「コラムから生まれたキャッチボール」と、
「食育をみわたす」

図書館つれづれ [第22回]
2016年3月

執筆者:ライブラリーアドバイザー
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

関西の図書館を暮れに訪問した際に、前回のコラムで紹介した長野県下の図書館の様子を紹介したところ、塩尻市立図書館(注1)について幾つか質問を受けました。図書館の皆さんが、自分が運営する目線で質問してくれることは、とても嬉しいことです。その質問を塩尻市立図書館に投げかけたところ返答が返ってきました。せっかくの質問と返答なので皆さんと共有したく、そのキャッチボールの内容を紹介します。
もう一つは、食に関わるお話です。

1.コラムから生まれたキャッチボール

前回のコラムで紹介した塩尻市立図書館の棚は其々担当がいて、NDC分類ではなく利用者目線で並んでいます。その質問と返答のキャッチボールを紹介します。

質問

NDC分類に並んでいない本を戻すのは司書だけど、一般利用者にはどこにあるとわかるようになっているのか?たとえば、棚番号のようなものがあるのか?

返答

利用者の皆様には、館内OPACでの検索だと、館内のどのあたりに検索した本があるかマップで表示されるようにはなっています。見やすいとは言えないかもしれませんが、棚番号入りの配布用の館内マップもあります。

館内マップ

あとは、移動した際には、棚に地図と案内を作成し、移動先を掲示するようにしています。 それと、OPACの前に長めにいらっしゃる方やマップをじっと見つめている方などには様子を見て職員が声をかけてご案内をしています。

質問

選書や除籍もその棚の責任者の采配とはいえ、全体の調整はどんなふうにされているのか?

返答

選書や除籍の全体の調整ですが、選書は、発注の担当である資料係がまとめます。棚担当の声は重要視されますが、全体のバランスなども考慮しますので、絶対ではありません。
迷ったものなどの全体の調整は、正規職員、嘱託指導員で相談して行っています。発注までには館長の決済と正規職員の判子も必要となります。

除籍は、棚担当が一度除籍予定という形にして、日を決めて、正規職員と嘱託職員の中でも経験年数の長い数人がチェックをかけ、全員が見終わって始めて除籍の起案をつくり、決済をもらいます。試行錯誤しながらですが、今はそのようなチェック体制をとっています。

どうでしょう?少し具体的にイメージできましたでしょうか?
棚担当は棚のばらつきがでるリスクもあります。担当だからと任せっきりではなく、全体のバランスもとられているのは、まさにチームワークのなせる技。日頃からスムーズな会話のキャッチボールを心がけているからだと感じました。棚担当を決めている図書館は、福岡県の春日市民図書館など他にもあるようです。

2.食育をみわたす

先日伺った瀬戸内市美術館の「さくらももこ展」で、たまたま市会議員の女性とお話する機会があり、「食育」の話題まで広がりました。今回は食育と図書館に関連した2つの団体を紹介します。

NPO法人 市民科学研究室(注2)

友達が仕事の傍らに所属し活動している団体です。「『こどもの料理科学教室』を開きたいのだけど、協力してくれる図書館はいないかしら?」と相談を受けたのはもう1年程前のことでした。

食育というと、“オーガニック”や“環境”面が大きくクローズアップされますが、この料理教室では、何故ここで塩を入れるのか?何故この温度なのか?科学の目線も加わります。全10回と、かなりハードルは高かったのですが、NPO法人 ポラン広場との共催で実現しました。会場となった立川市の女性総合センターは、立川市中央図書館と同じセンタースクエアビルにあります。各回の内容は、

  • 第1回 土鍋でお米をおいしく炊く秘訣
  • 第2回 野菜の甘さを生かしたクッキーづくり
  • 第3回 塩が料理にとっても大切なわけ
  • 第4回 野菜はお友達! ~育てる、作る、食べるの技
  • 第5回 わかる!使える!料理の道具たち
  • 第6回 醗酵という魔法 ~小さな生き物(微生物)の大きな力をさぐる
  • 第7回 ダシの秘密をさぐる
  • 第8回 豆や卵がカラダに変わる!? ~たくさんの顔を持つタンパク質の不思議
  • 第9回 捨てないでおいしく長持ちさせる技 ~食べ物をとことん生かす保存食
  • 第10回 マイ・レシピでおいしく作ろう! ~煮物、炒め物、和え物、デザートetc.

実験的要素が強かったせいか、男の子の参加者が多かったそうです。こんな企画は、図書館単独では難しいですが、学校と連携したら面白い授業にもなりそうだなあなんて、勝手な妄想を抱いたりしています。塩尻のエンパークにも料理を楽しめる「食育室」があったので、短いプログラムなら図書館の調べ学習との連携も可能かもしれません。興味のある方は、NPO法人 ポラン広場東京こども料理科学教室(注3)にて開催報告を見ることができます。

味の素 食の文化ライブラリー(注5)

「食の文化ライブラリー」は、味の素食の文化センター設立の1989年以来、収集してきた食文化やその周辺分野の書籍、雑誌等を所蔵する食の専門図書館で、港区にある「味の素グループ高輪研修センター」の中にあります。入館には受付が必要ですが、誰でも入れ、貸出も可能です。食に関する本だけでなく、民族学、社会学、フォークロアなど関連書物も所蔵しています。コーランや道教などの宗教・思想関係の書物もあって「おやっ?」と一瞬思ったのですが、宗教は食べ物と密接な関係があるのを思い出し納得しました。ちなみに、案内してくださった草野氏は、学生時代は、文化人類学を専攻されていたそうです。

配架は独自分類順に並んでいます。エッセイは来館者が手に取りやすいように著者別に並んでいました。戦前に刊行された貴重本も閲覧は可能です。戦前の雑誌は、大正2年から揃えている主婦向けの「料理の友」や、男性読者が多かったグルメ雑誌「月刊食道楽」などを見せていただきました。

書かれている内容は、たとえば1月なら正月料理のレシピや各地の雑煮の紹介、正月にまつわる風習のウンチクなど現在の雑誌とさほど変わりなく、またその時の流行りをテーマにしていて、人は案外進歩していないと感じました。雑誌の対象読者層によって微妙に内容に違いがあるのも今に通じるものがあります。現物を見ると、紙の質、インク、表紙画などからその時代背景が見えてくると、草野さんは話してくれました。例えば、戦時中の物は紙やインクの質が悪いのです。また「美味しんぼ」や「神の雫」などのマンガもありましたが、こちらは積極的には収集していないようでした。

利用する来館者は、食関連会社、研究職・教員、マスコミ、栄養士、プロの料理人、学生、主婦など様々だそうです。中には、夏休みなどを利用して海外からも、「江戸時代の食文化を知りたい」など、テーマを持って来られる方もいるそうです。

レファレンスも種々雑多です。草野氏は、「レファレンスは連想ゲームに似ている。調べたい資料へと利用者と一緒にアプローチしていく過程が面白い」と、語っていました。彼女は司書の資格は持っていません。窓口は、司書資格を持つ派遣の方と、得意分野を持つアルバイトの2人体制で運営しています。状況によっては、バックヤードの草野氏なども加わって利用者の要望に応えます。専門図書館のレファレンスは、司書だけでなく、独自分野の幅広い深い知識を集結したチームワークが必要なのです。回答できない分は、他のところへと繋ぎます。また記録を書いて全員で情報共有する仕組みを作っているそうです。

意外だったのは、児童向け(小学校高学年以上の)図書の棚が充実していたことです。近隣の小学校だけでなく、地方の中学や高校など修学旅行で訪れるケースもあるとか。また、夏休みは親子での来館が増えるので、そんなニーズに応えるため、「夏休み宿題どうする?」コーナーなどの子供向けテーマも昨年夏に設けたとか。

先に紹介した「こども料理科学教室」とコラボはできないかと質問したのですが、残念ながら料理設備はないそうです。それでも、学校との連携には意欲的で、「どんなテーマか?どんなアプローチができるか?」など、積極的に連携支援も検討していきたいとのことでした。

余談ですが、私が伺った日は2階の食文化展示室で、「天皇の料理番 秋山徳蔵」メニューカード・コレクション展を開催していました。秋山氏は、「味の散歩」など著者も多数あり、展示していた本を借りたところ、私の郷里、大分県の「津久見のミカン」に関する記事を見つけて驚きました。食に対する深い想いや、秋山氏の人柄に触れた思わぬ時間もいただきました。

本の貸出は可能と伝えましたが、残念ながら電話やメールでの貸出要望は受け付けていません。返却は郵送可能ですが、貸出の際は足を運んでいただく必要があります。諸事情で仕方ないこととは思いますが、やはり地方との不公平感を感じてしまいます。東京はやはり何かと便利で、だからこそ、地方に育った私は、少しでも情報発信できればと思うのです。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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