はまどおり大学ウェビナー
「ネット利用に潜む危険性について~子どもたちの現状」

図書館つれづれ [第88回]
2021年9月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

震災後福島県に移住した友人から、はまどおり大学で「ネット利用に潜む危険性について~子どもたちの現状」と題したウェビナーがあると聞き、2021年5月に参加させていただきました。はまどおり大学(注1)は、東日本大震災で大きな影響を受けた地域で、「絶対的な正しさや常識はない」ことを前提に、さまざまな活動を続けている任意団体です。インターネット上の情報リテラシーについては、以前第72回(注2)のWebコラムで紹介したことがありますが、今回は、医療創生大学心理学部の中尾剛教授による、もっと現実的で具体的なお話でした。

子どもたちの状況

子どもたちのインターネットの利用時間は増え続けています。内閣府令和元年の調査によると、ゲームから入る小学生が7割を占めています。ゲームはエスカレートしてくると課金モードに入り、今やいわき市の1年間の予算(1,490億)の10倍の市場だそうです。中学生以上になるとコミュニケーションツールとして利用され、高校生では1日ほぼ4時間を、パソコンではなくスマートフォンでSNSを中心に使われているとのこと。

そうなると、有害サイトを排除するフィルタリングが気になります。18歳未満の青少年がスマートフォンや携帯電話の契約・機種変更をする際は、店頭などでフィルタリングの設定が義務付けられています。フィルタリングには、幾つか方法があります。

  • ホワイトリスト方式:つなげるサイトを限定する(主に、小学生が対象)
  • ブラックリスト方式:事前にサイトを限定する(主に、中学生・高校生が対象)
  • キーワード・フレーズ方式:「薬物」「性暴力」などのキーワードで限定する
  • レイティング方式:第3機関が評価して限定する

とはいっても、最近はWi-Fi環境が整備されているので、携帯電話会社の回線を通らない抜け道がたくさんできているのだそうな。在職中、図書館にインターネット端末を設置するときにフィルタリングソフトを導入したのを思い出し、今は益々複雑になっていくインフラに、SEは大変だろうなあとつい同情してしまいます。

生まれたときからデジタル機器が普通にある子どもを「デジタルネイティブ世代」と呼ぶのだそうです。平成生まれの「インターネット世代」は、小さいうちからその世界に生きているから、インターネットは怖いという感覚はありません。赤ちゃんは言葉も話せないときはお母さんの顔色を見ながら泣いたりして基本的信頼関係を築いていくのですが、授乳中でさえお母さんはスマホとにらめっこ。赤ちゃんは、どこかで「自分に関心がないんだ」と諦めて、感情表現に乏しくなる「サイレントベイビー」になる可能性があるんだよと以前知人に話したら、こっぴどく理論突破されたことを思い出してしまいました(笑)。でも、ケータイやスマートフォンへの依存はエスカレートしていて、笑いごとでは済まされない時代が危惧されています。2018年の厚生労働省の調べを分析すると、依存症のタイプは幾つかに分かれ、それぞれリスクが潜んでいます。

  • リアルタイム型ネット依存:チャットやゲームに依存し、昼夜逆転の危険
  • メッセージ型依存:ブログやSNSへの頻繁な書き込みにより事件に巻き込まれる危険
  • コンテンツ依存型:刺激を求め、不適切な動画投稿の問題となる危険

さらには、いつも友だちと繋がっているから、絶えず人の目を気にする生活に精神が病んでしまう危険を含んでいます。被害例として、Twitterへの不適切な投稿、出会い系サイトや自画撮り被害などの状況の説明があり、聴いている方は、実態にただただ驚くばかりでした。

ネットとの適度な距離感の情報モラル教育は、箸の上げ下ろしと同じ教育と説かれたものの、教育する側の親や先生でさえどんなリスクがあるか把握できていないのが実情です。

早期の情報モラル教育の実現にむけて

インターネットを安全に利用するために、実際に事例を交えて説明されました。学校や家庭や地域で、青少年の発達段階に応じた幼少期からの早期の情報モラル教育の重要性と実施例を示します。

1)小学校:親子で考えるきっかけを作る。まず、親の意識を変える必要がある。

小学校の授業参観の日に、4年生以上の児童と保護者を対象に実施。

2) 中学校:犯罪や依存症などの問題を自ら考える。

SNSやゲームの依存症の怖さと影響についてPTA総会で講演を実施。

3) 高校:情報メディアの本質を理解する。

情報は短時間で広域に伝播され、消し去ることはできません。ある高校では、1年生の教科「産業社会と人間」と題し、インターネットの被害者や加害者にならないため事例をあげ毎年行っているとのことでした。

興味を引いたのは、トラブルの事例をいくら紹介しても、問題を「自分のこと」として自覚しなければ効果がないことです。そのためには考え続けさせることが重要だと言います。問題のリスクは二者択一ではなく、どのような状況になったら危険と判断すればよいかというグラデーション発想が必要との話も興味を持ちました。

そして、家庭内でルールを作るだけでなく、子どもと一緒に考え、一緒にルールを守ることが大事と話されました。そういえば昔、テレビが普及し始めた頃、子どもには「食事中はテレビを消す」ルールを作りながら、父親は野球中継を見ながら食事をしていたなんて家庭が多かったことを思い出しました。説得力ないですよね。

最後に、情報社会で忘れてはいけないもの、それは、「ヒト」は感情を表現できる生き物であること。データで「ヒト」の豊かな感情を表現できるのかと問いかけて、やっぱり「ヒト」がリアルに繋がっていることの重要さを説かれました。ネットで済ませてよいことの見極めは、使用する人の「モラル」と「判断力」と「リスクの想像力」だと結びました。

感想

コロナ禍で出歩くことが制限され、リアルなコミュニケーションの場がなくなっています。Zoomなどのインターネットを利用したコミュニケーションツールが普及し便利になったこともあるけれど、やはりリアルな繋がりが恋しいと切に思うこの頃です。

ますます加速化されていく情報社会の中で、野放しにされているインターネットリテラシー。学校での教育ももちろん大事ですが、図書館は学びの宝庫です。便利だからこそ如何に安全に使うか、特に低学年のお子さんと保護者を対象にした「一緒に学んで一緒に考える」、そんな学びの機会に図書館が一役買ってもいいのかなあと感じました。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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