岡山県真庭市散策と真庭市立図書館
図書館つれづれ [第132回]
2025年5月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

2024年11月、横浜で開催された総合展で、「Library of the Year 2024 優秀賞」に選ばれた岡山県真庭市立図書館の上杉朋子さんにばったり遭遇。上杉さんは大阪府豊中市の図書館時代からの知り合いです。彼女がどうして真庭へ行ったのか気にはなっていて、以前から行きたいなあと思っていたのです。そこで、その場に居合わせたメンバーで、速攻「行こう」となり、真庭市の図書館振興室の佐藤弘敏室長が直ぐに宿を予約してくれて、真庭行ツアーは決まったのでした。いつものごとく途中離脱の人もいれば、真庭の図書館だけ一緒に見学する合流組に、道中合間の倉敷の案内のみしていただいた方などもいて多彩な旅でした。

今回は、真庭市を巡りながらの図書館見学の報告です。

岡山県真庭市のこと

真庭市は、2005年に勝山町、湯原町、久世町など9町村が合併して誕生した、面積では県下の11.6%を占める大きな自治体です。岡山県の北端にあり中国山地のほぼ真ん中で、北は鳥取県に接している中山間地域。12月初旬でしたが、「岡山市内とは気候が違うからね」と念を押され、防寒対策をして出かけました。観光を楽しんだ一部を紹介します。

1) まにわ発酵'sと銀沫(ぎんしぶき)

真庭市は、蒜山高原からの雪解けの軟水と、北房の備中川には鍾乳石から滴る中硬水が交わる珍しい市域。2012年、多様な発酵食品(ワイン・チーズ・味噌・ビール・お酒)に魅せられた真庭の酒蔵や企業、工房が集まり、互いの手法を公開し、真庭の食文化を発信する「まにわ発酵's」を設立しました。お土産のほか、夜には美味しいお酒もいただきました。発酵食品ではありませんが、この時期しか食べられないという「銀沫」という濃厚な甘みのある山芋も堪能しました。

2) 城下町「勝山」

江戸時代の美作西部の中心地で、旭川を行き交う高瀬舟の最上流部の港でもあり、物資の集散地として栄えていました。「高瀬舟」羊羹は有名です。現在は岡山県初の町並み保存地区に指定されていて、古民家や蔵などを活用した工房、ギャラリー、カフェなどがあり、多くの寺院なども残っている観光スポットになっています。真庭市立中央図書館は、勝山町並み保存地区の端にあり、もちろん散策を楽しみました。

3) はんざきセンター

湯原図書館と同じ駐車場敷地内にあり、正式名称は、「真庭市オオサンショウウオ保護センター」。はんざきとは、体が半分にさけても(半割:はんざきになっても)生きているという言い伝えからそう呼ばれているそうな。センター前のタイルのオオサンショウウオは、「(スペイン バルセロナの)グエル公園のトカゲみたい」とテンションがいきなり上がり、中の本物と目が合えば「きゃー!」と喜び、上を見上げれば段ボールでできたオオサンショウウオにまた大喜びの元乙女の集団。こんなオオサンショウウオが普通に生息しているそうです。

4) 湯原ダム

岡山県一を誇る貯水量で、迫力のコンクリート壁下には、湯原温泉の露天風呂砂湯を見下ろせます。ちなみに、湯原温泉は、岡山県北にある美作三湯(湯原温泉・奥津温泉・湯郷温泉)の一つです。

真庭観光Web:https://www.maniwa.or.jp/

真庭市立図書館

真庭市では、2012年に「真庭市図書館基本構想」を、2015年には「真庭市図書館基本計画」、2021年には「真庭市図書館みらい計画」を策定しました。上杉さんは2020年3月に真庭市へ移住・転職し、「みらい計画」の策定から関わります。その後、NPOなどで住民参加のまちづくりを実践している西川正氏が、2022年度から中央図書館長に就任しました。余談ですが、館長の著書『あそびの生まれる時』は、目から鱗の地域活動の様子が生き生きと書かれています。

図書館は中央図書館を含め7館あり、ブックるん(自動車文庫)も市内を巡回しています。今回は2館訪問させていただきました。

1) 真庭市立中央図書館

真庭市立図書館の中央図書館は、築37年の庁舎をリニューアルして2018年に開館しました。既存建物を活かす「リファイニング」という独自の手法で、外観はもともとの外壁も残しながら、耐震補強等を行っています。また施設内には東京オリンピックでも使われていた市産杉と桧のCLT板を使用しているのが売りです。ちなみに、CLT(Cross Laminated Timber)とは直交集成板というもので、鉄筋コンクリートや鉄骨に比べ軽量で、高い耐熱性がありCO2排出量も少ないと、地球にやさしいメリットがあるのだそうな。空調設備は木質ペレットを使用し、こちらもCO2削減に貢献しています。

本の重さに耐えるため、床に穴をあけて床の重さを軽減させ、採光も兼ねたデザインは目を引きました。

1階は一般書、2階は児童書、3階は議場をそのまま残した映像シアターや会議室、学習室です。案内はUDフォントで大きくて見やすい。ティーンズコーナーの発泡スチロールのどでかい本は館長のお知り合いのお手製で、バーコードも貼って蔵書登録されています。突如現れたカウンターもどきの中のドアには度肝を抜かれ???聞けば、絵画などを展示するため、襖をリサイクルして作っただけの「板」とのことでしたが、そんな遊び心もたくさん点在しています。勝山にゆかりのある谷崎潤一郎の書籍コーナーに、真庭の発酵文化を紹介するコーナー、真庭の高校推し、SDGs関連本コーナーなど、数え上げたらきりがない。ウトウト寝をしてしまった炬燵のコーナーは、本当に家にいるような気分でした。

気になっていたのは、休校や廃校になった小・中学校の校歌を、地域おこし協力隊と一緒に収集していること。まだ存命な人がいるうちにと積極的に取り組んでいて、NHKでも放映されました。みなさんが実際に歌っている動画はYouTubeで公開されています。校歌は、一覧が郷土資料のコーナーに保存され、中を開くとQRコードから校歌が聴けます。「出席簿」のネーミングが憎すぎます!

建物をリボンでラッピングしたり、さまざまなイベントを仕掛けて、周囲の度肝を抜いていくのは西川館長。「同じことをやるのはつまらない、いつも何かおもしろいことを探している」のだそうです。以前から働いている司書の横山衣未さんに聞くと、「上杉さんが来て、今までの図書館の概念ががらりと変わりました。図書館でここまでやっていいんだ」と、目から鱗だったそうな。館長と二人三脚の上杉さんが、他の司書のアイデアも取り入れながら、楽しく仕事ができるよう配慮をしています。

2) 真庭市立湯原図書館

2020年、湯原温泉の温泉街に建つ複合施設「湯原ふれあいセンター」の一角にリニューアルオープンしました。土曜日の朝一とあって、利用者は少なかったですが、全体的にゆったりしています。ぬりえなどの遊びコーナーがあり、家の延長のような居心地の良さを感じました。

木材の本棚の側板は改修時に付けたそうで、サインが変更しやすい形になっていました。所蔵数が中央館と違いが少ないため、市内の本や県立図書館の本なども手に取れる工夫がありました。地域資料のコーナーに、図書館のウィキペディアタウンで立項した記事へのQRコードがある工夫はさすがです。

そして、忘れてはならない、同じ敷地内にある「はんざきさん」推し。

司書の真野咲実子さんが、基本一人で切り盛りしています。

真庭市立図書館:https://lib.city.maniwa.lg.jp/

真庭の人びと

「真庭市の図書館サービスは、他の図書館と同じで、むしろまだまだできていないことも多い。でも、豊中のような都会ではなく地方だからできること、注目されるようなことも多い」と上杉さんは話していました。

実は私、2館見学して、教育長の理解のもと、真庭の図書館があまりにも優遇されている現場にちょっと危機感を覚えました。図書館に理解ある教育長や首長が変わった途端に施策が一転という話を幾つか聴いています。上杉さんに投げかけたら、彼女も来館者は増えても貸出に結びつかないなどを気にしていました。

最終日の夜は久世へ移動して、上杉さんのお友達の東京からの移住者が運営するシェアハウスに泊まり、久世の美味しい料理とお酒をいただきました。

伺ったお店は、まちづくり市民応援団「まにワッショイ」の代表者岡本康治氏のお店でした。一度は町を出て町の良さを再認識しUターンで戻ってきた彼は、地域の商店主さんたちと「頼まれごとは試されごと」の言葉の下、「なつかしの学校給食」などのイベントを企画して町を盛り上げています。一般社団法人真庭観光局が2022年に発行した『真庭の人びと』には、「観光資源は人」と言い切り、素晴らしい笑顔の方々が紹介されています。その仲間に、地域おこし協力隊や上杉さんのような移住者が加わってまちを盛り上げているのです。

見学を終えて

2024年12月半ばから年始まで、第3次真庭市総合計画案のパブリックコメントが募集されていました。ちょうど記事を書いているときに、この計画案を一緒に読んで考える場をつくったという上杉さんのSNS投稿を見ました。「これからも地域の人たちと仲良く、ぼちぼち、やっていきたい」という上杉さん。図書館がブレないためにも専門職は必要で、安定した立場で雇用を続けてもらうためにも評価が伴う活動を続けていってほしいと願います。「ぼちぼち」がまた彼女らしくて素敵です。

YouTubeの「まにわとしょかんチャネル」など書きたいことはまだたくさんありますが、今回はこれにて一旦おしまいです。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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