と、デジタル出版の工程をひと通り体験し、デジタル・ネットワーク技術を活用できる人材を育成するのも狙い。デジタル出版だから即「本(HON)」にして読み手につなげていくことができます。通常2泊3日のイベントの1日目は午後からの開講ですが、2日目と3日目はみっちり12~16時間の執筆時間。当日与えられたお題(例えば、2019年は「変」)をこの時間で書くのだから、小説といっても3,000字~10,000字ほどのショートストーリーが多く、締め切りが迫ったときの体験もできます。

運営側は工程のタイムキーパーのほかに、飲み物やお菓子等も用意します。プロットから3日で仕上げる脳は、フル稼働でカロリー消費するので、糖分が欲しくなるのだそうです。ボールペン、紙などの文具のほかにプリンターも用意します。何だかんだいっても、校正は印刷して初めて気付く誤植もあり、紙媒体に頼っているのも面白かったです。調べ物やレファレンスに必要な辞書や資料を揃えるのも運営側の仕事で、レファレンスの相談も受け付けます。友人はこの部分に図書館との相性の良さを見出したようです。何より成果物ができるのです。

エディタは、BCCKS(注3)というブラウザで使えるエディタを使用して編集を行います。ソフトをインストールする必要はないのですが、インターネット接続環境が必要になります。このアプリには印税の分配機能もあるそうで、世の中には便利なソフトがあることに感心しました。同じサイト内に、『電子書籍のつくりかたとひろめかた』や『本を出版したい人が知っておくべき権利や法律』も載せられています。イベントの最後に、プロによる表紙や作品の審査があります。初回から3回までは最終日に審査をしていたそうですが、さすがに審査員の方が大変で、今は後日審査形式で行われています。審査は制作のモチベーションをあげますが、評価の基準をどうするかなど運営側にも賛否が分かれるとのことでした。

本来、著作は孤独な作業です。一方、NovelJamは、本を作る担当者がリアルに寄りあいグループダイナミクスを引き起こしながら、みんなで出版の工程を体験し仲間を増やしていくという、それぞれの立場での出版活動にイノベーションを起こしています。

NovelJamを聴いての感想や意見交換

質問も活発に出た皆さんの感想は、「ヘビーだけど楽しそう!」に集約されました。応募は「著者希望」が一番多いそうで、その場での人数調整などは運営側でやります。かつて一人の編集者の争奪戦になったことや、途中で棄権した方も数人いたなどの裏話も聞けました。短期とはいえ、人間関係の相性の問題なども創作を左右するそうです。

これを図書館でやるとなると、泊まれる図書館はほぼないから、いきなりハードルは高くなります。合宿でなく期間を長くする工夫や、地域文学賞と絡めてもいいかもとの意見が出たり、阿賀北ノベルジャム(注4)や、ふくい絵本ジャム(注5)などの派生イベントの紹介もありました。

鷹野氏は、二松学舎大学で授業をされていて、NovelJam の全工程を15週に細かく分割して授業をされています。この工程、実は新宿区立図書館が50周年記念リレー講演会で開催した「本が私の手に届くまで」の(作家、編集者、校閲、印刷、書店)の工程と、デジタル特有の部分を除いて、さほど変わらないのに気が付きました。図書館ユーザーには自分史講座とか人気があるし、書きたい方は多いという話から、八戸ブックセンター(注6)の執筆部屋も話題にあがり、例えば、「校正講座」など一部の開催なら可能かもとの意見が出ました。後日談ですが、昔の山梨県立図書館には「出版部」があり、郷土史研究の成果物などを出版していたそうです。ほかにも、知り合いに漫画家さんや小説家がいたり、著作のある司書が実は案外いることがわかりました。

参加者が所属する大阪市立図書館100年史(注7)や、デジとしょ信州(長野県下の市町村と県による協働電子図書館)(注8)などの電子書籍も話題にあがりました。電子書籍はプラットフォームによって形式が違うから敬遠という方には、EPUB制作ツール「Romancer」(注9)なら月額600円ほどかかるけどWordを使って変換が可能とのこと。検討している方は試してみてください。

最後に、この勉強会を開催した友人の感想を紹介します。

「イベントとして見ると、運営や、ファシリテーターというか、チームで調整することがいろいろあるので、実際やるのは大変です。大変なこともあるけれど、楽しくてわくわくして、なにかをアウトプットして。うまくいったりいかなかったり、いろいろ試行錯誤する過程があって。いろいろあるけど作り上げるのはやっぱり楽しい。この気持を持って進んでいきたいよねー。やっぱり図書館は生み出す場になれると思うのです。」

この好奇心が司書の原点なのだと、あらためて感じました。

その他にも、「zine」という好きなものを自由な手法で一つの冊子にまとめるという、新しい表現方法もあるそうです。なんだかお腹いっぱいになったので、この辺で。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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