つるがしまどこでもまちライブラリーのことは、以前第25回のコラムでお伝えしたことがあります。あれから2年。先日、つるがしまどこでもまちライブラリーの埼玉県鶴ヶ島市役所と議会図書室のコラボで『出張!銀幕カフェ』のイベントが開催されました。鶴ヶ島市内にある「銀幕カフェ」は、高齢者向けに編集した65年以上前の有名映画を上映する、お年寄りが楽しめるカフェです。約43平方メートルの店内に15席。昔を思い出して脳を活性化させる「回想法」に期待し、全国展開を目指している沖縄の映像制作会社「株式会社ネットTV・KAISOU」の1号店としてオープンしました。その出張イベントだったのです。
「せっかくなら皆さんに、回想法のことを知ってもらったら」と提案し、私も参加してきました。市役所は日曜日なのでお休みですが、このイベントのために、1階のロビーと、3階の議会図書室は特別に入ることができました。
最初に、私が15分ほど回想法の紹介をし、銀幕カフェによる『愛染かつら』ダイジェスト版を鑑賞しました。その後は二手に分かれて、1階ロビーでは認知症サポーター養成講習会を、3階の議会図書室では銀幕カフェの映画鑑賞会(『ローマの休日』『悲しき口笛』『鞍馬天狗 角兵衛獅子』)が開催されました。最後は再びロビーに集まり、みんなで鶴ヶ島の雨乞行事を描いた絵本『雨をよぶ龍』(秋山とも子著 童心社)の朗読をしました。14時から17時まで実に濃い内容でした。その前後で、つるがしまどこでもまちライブラリーも幾つか案内していただきました。
今回は、市民に根付きつつある鶴ヶ島市のまちライブラリーの様子をお伝えします。
2017年は、議会基本条例が初めて北海道栗山町にできて、ちょうど10年になるのだそうです。
鶴ヶ島市議会議員の山中基充氏は、2017年に図書委員長になり、そんな節目の年を迎えるにあたり、議会改革の取り組みの一環として、議会図書室の改革に着手しました。
議会図書室の設置は義務付けられてはいるものの、有効に活用されてはいませんでした。そんな中、広島県呉市の議会図書室は専任司書を採用し、活発な活動をしていることを、図書館流通センターのセミナーで知りました。所用で呉市に行った際に、実際に議会図書室を訪問して感銘を受けたといいます。鶴ヶ島市の議会図書室は、新庁舎設置後30年間、本の棚卸をしたことがなく物置状態だったのです。山中氏は、まず、昔の議員野球のトロフィーなどの備品倉庫になっていた書庫の整理をし、本の棚卸から始めなくてはなりませんでした。
山中氏は、つるがしまどこでもまちライブラリー@鶴ヶ島市役所(以下、「@市役所」)のオーナーである砂生絵理奈氏のことを、砂生氏が監査の仕事をしていた頃から知ってはいました。昨年、「認定司書のたまてばこ」を出版したことで、図書館に造詣が深いことを知りました。「議会図書室を市民との交流の拠点に」と考えていた山中氏は、その手段の一つとして、まちライブラリーを議会図書室に導入することを決意します。砂生氏に相談し、議会事務局とも連携して、鶴ヶ島市中央図書館の指定管理者の協力のもと、市議会議員を対象にしたレファレンス講座も実施しました。
2017年11月には、@議会図書室の第1回植本祭を開催しました。植本する本は、一般市民が議員に読んで貰いたい本が中心です。議会図書室なので貸出は議員に限ります。一般市民への貸出はしませんが、閲覧は可能です。山中氏は、この活動を、2017年のマニフェスト大賞へも応募し、カレントアウェアネスでも話題になりました(注2)。
山中氏に、@議会図書室に何を期待しているのかお聴きしました。議員の方は、支持者のチャンネルを持っています。逆に言えば、支持者以外のチャンネルは無いに等しいのです。一般市民の声を聴けるのは議会報告会だけ。でも、なかなかハードルの高い場所です。@議会図書室にこだわるのは、もっと気楽に立ち寄れて、市民との交流の窓口になれるのではと思ったからでした。@議会図書室で銀幕カフェなどのイベントを重ねていき、団らんの会話の中から市民の声を拾い上げたい。今は議会全体を巻き込んでいないのが課題とのことでした。
鶴ヶ島市総合政策部の女性センターに勤める新井永江氏の悩みは、女性センター図書室の活性化でした。市役所内にスタートしたばかりのまちライブラリーは、みんなが読んでほしい本を持ち寄って植本していきます。女性センターにもまちライブラリーを作りたいとは思っても、趣旨に反する本が持ち込まれたらどうしようと、二の足を踏んでいたのです。そんな悩みを解決すべく砂生氏と一緒に知恵を出し合い、女性センター図書室の入り口に@ハーモニーを作りました。
@ハーモニーの植本祭はちょっと変わっています。みんなが本を持ち寄るのではなく、女性センターのイベントで紹介しあった図書室の本を植本していくのです。これなら人も集えるし、女性センターの趣旨にも反しないから一石二鳥です。
多くの市民に使ってほしい女性センターの本は、現在、市の図書館とはオンラインでつながっておらず、貸出はブラウン方式で行われています。図書費の予算も昨年から、ぐっと減らされました。鶴ヶ島市立図書館は、指定管理者の運営なので、色々なハードルはありそうですが、本が一元管理できるようになれば、利用ももっと増えるかもしれません。利用者にいきわたるサービスを模索しています。
@小春びよりのオーナーの永島ふさ子氏は、現在71才。学童保育室の指導員など市民の生活に積極的に関わってきた方です。女性センターが主催した「女性の起業手伝いセミナー」に参加したのがきっかけで、68才にして一念発起。ランチカフェ「小春びより」を起業しました。最初の数年間は赤字続き、今でも儲けはありません。でも、地元の皆さんの交流や憩いの場所になっています。元々本がある空間だったので、砂生氏からの誘いもあり、まちライブラリーに加わりました。永島氏本人も、皆さんと触れ合うことが、生きがいにもつながっているとのことでした。
@明日荷は、住宅街の、お庭のある素敵な自宅の離れにありました。オーナーの植田早苗氏は、ご主人のルーツが奈良県明日香村に近い場所ということもあり、現在、飛鳥応援大使もされています。
@明日荷の名前の名付け親は、交流のある玄侑宗久氏。「明日香」では世の中に同じ名前がいっぱいあるからと「香」は「荷」の字をあててくれました。「荷」には「蓮」の意味もあるのだそうです。ギャラリーには、玄侑氏のほとんどの本が揃っていました。
植田氏は、元々は鶴ヶ島市所蔵のパプアニューギニアの民族造形美術品をサポートするボランティアをしていました。パプアニューギニアへも直接行かれたことがあるそうです。市役所の植本祭に参加したのがきっかけで、砂生氏に声をかけられ、まちライブラリーに名乗りを上げました。植物や美術の本に囲まれた、とても居心地の良い空間ですが、実はギャラリーを開けている日は週に1日。そんな自分のペースでできるのも、まちライブラリーの魅力かもしれません。
今回伺うことはできませんでしたが、鶴ヶ島市には、ほかに、つるがしまどこでもまちライブラリー@Water Ship Cafe(注6)があります。砂生氏の「鶴ヶ島をまちじゅうライブラリーにしたい!」夢は、今も実現に向け増殖中です。
市役所が休みの日に、市役所でイベントって、凄くないですか?
参加者には、中小企業庁が全国に設置した「よろず支援拠点」の埼玉県の責任者もいました。認知症対策のイベントは、地域や行政と密着できるからこそと実感しました。