2023年2月、図書館問題研究会の研究集会が富山市の富山県民会館で開催されました。久しぶりのリアル開催は、10人の発表に3人のライトニングトークと盛りだくさんのいろいろな話が聞けました。簡単な紹介になりますが、今回は研究集会の報告です。発表は2日に分けて行われましたが、ここでは発表とライトニングトークとを分けて報告します。
彼が勤める図書館は、愛知県名古屋市内の小規模図書館。少子化や高齢化の中で図書館利用は減少傾向にあります。図書館のサードプレイスとしての役割や、司書を情報介護職と命名した楽しい発表を繰り広げました。トイレをシャワートイレにしたら喜ばれた話に、「司書とは別次元」との意見もありましたが、図書館が快適であるのに越したことはありません。トイレが有料のオランダの図書館の様子も見せてくれて、館内で自転車をこぎながら読書をしている写真には「さすがオランダ!」と感嘆の声があがりました。
神奈川県鎌倉市深沢中学校の読書活動推進員としての10年間の軌跡の発表でした。学校図書館は昼休みだけ図書委員が開館。2022年より図書館ボランティアの方が放課後に開館するようになり利用が増えたとのこと。どんなにすばらしい活動でも、月30時間の読書活動推進員の処遇では限りがあります。一方で、扶養の範囲内で働くを良しとする現状があるのも悩ましいところ。学校司書が常駐している県や私立の学校との子供たちの教育に及ぼす格差は広がるばかりです。
かつて「利用者の情報を得る場所だから司書は必須」と謳われていた貸出/返却の窓口。今は直営で管理する図書館でも、窓口委託は多いのではないでしょうか。石川県立図書館に至っては、返却は館内でもブックポストです。選書につなげる情報を対話から直接得るのが難しくなっている昨今。 図書館が読書の場から、「人と人がつながる」コミュニティが活動する場に変化していく中で、あらゆる人を受け入れ、地域の課題を解決していく図書館の機能は、今後拡充していくとの内容でした。
今も根強くある部落民差別。図書館で利用券を作るときに何気に聞かれる「身分証明証をお持ちですか?」の一言に大きな意味があり、正確に言えば、「住所を確認できるもの」なのだそうな。差別の意識は、人権差別からマイノリティの差別へと世間の風潮も変わっているとのこと。普段は気にしない言葉でも意識して使わなければと思った発表でした。
区役所の新庁舎移転に伴って、2007年に区役所の9階・10階に移転した東京都千代田区立千代田図書館。4社のコンソーシアムによる指定管理者制度を導入し、コンシェルジュや電車内のつり革広告など派手なアピールで開館した図書館です。その図書館で2019年に、利用者に対して無期限の入館禁止処分や退館命令を下したことに対し、利用者が処分は違法として提訴し、争われた裁判がありました。政治や法律に疎い私は恥ずかしながら知らず。考察の発表を興味深く聴かせていただきました。
裁判沙汰になる行為をかいつまむと、事の発端は居眠りを注意されたこと。「多少の居眠りは容認して」との要望に対し、「館内での居眠りは禁止事項」と回答されたものだから、利用者の嫌がらせがエスカレートしていきました。申し込まずにAVブースや拡大読書器を利用、カウンター前の席に座るなど、何度勧告しても図書館の規則に従わない利用者に、図書館側が口頭で退館や無期限入館禁止命令を発行しました。これに対し、「利用者の問題行動の内容を鑑みれば入館禁止処分や退館命令は適切であるかどうか」が焦点の判例でした。
「図書館内での居眠りは禁止」と、都内の図書館で注意する光景をみかけます。都内は座席数が少ないこともあり、他の利用者からのクレームもあって、私もうとうとして注意されたことも。職員の方も好んで注意しているわけではないことは重々承知しています。でも、頻繁に注意されている光景も目にしたことがあり、「そこまでしなくても」と思ったこともありました。
問題は、指定管理者にその裁量があるのかどうかと、文書で何も残っていないということ。通常の図書館では、図書館条例と図書館条例施行規則の2つですが、千代田区の場合はそのほかに、図書館宣言、図書館利用規定、図書館評議会設置要綱があるのだそうな。それらの中に、問題行動の規定や処置が書かれています。
判決について、千氏は以下の3点に疑問を抱いたそうです。
目に余る利用者の行為だったとしても、口頭だけで無期限の入館禁止を言い渡すのもどうかと思うし、利用者が区役所に直訴したら入館禁止を取り下げるなど、素人の私だって首をひねってしまいます。
住民の図書館の利用の権利はどこまで法的保護に値するのか。関連法令や図書館に関する判例を踏まえると、裁判官の認識の欠如や図書館の対応の不備もあり、必ずしも妥当な判決とはいえない。人格的利益の制限は慎重でなければならないとの見解が示されました。
また、この事件については、図書館のホームページにも図書館評議会の議事録にも触れられていないことに対しても指摘をされました。
事件は、利用者だけの問題ではなく図書館員のホスピタリティとの関係性も指摘されました。図書館職員の問題は、千代田図書館だけの問題ではありません。「官製ワーキングプア」と指摘される直営・指定管理者の図書館どちらも抱える構造的問題です。高いホスピタリティの職員の環境づくりには、安定した雇用、十分な賃金、適切な業務量の3つが大きな要素となると結びました。自治体の構造改革が望まれます。
紙媒体vsデジタルと、二分化される資料の問題。実は資料には、粘土に始まり、パピルスや羊皮紙など変遷の歴史があります。図書館サービスも、閲覧から貸出、複写可能の時代を経てインターネットの時代となり、電子書籍が紙の書籍の予算を脅かすまでになりました。紙や電子(SNSなどボーンデジタルも含め)情報をどう整理していくかなどの問題提議がありました。
SaveMLAKの活動については、Webコラム75回(注1)でも紹介しています。詳細は、saveMLAKのホームページ(注2)を参照ください。
指定管理者制度創設から20年が経過し、その前の時代を知らない人が増えています。かつて図書館づくりを活発に議論された住民運動活動家の高齢化は、図書館ボランティアも同じで、次世代へどう伝えていくかの問題提議がありました。指定管理者制度の話になると、中で働いている人たちも攻撃の的になりやすく、こういう集会にも参加しにくくなるのを個人的には懸念しています。
指定管理者が発表するとあって、誰もが興味津々。名古屋市内のどの図書館よりも地域住民との協働・連携を行い、手話や発達性ディスレクシアなどSDGsが大切にしている「誰一人取り残さない」という活動例が発表されました。「公共だからこそ、やるべきことを優先している。市場では成立しにくいテーマの資料提供や文化事業を」との観点は、公共の取り組むべき原点を聴いているような気がしました。「地域の課題といっても漠然としていてどこから手を付けたらいいかと思っていたけど、結局は来館される利用者に教えてもらって、一緒に取り組んでいる」の話に、指定管理者であれ直営であれ、目的は共通なのだと感じました。
私がシステムに関わったころの図書館は、来館した利用者が読みたい本に出会い探せる開架室を目指し、図書館の動線は作られていました。最近の複合施設の中にある図書館は、コミュニケーションの場や滞在型を意識して設計されています。「借りて使う図書館」と「行って使う図書館」の違いを、幾つかの図書館の統計情報をもとに比較検証した発表でした。滞在時間やライフスタイルに合わせた貸出数などの数字の解析には、説得力がありました。
会計年度任用職員制度も3年目に入り、雇止めの問題などが出ています。
日本では「読書」とは本を読むことですが、英語ではそのプロセスを含みます。これからの読書(reading)では、メディアリテラシーとデジタルシティズンシップ(情報技術の利用における適切で責任ある行動規範)の教育課題が重要とのことでした。
UDトーク(注3)は、話し手が自分の話を伝えるためにコミュニケーションツール。筆談の代わりや翻訳や字幕配信なども可能です。詳細はWebサイトを参照。
どの発表も切口が面白く、質疑応答も活発で、久々のリアルを愉しみ刺激をいただきました。私の周りでも、雇止め宣言を突然受けた友人がいます。千氏の話にあった、「司書の仕事に見合う賃金で安定した雇用」の実現を切に願っています。
研究集会の内容は、後日「図書館評論」に載るそうです。スタッフの皆様、発表者の皆様、ありがとうござました。