2024年6月、日本図書館協会にて2024電流協電子図書館セミナー「電子図書館・電子書籍サービス調査報告2023」が開催されました。
実は私、電子書籍まわりの2つの団体、JEPA(日本電子出版協会)(注1)とAEBS(電子出版制作・流通協議会)(注2 以下、電流協)の違いがわからず。改めて、JEPAは1986年設立の古くからの電子出版推進団体で、電子書籍だけでなく昔のCD資料など広義の電子出版を、出版社の立場から普及させる活動をしています。一方、電流協は、印刷関連会社が中心となって2010年に設立され、「.book」や「XMDF」フォーマットや、近年のEPUBで作成されている電子書籍にフォーカスした団体です。電流協設立当初は、総務省や文部科学省、経済産業省の後押しもありIT企業の会員も多かったとか。両方に加盟している団体もあり、現在は似たような団体になっているのも事実だそうな。そもそも電子書籍は図書資料?電子書籍の範囲はどこまで?さらに、アクセシビリティに対応とは読み上げができればいいの?そんな「もやもや」を抱えながら、開催団体の背景を理解したところで、間違った理解もあるかもしれませんが、報告書に添いながら、電流協電子図書館セミナーを報告します。
最新動向のアンケートは、メールと郵送で自治体ごとの公共図書館1,176館に向け発送し、回収率は約6割。コロナ禍以前の2020年1月の調査では90自治体の電子図書館導入が、コロナ支援金で拍車がかかり、2024年4月の調査では550自治体にまで普及。未導入自治体も半数以上が導入を検討していて、今後も緩やかながら増えていくことが予想されます。「提供されているコンテンツの数が少ない」課題に対しては、20万タイトルを超える書籍が提供されているのに対し平均で1万点にも充たない契約点数に問題あるとの指摘がありました。図書館側からみれば、ベストセラーや新刊書などが少ないことが挙げられていて、双方のコンテンツの捉え方にギャップを感じました。貸出回数や有効期限に制限があるのも課題とは友人の弁。
アンケートでは以下に注目していました。
電子書籍サービスを導入している自治体での学校授業や読書活動も増えていて、GIGAスクール構想の影響がうかがえます。
電子書籍サービスの運営やコンテンツの費用負担の工夫には、「ふるさと納税」や「クラウドファンディング」などが浮上。地域格差も生まれていて、広域で電子図書館を利用するケースも増えています。
図書館公衆送信サービスに関する補償金制度にも触れていて、一般社団法人図書館等公衆送信補償金管理協会(SARLIB)が設立され、運用や運用ガイドラインが示されています。
電子図書館コンテンツ(電子書籍)のメリットとして、
を挙げ、電子図書館事業の導入に関しては、資料費だけで考えてはいけないとのことでした。
読書バリアフリー法の制定に伴う動きを幾つか紹介します。
アクセシブルな電子書籍が視覚障害者等の手元に届くには、ボランティア作成(DAISY・点字・テキスト化)、サピエ図書館、電子書籍サービスなど大きく5つのルートがあります。TTS(テキスト読み上げ機能)等に対応した民間書籍サービスについて、公表された電子図書館のアクセシビリティ対応ガイドライン1.0(注3)は、特定電子書籍(デイジー図書等)を除いたガイドラインです。
電子図書館ではなく、市場となる電子書店(ストア)の電子書籍販売サイトアクセシビリティ・ガイドブック(注4)を公表。障害者差別解消法の改正に伴い2024年から民間事業者にも合理的配慮の提供が義務付けられました。確かに、ログインや決済までの手続きは障害のある方には複雑すぎ。ガイドには、掲載情報の読み上げ機能、点字ディスプレイにブラウザの拡大機能や、文字と地の色反転などはもちろんのこと、声で読み上げられない画像や図表などの説明やリンク先など細かいガイドが記述されています。これらは、ハンディキャップ支援のための「みんなの公共サイト 運用ガイドライン2024年版」(注5)が元になっているのだそうな。
商品そのもののアクセシビリティを支援。電子書籍には、画面のサイズにかかわらずレイアウトが固定される「フィックス型」と、PCやスマートフォンなどの画面サイズに合わせてレイアウトが変更できる「リフロー型」があります。電子書籍の製作と販売の促進を図り、日本書籍出版協会が運営するBooks(注6)では、TSS対応を表示。電子書籍(EPUBリフロー書籍)がTSSに対応するには、出版社を通じて著作権者が音声読み上げを許諾するだけでなく、電子書籍の閲覧ビューアがTSSの機能を持ち、電子書店そのものがウェブアクセシビリティに対応する必要があります。それらのHABとして設立されたのがアクセシブル・ブックス・サポートセンター(以下、ABSC)。今はサピエや国立国会図書館からDAISYなどは一緒に見ることができませんが、情報を一元化することで利便性の向上が期待されます。「リフロー型」であっても、外字や図表や数式など、TSSによる音声読み上げには課題が多く残っているそうです。
読書バリアフリー資料のデータベースは、国立国会図書館や出版社のほかにもあります。
文部科学省と国立情報学研究所の連携により運営される、大学等の図書館・図書室・障害学生支援室において、視覚障害者等(プリントディスアビリティ)の利用のために電子化された資料のメタデータの検索システム。
ユニバーサルサービス提供事例として、アクセシブルライブラリー(株式会社メディアドゥ)、LibrariE&TRC-DL(株式会社図書館流通センター)が、本では紹介されています。
電子図書館の役割は、学校においてはGIGAスクール構想のもと、デジタル教育と読書力や情報リテラシー育成が期待されます。電子図書館事業者には、ユニバーサルサービス提供のためのアクセシビリティや電子書籍のオーディオブック利用が課題。自治体は電子書籍への理解を促し効果を検証しながら予算化していくことになります。特に中小自治体への導入には広域電子図書館の事例として、あとで紹介する「デジとしょ信州」のほかに、埼玉県比企郡1市6町で滑川町教育長のリーダーシップで導入した「比企広域電子図書館 比企eライブラリ」、「浦添電子図書館」、埼玉県立浦和第一女学校 電子図書館」の導入経緯や課題などが記載されています。広域での電子図書館の導入の一番は、「強い想い」と感じました。
プレゼンとビデオも含めて、経緯や内容が紹介されました。
市町村の数は全国第2位。山間部が多く広い県域を持ち、各地域が独自の文化を育んできた長野県。教育県として有名ですが、書店や図書館のない地域的な情報格差も激しいことを今回知りました。ワーキンググループでの検討を経て、77全市町村と県を参加団体とする「市町村と県による協働電子図書館運営委員会」を設置しています。それぞれの基礎自治体が主体的に関われるよう、部会や課題解決チームは全市町村から募集し、自主的参加としました。「誰一人取り残さない長野県」を目指した電子図書館のキーワードを拾ってみました。
「デジとしょ信州」は、県立図書館は黒子に徹し、各自治体の自主性を重んじた「地方創生・共存共栄」を目指すシステムと感じました。
2016年以降貸出減少の中、コロナ禍で急激に生活様式が変化し、東京都の補助金を活用した電子書籍の導入を検討しました。先行自治体に、収集方針・サービス・契約内容についてのアンケートを実施し、業者選定の参考にしました。サービス開始後の運用面で特に気をつけたのは、担当だけの仕事にしないこと。どの館で聞かれても基本的な質問の回答ができるよう業務分担制としました。サービスの対象は図書館登録者ですが、教育委員会の協力もあり、各学校児童・生徒へのID付与も行いました。館外広報にも力を入れ、若者をターゲットに市内のカフェ20店舗に名刺サイズの案内を配布。断られることもありますが、大事な営業活動です。市報に掲載後は、高齢者の問い合わせが増加しました。年齢層によってPR方法も変わるのですね。サービス展開後は学校連携で利用が大幅アップし、授業で使わなくても読書を習慣づける有効なツールとなっています。一方で、運用の補助金は2024年度まで。資料費の削減にならない課題を抱えています。
電子図書館は、導入もその後の運用も財源確保が大きな課題です。財源確保として、寄贈やふるさと納税や民間企業からの寄贈などの事例が紹介されました。特に地域に貢献している企業からの寄贈については、自治体に寄贈することのメリットを説き、企業には社会貢献や企業価値の向上をアピールして営業します。もちろん寄贈してくださった企業へのリスペクトは、図書館内外での周知や感謝状贈呈などの外在化も大事。
発表後に予定されていた関係者シンポジウムは、質問への回答で時間切れとなりました。内容が多すぎたから仕方なかったと思います。
同席していた友人たちの感想も紹介しておきます。
本を読んでみても、このぐらいの理解がせいぜいでした。興味を持たれた方は、ぜひ報告書を読んでみてください。