「図書館とビッグデータ」セミナー
  サブコラム:忘れえぬ人々
図書館つれづれ [第6回]
2014年11月

執筆者:ライブラリーアドバイザー
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

11月以降も引き続き書かせていただくことになりました。読者の皆さんがいればこその続投で、まずはお礼を申し上げます。
「システム提供業者は図書館のパートナー」を肝に銘じてきましたが、在職中はトラブルで迷惑をおかけしたこともありました。せっかくの機会をいただいたので、数々の出会いの中で、私たちが心に残る「忘れえぬ人々」をアーカイブとして書き留めることにしました。もちろん、最近のトピックスも紹介していく予定です。下期もよろしくお付き合いください。

平成26年度 東京都図書館協会講演会 「図書館とビッグデータ」に参加して

9月12日に都立中央図書館で開催された「図書館とビッグデータ」の講演会に参加してきました。
講師の日本能率協会総合研究所MDB(マーケティング・データ・バンク)の菊池健司氏は、前回の専門図書館の紹介の時にもお知恵を拝借した方です。MDBは、「日々、商品開発・技術開発・新規事業に関わる情報調査案件が舞い込む」日本最大級のビジネス情報提供機関です。現在の社会情勢の中で、図書館が生き残るためのヒントを、「ビッグデータ」との関わり方と参考事例を交えながらのお話でした。

ビッグデータとは、人間の頭脳で捉える範囲を超えた膨大なデータを処理・分析して活用する仕組みをいいます。客観的データを基に顧客層の洗い出しや利益の転換を図ることは古くからやられてきました。1996年にインターネットが登場してからは、データ量が加速的に増え続けています。更にコンピュータの性能向上が拍車をかけ、ビッグデータビジネスという言葉まで生まれました。最新の経営課題を実態調査から見る傾向には、ビッグデータの分析・活用は大きなウェイトを占めているとのこと。

主婦が献立を決める時、天気予報を参考にするのは素人でも考えつきます。でも実は、それ以外のTwitter、Facebook、雑誌や金融情報など各種データを組み合わせてビッグデータソリューションは構築されているのだそうです。あの広大なアメリカでアマゾンが翌日配送を可能にしたのも、ビッグデータから予測して、次に希望する商品を近くの配送センターへ送ることから実現しているとのことでした。

ビッグデータの活用といえば、アマゾンやTポイントカードなどは思いつきますが、私たちの周りにあるビッグデータの活用事例の中から幾つかを紹介します。

  • カーリルの図書館の一括検索(注1)
    カーリルでは、全国の6千以上の図書館における蔵書の貸出状況を検索できます。公共図書館と大学図書館を一緒に検索でき、開発者向けにAPIも無料公開しています。
  • OKFJ(Open Knowledge Foundation Japan)(注2)
    OKFJは、政府保有データをはじめとする多様なデータの生成・公開・利用を支援し、データの活用を通じて人の行動やシステムの挙動が、 より洗練され事実に基づいたものとなり、経済、人々の生活、民主主義、学術研究などの質が向上した社会を実現するために設立されました。オープンデータのポイントは、分析や利用が容易な電子データとしての公開です。民間が公開された膨大なデータを組み合わせて分析し、新たな価値を生み出すことで、参加や協業が生まれます。
  • Takestock(注3)
    Takestockでは、全国にある1,400箇所の書店の在庫と、6千箇所を超える図書館の蔵書とを、一気に検索することができます。書店の在庫情報はTakestockが自前で顧客開拓し、図書館の蔵書情報はカーリルAPIを利用してカーリルからデータを取得しています。
  • データシティ鯖江(注4)
    積極的にデータを公開して「オープンガバメント」の実現を目指す自治体です。鯖江市図書館は、鯖江市のオープンデータ政策との連携の他にも、運営・事業面で話題性と先駆性の高い図書館として2014年のLibrary of the Yearの優秀賞受賞機関の一つに選ばれています。

では、図書館は、ビッグデータとどう関わっていけばよいのでしょうか?

データサイエンティストという言葉を知っていますか?今、世界で一番魅力的な職業とか。データ分析は、「トップマネージメント」からの要請です。例えば、日経ビジネスのタイトルを目次だけ追いかけても時代の半歩先が読めるのだそうです。そして、これから必要とされるデータサイエンティストは、数字を理解できる人です。最近の統計学本の大ブームがそれを実証しているのだそうです。意思決定をするためには情報を集める能力が必要なのです。でも、これって、元々図書館員に求められていた能力ですよね。

「キュレーション」という言葉も出てきました。インターネット上の情報を収集してまとめること。または収集した情報を分類し、つなぎ合わせて新しい価値を持たせて共有することをいいます。

キュレーションを行う人はキュレーターと呼ばれ、博物館や図書館などの管理者や館長を意味する「Curator(キュレーター)」からきているのだそうです。情報の収集手腕や整理はキュレータの価値判断に委ねられていて、キュレーションされたものは、プログラムなどで自動的に収集する従来の検索サービスの検索結果と比べて、「不要なものが少ない」「センスが良い」などといった理由から人気が高まっているとのこと。注目しておきたい「キュレーション」サービスも紹介されました。

  • キュレーションマガジン「Antenna」(注5)
  • ハフィントンポスト日本版(注6)
  • 知恵クリップ(注7)

さすが、情報を売っている会社だけあって、資料の情報量が半端じゃありませんでした。私の頭では全てを消化できていなくて、皆さんに伝えることが出来なくて残念です。

それでも、彼が一番言いたかったことは、「図書館職員が生き残るために何をすべきか、このビッグデータの取り込みの中にヒントを探してほしい」というエールだったのでは、と感じました。

~サブコラム~ 忘れえぬ人々(誠実さを教えてくれたH係長)

今でこそ学校図書館システムは随分と普及してきましたが、もう10年以上も昔の話です。
既に各学校には個別に図書館システムが導入されていて、それをネットワーク型にする案件でした。市立図書館へもシステム提供していた他会社が高額な見積りを提示してきたことから事態が一転し、私たちの会社へもH係長から提案依頼が来たのでした。営業からの問い合わせに、“現行メーカーから移行データの提供が可能なこと”を条件にして、ヒアリングのため現地へ向かいました。

ところが、現行メーカーからは、移行データの提供どころか一切の協力は望めないとのこと。営業には、「移行データがもらえなければ引き受けられない」と宣言したものの、私たちが断れば担当のH係長が窮地に追い込まれることは必至でした。納期までのスケジュールがタイトだったため、借用書を提出し、お客様より書誌データをお借りすることにしました。電話でダンプ用のソフトウェアの準備を頼み、最終便で東京に戻り、その夜にダンプリストを出力するところまではこぎ着けました。

翌日からデータ解析が始まりました。数字ばかりが並ぶダンプリストを追っかけるなんて何十年ぶりかの解析の仕事でした。解析可能と判断し、受注後はSEにバトンタッチ。書誌は移行仕様書に基づき移行しましたが、利用者データは個人情報のため借用しなかったので、システム移行はせず代替案を提案し対応しました。タイトなスケジュールでしたが、何とかシステムも無事納めることが出来ました。

数か月後、会社の受付からH係長の来訪を告げる電話がありました。「えっ!会社まで!一体何が起きたんだろう?」脳裏を厭な予感が飛び交います。ヒヤヒヤ顔で対面する私に、H係長は、深々と頭を下げ、システムが無事稼働したお礼を言ってくださったのです。本社までわざわざ稼働のお礼に来てくださったのは、先にも後にもH係長だけでした。

市立図書館のN館長とH係長とは両輪の環で、素晴らしい図書館行政をされた方でしたが、その後、癌で亡くなられました。N館長から訃報を聞き、営業と共に御線香をあげに自宅まで伺わせていただきました。
H係長のことを思いだす度に、彼の誠実さに心打たれながらも、同時に、システム提供業者は決してデータを盾にユーザーを追いつめてはいけないと、いつも自分を戒めていました。


トピックス

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図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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