ウィキペディア(以下、Wikipedia(注1))ってご存知ですか?誰でも編集できる、信頼度は今一つのWeb上の百科事典と思っている方が多いのではないでしょうか?では、実際に自分でWikipediaの編集をしたことはありますか?今回は、私のWikipedia編集体験をお伝えします。
Wikipediaは、非営利団体「ウィキメディア財団」が運営するプロジェクトの1つで、Web上の百科事典です。GoogleやYouTube、Facebook、Baiduに続いて、世界中で5番目にアクセスが多いサイトなんだそうです。皆さんも、調べ物のとっかかりに利用されているのではないでしょうか?ちなみに、「ウィキ」と省略するのはNG。ウィキはWikipedia を構築しているインフラを指します。
Wikipediaは誰でも執筆・編集することができ、閲覧は常に最新版が表示されます。記事のチェックも専門家ではなく、ユーザー同士で行います。編集のハードルが低いということは、色々な記事が存在することにもつながり、友達の中には、「書いてることがでたらめだから信用できない」と度外視する人もいます。信用できないと言われればそれまで。でも、古い百科事典だって、今では考えられない嘘がもっともらしく書いてあった時代もありました。それを嘘と呼びますか?Wikipediaの中に間違いを見つけたら、気が付いた人が正せばよいだけのこと。Wikipediaは多くの人の善意によって良い方向へ向かうよう努力が続けられています。
Wikipediaの記事を編集するには、3つの大事な方針があります。
偏った記述では、読者が得られる知識も偏ります。対立する意見がある場合は、「~によれば」のように反対意見もちゃんと書きます。偏らない多角的で客観的な視点が求められます。例えば、「享年XX歳」の記述も良しとしません。享年は仏教的色彩の強い用語で、数え年で書かれるため、実際の年とは異なります。書くなら「XX歳死去」と記述するのです。
Wikipediaで大事なことは、あとで誰でも検証できるように、この記述をするにあたり、どの情報源を使ったか、必ず出典を書きます。雑誌/本などによって引用の書き方に違いはあるようですが、細かなことはあまり気にしなくてよいと言われ、ここでずっと気持ちが楽になりました。外部からの査読を経ていないパンフレットからの引用も可能ですが、後日検証できるように図書館などで補完できることが条件だそうです。パンフレットの発行年の重要性も感じました。
百科事典だから、研究者が研究成果を発表したり、自分で自分自身について投稿する場ではありません。Wikipediaは勝手に編集記事を削除できません。記事の削除は、管理者のみ可能です。Wikipediaを信頼できるものするために、Wikipedia管理者の存在は欠かせません。
調べた結果を記事にする場合は、できるだけ複数の資料で確認をとります。そして、そのまま引用するのではなく、自分の文章として咀嚼して書きます。写真があると一目瞭然でわかりやすいのですが、自分で撮った写真を載せるのが無難です。グループで編集する場合は、友達が撮った写真は、友達にアップしてもらいます。もちろん撮影許可は事前にとってトラブルにならないよう気を付けます。記事は、「……である、……だ」で統一し、漢字仮名交じり文を使用します。カタカナは全角で、アルファベットや数字は半角で書きます。そのほかにも様々な決め事があります。
でも、こんなことは覚えていなくても大丈夫。Wikipedia上の類似した記事を参考にして、そのテンプレートを利用すると、なんとなく編集できます。編集をするのにアカウントは必須ではありませんが、強く推奨されています。他のSNSで使っている名前や、現実の名前などにしない方が良いとアドバイスがありました。
通常は、Wikipediaは一人で編集をします。でも、教えてくださる方がいれば、心強いものです。私がWikipediaの編集を学んだイベントでは、最初に、上記に書いたようなWikipediaの概要や編集するにあたっての注意事項を受けました。それから、3~4人のグループに分かれて、編集する記事を決め、グループごとに、編集にあたっての戦略を立て、実際の編集に取り掛かりました。
まずは、編集しようとする内容に類似した記事を参考にして、そのテンプレートを利用して作成しました。いきなり編集することも可能ですが、複数の人数で同じ記事を直接編集すると、誰かに上書きされるリスクがあります。そんな時はNoteなどを使ってテキストに、あらかじめ下準備をすることをお勧めします。特に、グループで記事を作成する場合は、スケッチブックにセクションごとの作業分担を書き、手分けして記事を作成すると、みんなの進捗も確認できます。ホワイトボードが無くても、A3用紙でも代用できそうです。初心者と経験者でチームを組んで編集すると、初心者のハードルがぐっと低くなります。
下準備ができた記事でも直接更新するのではなく、プレビューで出来上がりイメージを確認できます。初めての時はちょっと感動しました。更新した記事は全て履歴が残り、履歴も見ることができますし、過去の履歴を比較することも可能で、悪戯書きの防止にも役立っています。更新するときは、履歴に何を変更したか書いておくと、どこを変更したのかわかりやすいとのことでした。
自分が書こうと思っている人と同姓同名の方の記事がすでにあったなど、内容が異なる主題なのに記事名が同じになってしまうときに、それらを判別しやすくすることを「曖昧さ回避」と呼びます。例えば、Wikipediaで、「鈴木一郎」と検索してみてください。たくさんの鈴木一郎が表示されるページは人名(人物)の曖昧さ回避のためのページです。探している人物の記事を選ぶと、目的となる記事へ転送できるのです。そして、逆からでも引けるよう逆indexのようなものも作ります。まさに「百科事典」だと感じました。 所在地に座標を書いておくと、Google マップなどにリンクする機能もあります。但し、座標は10進法ではなく60進法ですが、座標の変換ツールもあります。まさに、至れり尽くせりの編集ツールが揃っています。
「ウィキペディアタウン」は、Wikipediaに関する理念や編集についてのガイダンスを受けた後、みんなで街歩きをしながら情報探しをします。そこで集まった情報をもとに、裏付けとなる資料を探し、実際にWikipediaに執筆・編集を経験し、みんなで発表しあうワークショップです。日本での「ウィキペディアタウン」の普及は、2013年に横浜で、オープンデータに関わる人々から始まりました。図書館が関わるようになったのは、2014~2015年からで、「ウィキペディアタウン」は現在100回以上も開催されているとのこと。Wikipediaに掲載することで地域の情報が世界中に公開され、地域の価値を再確認したり、多くの人が活用することで新しい付加価値が期待されます。「ウィキペディアタウン」では新規の主題だけを扱うのではなく、未完成な記事に出典を明確にしたり、記事の内容を充実させたりもします。ここでも色々な発見がありました。
編集のあとは、みんなで成果を発表しあいました。発表の途中で、「この記事は、自動的に削除する可能性があります」のような文語が表示されて、一瞬ザワツク場面もありました。前にも書きましたが、記事の削除は管理者しかできません。冷やかしの文章などは、善意の利用者がパトロールし、議論を提起し、その結果、削除が妥当であれば管理者によって削除されます。小さなミスなどもWikipediaに携わる人たちがチェックをして修正をしてくれるから、びくびくしなくても大丈夫です。そして、講師の方から、「ここをこうすればもっと伝わりやすくなるし、追記しやすくなる」などアドバイスがありました。励みにもなるし、多少間違っていても、気にせず経験を積む後押しをしていただきました。Wikipedia編集は奥が深く、ネットワークリテラシー教育にも役立ちそうです。映画「舟を編む」を思い起こさせるような貴重な体験でした。
Wikipediaは誰でも執筆・編集できるけど、こうやって最初に説明を受けて、意図を理解することはとても大事なことです。裏付け資料を探しながら編集作業ができるのが一番で、図書館はうってつけの場所なのです。さらに、調べ物をするという習慣が身につき、図書館本来の使われ方の浸透も期待できそうです。図書館側からすると、司書のレファレンス能力の向上にも役立ちます。できればWikipedia編集経験のある方に、グループで指導を受けて書くほうが安心できます。「図書館でWikipedia講習会」を開催できたら、地域の歴史に関する情報を残す手段として、地域の発掘にもつながるし、お年寄りと若い方々との交流など、図書館の新しい可能性を幾つか感じました。
ちなみに、ウィキペディアタウンを開催する場合の留意点を、友達がまとめていたのを紹介します。
Wikipediaに記載するには色々な制約があります。だから、北海道森町(注2)のように、ウィキを使って独自運営しているのは、ローカルウィキといいます。進んでいる自治体もあるんですね。
皆さんのまちで、色々な部署と連携して、ウィキペディアタウンを実施してみてはどうでしょう。Wikipediaは図書館ととても相性が合うと思うのです。