今は、小さな子供でもインターネットにアクセスできる時代です。でも、落とし穴はたくさんあるのに、その知識はどこで教えるのか? 情報リテラシー教育についてずっと気にはなっていたのです。
2020年1月に、東久留米市立中央図書館で、子育て世代向け講座「ネット情報の海に溺れない学び方・学ばせ方」の講座があると知り出かけてきました。今回はその報告です。
講座のチラシには、こんな言葉がかかれていました。
→ 子育て世代をはじめ、上のチェックに当てはまる方、情報リテラシーを身に着けたい方は、是非参加ください。 |
講師は、中央大学職員の梅澤貴典氏。料理が好きでフランス料理店でのアルバイトを天職と思っていたところ、大学図書館で学生職員をしたのがきっかけで図書館に魅せられ、図書館司書講習で司書資格を取得した方です。
日本の司書は大学の司書課程で取得できますが、アメリカでは専門分野の大学院を修了したあとに図書館情報学の大学院で修士号を取得しないと司書にはなれません。彼が異色なのは、図書館を外から語れるように東京大学大学院の大学経営・政策コースの修士課程で教育学の修士号を取得し、専門分野を持ちながら大学の職員として身を置き、図書館活動をしているところです。
インターネットが普及するはるか昔、本は貴重な存在でした。知識は所有するもの・独占するもので、一部の特権階級しか見ることもできず、本は鎖でつながれていました。そんな時代からグーテンベルクの印刷革命を経て、インターネットの時代になり、情報はたやすく入手できるようになり、「司書はAIにとって代わられる存在」と危惧されるようになりました。
講座では本の歴史から始まって、インターネットの落とし穴について幾つか話がありました。
最初に見せられたのは、図書館の前に人が群がっている台北市立北投図書館の写真でした。軒先に集まるたくさんの人々は、図書館が開館するのを待っているかのように見えました。でも、もしかすると、急な雨で雨宿りしているだけかもしれません。写真を見せる前に、誘導するような言葉を言って見せれば、これまた違う見え方をするかもしれません。切り取られた写真は、自分の枠組みや見せ方や見え方で、どうにでも解釈が変わってしまいます。
次に子育て世代向けということで、教育改革について説明がありました。私の若いころは人口も多くて、いわゆる「詰め込み教育」の時代でした。その後も、知識や技能が優先され、入学試験はマークシート式や、丁寧であっても小論文や短い論述式の試験に面接といったところでした。大学は偏差値で序列化され、これによって受験する学部の指導を受けていた時代もありました。社会からの批判もあり、詰め込み教育からゆとり教育へと移行していくのですが、如何せんやり方に問題がありました。
ゆとり教育を改め、「生きる力」を育てるための高大接続改革は、学力を以下の3要素でとらえています。
評価のし易い「知識・技能」に比べ、「思考力・判断力・表現力」や「主体性・多様性・協働性」は、指導も評価も難しい学力要素です。とはいえ、入学試験は、知識量より活用能力が試され、プレゼンテーション能力やグループワークの中で評価されるなど、「思考力・判断力・表現力」を重視した改革が始まっています。
今でも、「課題研究なんて、どうせ受験には関係ない」という意見もあるようですが、大学受験も変わってきています。AO入試(注1)といって、大学の入学管理局(admissions office)の選考基準に基づいて、学力試験を課さず、高等学校における成績や小論文、面接などで人物を評価し、入学の可否を判断する選抜制度が増えているんだとか。例えば、お茶の水女子大学では、2017年度から採用の新AO入試「新フンボルト入試(注2)」は「図書館入試」と称され、図書館を舞台に頭の中の知識だけではなくさまざまな情報・資料を駆使して自分の考えを論述します。倍率はなんと10倍。その試験に落ちた受験生も、お茶の水女子大学の方針に共感して一般入試を受け直すケースも増えているのだそうです。
子ども・学生・市民の「生きる力」を育てるために、学校図書館・公共図書館・大学図書館が成長に合わせて連携をしていくのが理想なのですが、今の学校図書館では理想のまた理想の話です。
そんなふうだから、インターネットで全て解決できると世の中が思っているのも事実なのです。
でも、本当にそうなの?と幾つか指摘をされました。たとえば、「千と千尋の神隠し」のモデルになった舞台は?と、インターネットで検索すると台湾の九份の画像がたくさん上がってきます。旅行会社がツアーを組んだり、専門外の著名人が本で紹介したりしていると、本当だと勘違いするのも無理はありません。私たちは権威ある人の言葉に弱いのです。
では、真実は何かと知るには、どうすれば良いのでしょう。この場合は、この映画を作った張本人である、スタジオジブリの公式ホームページで確認するのが、調べ方としては正解です。根拠となる根っこを抑えるのです。インターネットの百科事典であるウィキペディアが、どの情報源を使ったか必ず出典を書くのは根拠を記すためです。みんなが言っているから本当なんて思ったら大間違い。まずは、疑ってかかる目が大事です。(モデルになった舞台が気になる方は、スタジオジブリの公式ホームページのQ&Aをご覧ください。)
自分で考えてみなければわからない色々な不思議があります。
たとえば、
たくさんの例を挙げながら、学校や図書館で自由に学んで知らなかった世界を冒険しようと、未来へ導いてくれました。そして、夢をもったら、その目標に向かってできる小さなステップから始めようとエールをくれました。
時間が足りなくて言い切れなかった梅澤氏の言葉を、Facebookから拾いました。
調べて分かった事を人に伝えることは難しいけど楽しいことです。 それぞれの問題を真剣に考えていると、必ず新たな問題にぶつかります。そこで終わりにしないで諦めないことです。様々な視点で考えていると、これまで気づかなかったことに出逢えます。 学校や図書館の本で学んだ知識で、歴史や政治経済、数学や物理、時には芸術やスポーツも、材料として自由に組み合わせてみることによって、着想の引き出しになるはずです。 将来、さまざまな場面で「君の意見は?」「何かいいアイデアない?」と尋ねられるでしょう。むしろ、人生は毎日がその連続みたいなものです。その時に、とことん調べ抜いて考え抜いた経験が、必ずや役に立つはずです。 |
子育て世代に限らず多くの方々に聴いてほしい話でしたが、連休やまちのイベントと重なっていたせいか、参加者が少なかったのが非常に残念でした。
後日、佐藤貴泰館長に、今回の企画の経緯を聞いてみました。以下、館長の言葉です。
「当館では、以前より情報リテラシーの重要性を発信しているところですが、未だ一般的に認知度が高いとは言えないのが現状です。子どもが低年齢のうちからスマートフォン等に触れる機会も多く、インターネットからの情報の取得が容易である現代において、まずは、保護者自身が情報リテラシーを身に着けることが、自分の生活だけでなく、子どもの今後の学びにも深く関わることを知っていただきたいという思いから企画いたしました。
また、対象についてですが、今回は小学生をお子さんに持つ保護者を想定し、高校や大学での学びにつながる、小学生時代に身に付けておくべき情報リテラシーについて、また、保護者自身の学びや発見となるような講座にしたいと考えました。
次回企画する際には、対象についても再検討し、ターゲットを絞って広報するなど、多くの方に足を運んでいただけるように工夫できればと考えております。」
こんな情報リテラシー教育が、図書館で学べる仕掛けがあるといいですね。