「図書館の未来を拓くスキル」ウェビナーからの報告
第3回「これからの図書館と図書館員のスキルを考える」

図書館つれづれ [第78回]
2020年11月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

前回、前々回に引き続き、未来の図書館研究所(注1)主催のウェビナー「図書館の未来を拓くスキル」の報告です。最終回第3回目のテーマは、「これからの図書館と図書館員のスキルを考える」です。講師は同じく、図書館と地域をむすぶ協議会の太田剛氏。今回は、7月に開館予定(研修当時)の宮崎県椎葉村図書館「ぶん文Bun」からのオンラインでした。開始直後には椎葉村のクリエイティブ司書の小宮山剛氏も参加し、開館前の想いを語ってくれました。

「クリエイティブ司書」って自分でつけたのかと思ったら、地域おこし協力隊の採用担当者がつけた彼のミッションだそうです。地域おこし協力隊には、その他にも、「村の営業」とか、飲み会から会議まで仕切る「ローカルファシリテーター」という役職もあるのだそうです。人口2,500人の村が生き残っていくために、悲願の図書館を開館しようとしていました。新聞記者や営業など幾つかの職業を経験してきた小宮山氏は、今は黙々と本を並べる日々だそうですが、「図書館には仕事の喜びが詰まっている」と話してくれました。それでは、今回も刺激的なお話を紹介します。

研修内容

図書館は、時代の変化とニーズに合わせて、貸し出し中心→滞在型→まちづくりへと変わってきています。そして、その変わるスピードは随分と速くなっています。太田氏が考えるこれからの図書館は、「ヒト・モノ・コトの交流と人材育成、雇用創出をもたらし、地域経済を循環させるソーシャルイノベーションを起こす図書館」です。その図書館職員に求められるスキルには、今までの資料収集・資料整理に加え、企画プロデュースやWebも含んだコンテンツ編集やデザインなど。デザインセンスのない私は、「POPで丸ゴシック袋文字を使うなんてNG!」の言葉さえついていけませんでした。図書館職員は役場の情報に疎すぎると指摘がありました。事務作業や行政手続きのスキルに加え、とりわけレファレンスとファシリテーションのスキルが必要と、編集的なポイントを解説してくれました。

1)ファシリテーション力と問題解決の3つのプロセス

最近よく耳にする「ファシリテーター」ですが、「司会者」とはちょっと意味が違います。司会者よりももう一歩踏み込んで、会議やミーティングなどで、発言や参加を促したり、話の流れを整理したり、相互理解をサポートする組織の活性化や促進を促す人であり、その能力がファシリテーション力です。

ここで、「公園のベンチが壊れた。あなたならどうする?」と、小さな問いかけがありました。直ぐに修理して終わりにするのではなく、話し合いの場を設け、何故壊れたのか、ベンチは本当に必要なのか?壊れないようにするにはどうすればよいか?など、その議論するプロセスこそ課題解決のプロセスで、そこにファシリテーション力が必要だといいます。

課題解決には、3つのプロセス(気づき→拡張→実現)があります。まず、気づきのプロセスでは、話し合いの場づくりをして、みんなから色々な意見を引き出します。拡張のプロセスでは、視点を変えてみたり、こだわりを捨てて仮説を立ててみたり、考えを添加していき、煮詰まったと思ったら、頃合いを見はかり一気に転換をはかります。そして実現のプロセスでは、各自に役割を持たせ、段取りをして、共に達成感を得る物語を作っていきます。

問題解決に必要な役割は色々です。チェアマンは、場を盛り上げながら活性化を担う進行役。エディターは、議論で持ち寄られた知識を再編集して関係者に提供する役。コーチは、専門性の高い話題をかみ砕いて説明する役。コーディネーターは、必要な人を集め問題の共有と課題解決へのフローの展開をフォローする役etc。必要によっては幾つもの役を演じ分けながら問題解決のフローを進めていきます。そのスタイルは人さまざま。自分のスタイルを早く見つけることが秘訣といいます。「言うは易し行うは難し」でそんな簡単なことではありません。

ファシリテーション力は、会議の交通整理をする力ですが、会議の場に限定される能力ではないと太田氏は指摘します。ファシリテーターのコツは多々あるけれど、やはり普段から小まめな挨拶をかわし、なんでも話せる雰囲気づくりが一番かなと感じました。

2)課題解決のプロセスの実践例から学ぶ

後半は参加者からのリクエストも受けながら、太田氏がこれまで手掛けてきた図書館や地域の課題に寄り添う図書館づくりの実例の話になりました。

和歌山県那智勝浦町「図書館資源を活用した困難地域等における読書・学習機会提供事業」

那智勝浦町では、学校へ行けない子どもたちの抱えている問題を解決するために、青少年センターの訪問型家庭教育チームのスタッフと連携し、図書館資源と電子図書館を利用した「地域の教育資源を活用した教育格差解消プラン」を実現しました。文部科学省の補助金事業です。訪問型家庭教育チームのスタッフは、保育士OBや学校の先生のOB、学校支援員、ソーシャルワーカーなどで構成され、小中学生の家庭を訪問しながら、困り感のある家庭とつながるきっかけを探しています。現役の先生には言いにくい子どもたちの悩みや保護者の悩み事も、チームで関係づくりをし、本やスタッフが繋いでいきます。引きこもりの子どもが、電子図書館に興味を持ち、スタッフと会話ができるようになるまでの過程は感動ものでした。家から出られるようになった子どもたちには、教育センターの中にある青少年センターで、スタッフが選んだ本やタブレットを貸し出し、電子書籍が読めるシステムもあります。チームの背後には、図書館職員と学校図書館司書のほかに、学校教育課の指導主事、青少年センターの相談員、福祉課の児童担当や生活保護担当などあらゆる分野の職員が関わっています。教育格差のその奥には、学びの格差にとどまらず、貧困やDVなどの家庭の問題も潜んでいるのです。

高知県梼原町「雲の上の図書館の本棚編集(SDGsから雛祭へ)」

雲の上の図書館の本棚は、いわゆるNDC分類ではなく、個別テーマやSDGsに沿った棚づくりをしています。雛祭りというと、多くの図書館は、雛壇を飾り、雛祭りに関する本を並べます。でも、雲の上の図書館では、本の雛壇を作りました。

最上段には、男雛の羽生結弦と女雛の浅田真央の本。三人官女には、縄文のビーナス、フェルメール展のガイドブック(表紙が「牛乳を注ぐ女」)に美少女イラスト集『乙女スタイル』。五人囃子も同様にして、フレディ・マーキュリーから星野源まで、ミュージシャンに関連付けした本を並べました。雛壇の本が貸し出されれば、すぐに同じ関連付けした本を補充します。こういうのも編集力なのですね。

墨田区「スカイツリー天望回廊で、点字で楽しむ北斎の物語」

墨田区の補助金事業で、スカイツリーの天望回廊の内側の手すりに、葛飾北斎の作品からイメージした公募による14の短編物語を、約60メートルにわたり点字テープを貼って展示しています。目が不自由だとなかなか高さを感じることができないそうで、点字物語を読みにスカイツリーに行ってみようと思う機会に一役買っています。一方、点字が読めない健常者は、目の不自由な方の助けを借りなければ、物語を読むことができません。普段は助ける立場の健常者が助けてもらう経験をし、いつもは助けてもらうことの多い人が人を助ける経験をするのです。障がい者と健常者の立場の逆転の発想を企画したのは、「天の尺」実行委員会。ネーミングまでしゃれています。余談ですが、「天の尺」実行委員会は、2000年にも東京タワーの外階段の手すりに物語を点字で記し、視覚障がい者が目の見える人とペアになって読み進めるイベントを開催しています。

太田氏が示してくれた実例はどれも、課題解決のプロセスを踏み、発想の転換を行いながら新たな気づきに注目し、視点を変えて、他の部署との連携や企画を練っていく話でした。ネタは尽きねど時間切れで、今回も楽しい時間を過ごしました。

第3回研修を終えて

終わった後の友人との雑談の感想を幾つか紹介して終わります。

  • 図書館はいつも予算がないといって行動に起こすのを諦めているけれど、実はお金がないのではなく、予算を取りに行くすべを知らないだけの話。普段からアンテナを張り、企画力や事務作業や行政手続きのスキルが足りていないのよね~。
  • 学びの格差や不登校の問題など、図書館を必要としている人はマジョリティとは限らない。利用者の対象をどこにするか。仲間内で話題になっている映画『パブリック 図書館の奇跡』にも出てくるホームレス対策なども、もう一度考えるきっかけになった。

尚、椎葉村図書館「「ぶん文Bun」(注2)は、7月18日に椎葉村交流拠点施設Katerie(かてりえ)の中に無事オープンしました。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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