菊陽町図書館と山鹿市立ひだまり図書館
図書館つれづれ [第67回]
2019年12月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

図書館の組織が大きくなると、業務はどうしても分業化され、図書館の運営全体が見えにくくなってしまいます。その点、小さな図書館は、各担当が一人でみんなやらなきゃいけないから、図書館全体を俯瞰的に見ることができます。今回は、ある意味うらやましいと思える、熊本県下の菊陽町図書館と山鹿市立ひだまり図書館の紹介です。どちらも2019年7月に友人たちと訪問しました。

菊陽町図書館(注1)

菊陽町は、熊本市の北東部に位置し、南に熊本地震で大きな被害があった益城町とも接している町です。土地区画整理事業が進んだこと、また2000年と2004年に大企業が進出し、熊本市のベッドタウンとしての人口は増加、現在は4万人を超え賑わっています。

菊陽町図書館は、2003年に開館した客席500席のホールを持つ蔵書数17万冊の図書館です。図書館前のバス停では、可愛い“”キャロッピー号”の時刻表が目につきました。菊陽町は「菊陽人参」のブランドで出荷される国の指定産地で、“キャロッピー”は人参をイメージした町のマスコットキャラクターです。

菊池市、合志市、大津町の方は広域利用者として利用カードをつくれます。前回の菊池市の記事でも伝えましたが、20年にわたり、近隣の図書館職員の情報交換交流会を続けています。

菊陽町には、明治30年代から昭和40年代にかけての少女雑誌のコレクションがあり、2015年には「菊陽町図書館少女雑誌村崎コレクション」をユネスコ記憶遺産国内公募申請しましたが、残念ながら選外となりました。それでも、同行した皆さんが最初に見入ったのは、コレクションコーナーで、釘付けになって見ていました。

2003年に開館した建物ですが、読み聞かせをおこなう畳の部屋は段差無しのバリアフリー(駐車場から館内もバリアフリーです)、社会人ルームやグループ学習室もあり、今も十分通用する設計です。

図書館のミッションは、「文化のシンボル、情報の発信源で町民の学習と憩いの場であり、幼児から高齢者まで誰でも使える施設」を掲げ、子どもから高齢者まで細かなサービスが行き届いていました。ちょうど夏休みの子どもたちの自由研究コーナーや“みんなでそだてよう”と貼られた子育て支援コーナーなど、どこも手づくり感満載の優しい雰囲気が漂っています。菊陽町内の中学生のお薦め本のポップもあり、ティーンズコーナーには大学入試の参考書、いわゆる赤本がありました。

日本の歴史コーナー は年代順の配置がされていて、とても見やすかったです。しかも紙でできた見事な城のオブジェが飾ってありました。静かに読書する畳のコーナーの近くには大活字本が配置されていて、利用者の年代ごとの棲み分けもされています。雑誌も200種と多いです。新聞の棚は、新聞ごとに1週間分が個別に取れるように分かれていて、取り合いにならない工夫がありました。休刊日も一目瞭然で、それより前の新聞は、その下に週ごとに分かれて置かれていました。

仕事に役立つ本コーナーでは、資格ごとに色分けして細かい分類表を添えていました。他の図書館と共有できないの?と聞いたら、図書館によってニーズが違うのでなかなか難しいとのことでした。

郷土資料コーナーには、菊陽町の現在の人口と町のマップが貼られていて、鼻ぐり井手や石橋の資料などが置いてありました。鼻ぐり井手は、阿蘇方面から流れてくる土砂が堆積することなく水を通す仕掛けの用水路で、加藤清正公がつくりました。現在も24基残っていて私たちも見学して昔に想いを馳せました。カウンター横には忘れ物がひとつひとつ丁寧にビニールに入れられて、「忘れ物はありませんか?」とボックスから語り掛けてくれました。

熊本地震の関連情報を伝えるコーナーもありました。案内してくださった松本和代氏は今も全国で地震の状況を伝えています。決して復興したわけではないことを深く心に留めました。ボランティア活動は人形劇、お話会、布絵本製作など児童を対象とした活動が盛んです。

小さな図書館ですが、職場体験、図書館実習、教職研修なども受け入れていて、それだけ職員のレベルの高さを感じます。

最後に、一番びっくりしたのは、今年度の蔵書点検での不明本がたったの9冊だったこと!!正規職員の司書は1名のみ。11名の非正規の皆さんとともに丁寧に手をかけた分、町の人たちが丁寧に使っているのを感じました。

山鹿市立ひだまり図書館(注2)

山鹿市は、拙著『すてきな司書の図書館めぐり』を市報に載せてくださったお礼も兼ねて訪問しました。幸村英星館長と司書の山下恵美氏が対応してくださり、図書館の概要やボランティアのことなどを説明してくださいました。

幸村館長は長く行政におられた方で、図書館に赴任した時、大きなカルチャーショックを受けたといいます。行政の一組織としての自覚がない、組織系統が不明確などの指摘はよくある話。館長にはその後の行動がありました。まず、クレームなど「なあなあ」で済ませたものからルール作りを始めます。そして市役所のことを知ってもらうべく、市役所の各課の担当に利用者カードを作ってもらうPRを兼ねて、司書に全課を挨拶して回るよう指示しました。赴任から 1年。幸村館長の図書館への思いは少し変わってきたそうです。館長の胸にはボランティア手作りの“くまモンとアンパンマン”のネームタグが、司書よりちょっと控えめに光っていました。一方で司書の方も、当初は戸惑いながらも、市役所とのパイプが少しずつできてきて、イベントなどの声掛けの幅が広がったといいます。

山鹿市には、2つの図書館(どちらも幸村館長が兼務)と鹿北・菊鹿・鹿央の3つの図書室があり、それぞれ地域の特性を活かして棲み分けをしています。訪問したひだまり図書館は、地元に密着した図書館として、日本画や絵手紙など公民館利用サークルの自主作品展示の場の提供、山鹿で頑張る企業や商店街の紹介ブースがあるのが特徴。今回伺えなかったこもれび図書館は、中高生向けの図書を充実させた「青春コーナー」や「郷土資料コーナー」を設置し、市民の生涯学習を支援する拠点の一つになっています。実は、BM(Book Mobile:移動図書館)も2台あるのです。公民館や老人施設を巡回する「ぐるりん号」と、幼稚園・保育園・学校(一部)を巡回する「おれんじ号」です。

ひだまり図書館は、子育て支援センターなどが入る鹿本市民センターの1階にあります。蔵書は 10万冊。館長、司書5名、事務4名に運転手2名全て非常勤職員ですが、小さいながらも見ごたえがたくさんありました。入ってすぐの床の足元には、山鹿市を流れる菊池川を梱包用のプチプチで表現した川が、インフォメーションコーナーまで続いています。プチプチ川には魚たちも泳いでいます。習性とは不思議で、子どもたちもプチプチ川の橋の上を渡ります。ひだまり水族館のディスプレイでは、ゼリーのカップが大活躍していました。牛乳パックでできた椅子やバッグまで、ボランティアの方もたくさん協力しています。

実は、図書館ボランティアの養成は、社会教育課が担当しています。布絵本・パネルシアター製作、お話会、図書館サポート、イベント、ブックスタート&ブックスタートプラスのボランティアの講座を年に7回開催していて、職員にとっても研修の場となっています。

ブックスタートプラスって何?と思われた方が多いのではないでしょうか。山鹿市では、母子手帳交付時に絵本を配布し、絵本が持つ癒しの力と親としての心構えを学び、胎児のときから絵本に親しんでもらう仕組みがあります。ブックスタートは3・4か月検診時に絵本2冊と絵本ガイドが配布され、読み聞かせ効果を実演で伝えます。1歳半検診の時はブックスタートプラスといって、図書館が用意した3冊の本の中から1冊をお母さんに選んでもらう取り組みを行っています。小学校1年生には「ぶっくぼっくす」といって、食べ物や乗り物などのテーマを決めて月に一度出張貸出をしています。

お話会でもボランティアは大活躍。伺った時、ちょうどボランティアの方が読み聞かせをしていました。極めつけは、「なりきりセット」。お姫様や小人や王子さまなどの衣装もボランティアの手作りです。もちろん絵本と一緒に貸出もし、子どもたちは思い思いの姿に大変身! この取り組みは是非どこかで発表してほしいとお願いしてきました。

可愛いインフォメーションコーナーでは、フェルト製の食べ物のおもちゃで遊ぶ女子中学生の傍らで、男子中学生が段ボールでできたオセロで遊んでいました。ちょっと羨ましい光景でした。

遊び心だけではありません。「認知症知って備えるおたすけブック」や「子ども認知症サポーターフレンドリーブック」は、他の図書館でも参考になる認知症予防に優れもののおたすけミニブック。郷土のコーナーではしっかりと「山鹿情報発信課」コーナーが設けられ、町の企業の応援展示もしています。持ち歩き可能なコミュニケーションボードも目を引きました。館長が推薦する本のコーナーでは、館長の図書館への想いの変化を感じました。

菊陽町図書館と山鹿市立ひだまり図書館。どちらも地元に密着した丁寧な図書館でしたが、どちらも非常勤職員の割合が思っていた以上にありました。会計年度任用職員制度が今後どのように図書館運営に影響してくるのか、非正規の方々が働きやすい職場になることを願っています。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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