2020年の図書館総合展はオンライン開催ということで、ウェビナーやヴァーチャルな図書館見学ツアーがたくさんありました。その幾つかを紹介します。
長野県の塩尻市立図書館は、本コラム第21回で紹介したことがあります。あれから5年。今回のLive配信で、新しく広丘図書館が開館していることを知り、司書の努力で更に進化した図書館を見ることができました。
YouTubeで紹介されているLiveツアーは、宇治橋多恵副館長の司会で始まり、上條史生館長が図書館内を紹介していきます。1時間と長めな時間を退屈しないで聴けるのは、中高生を応援するために生まれた若葉応援隊の「ばやしさん」と「あおさん」のキャラクターの存在です。館長との絶妙の掛け合いで紹介していくのです。
図書館のコンセプトは機能融合。雑誌の棚は一般の棚を利用していて、新聞のコーナーも移動可能です。本館では児童と一般のコーナーは分かれていますが、広丘図書館では規模を考慮し児童書と一般書の混排をおこなっています。日本十進分類法を基本としながらも、おりまぜて、参考図書・文庫・新書・視聴覚資料の書架に一緒に置いているのも特徴です。4つの吹き抜けのひとつ「森のコート」は普段は閲覧コーナーです。年に数回コンサートやイベントにも使われていて、結婚式が行われたこともあるそうです。分類ごとの担当が旬の話題やニュースなどからテーマを設定し選書した「テーマ・ブックス」を館内各所で展開しています。
この動画は、司書が外部の専門家にボランティアで手伝ってもらって作成したそうです。図書館の正式なホームページには、「おうちで図書館を楽しもう」という動画コーナーもあり、動画作成が司書の新しい仕事に加わりました。質問をチャットで受けて、あとでまとめて回答してくれました。クオリティ高い図書館と動画が気になった方は、是非動画をご覧ください。
ビジネス支援図書館推進協議会が開催したフォーラムです。北海道滝川市立図書館の深村清美館長が図書館の概要を説明した後に、Zoom動画で図書館を案内し、その間に集まった質問を司会の神代浩氏が聞いていく3部構成でした。
滝川市立図書館は、旧館から移転する際、財政上の都合により市役所の2階に移転しました。当初は、市民サービスフロアを3階に追いやったなど、利用者から不満もあったそうです。それでも図書館は、市役所の中にあることを活用すべく努力を重ねていくうちに、利用者や市役所の方々の図書館への認識が少しずつ変わり、今では、図書館は利用者と市役所をつなぐハブの機能を果たしています。とはいえ、既存の施設を図書館として使うには、いろいろな制約があります。床への過重負担を避けるために、棚の高さは低くしました。ところが、見通しがきいて、天井の低さが気にならないなどプラスに作用した面もあったそうです。市役所の中に図書館があるのは、職員との連携のほかにも利点がありました。図書館内の学習室は、特に学校などの試験の時期は席数が足らなくて混雑します。でも、ここは市役所。学習室が込み合う休日の市役所はお休みです。そこで、市役所のロビーは、急きょ机や椅子を足して学習室に早変わりします。総務課から集まった行政資料は、郷土資料として図書館内に配置され、使われていない議会図書館も図書館との連携の話がでているそうです。
NDC分類に頼らずにテーマ別展示をしているのも大きな特徴です。行政支援もビジネス支援のひとつとして、職員向けの展示もあります。雑誌スポンサー制度も地域の連携につながります。地域や市役所との連携の深さに、一度訪れてみたくなりました。フォーラムのURLは閉じていますが、図書館ヴァーチャル・ツアー(注2)はこちらで見られます。
図書館サービス向上委員会「りぶしる」主催のZoomウェビナーです。司会は、前秋田県立図書館副館長の山崎博樹氏。登壇者は、元塩尻市立図書館長の伊東直登氏と、前札幌市図書・情報館長の淺野隆夫氏。山崎氏が質問し、3人が意見交換という形式で始まりました。以下、その要約と感想をお伝えします。
→役所は頭を下げる仕事だけど、図書館は和気あいあいとしている。でも、他とつながっていないのは、これでいいのか?かび臭い、一見さんに優しくない。
→公務員は住民を支える仕事。役人は役に立つ人。図書館を使って地域づくりがしたかった。流れていくWeb情報と違い、本は査読する。図書館は学びのフィールドだから、どこでも繋がれる。図書館に求められるKPIは長いスパン。
→何でもできる人が役所の人になっているわけではない。他の課とつながらない閉じられた図書館の限界を知ると焦りになった。市民の中でどれだけ利用しているか?司書のイメージを変えていかなければいけない。図書館は、秘書機能&アーカイブ機能を持つ外付けハードディスク。役所からレファレンスをとる努力、PR不足。
→中の壁はどこにでもある、じっくり話し合うしかない。職員の学ぶ場はハードだけでないソフトも重視。本の寺子屋は、司書の学びの場でもあった。司書の学びの場がもっと用意されていくためにも、図書館サービスを周りに見せていくことが大事。
→図書館ならではのできることで、役所の課と争う必要はない。無理はせず、その部署の職員の能力開発・アーカイブ機能など支援でできることはある。
→本ではなく人を視点にした、地域経営の視点からタッグが組める図書館施設が必要。利用者ではなく「市民」の視点、他にも多様な視点を持つこと。図書館の視点だけだと課題が見つけられない。予算は思わぬタイミングで着くことがある。例えばコロナで電子図書館が増えるなど、チャンスは来るのでなく見逃さず、気付けば道は開ける。
お話を伺って一番印象に残った言葉は、「図書館に求められるKPIは長いスパン」。役所から図書館に配属され、図書館の可能性を感じた方は、観点が違うなあと思いました。
ウェビナーは、誰が参加しているのかわからないのですが、聴いた友人がいて、以下、友人の感想からです。
細かい内容は忘れ気味ですが、図書館員の内向きさや、浮世離れしたところを指摘されていたと受け止めています。よく言えば、もっと広く、あちこちとつながってその存在を知らせて世の中の役に立っていこうよというエール。 一方で、今自分がいる出先機関は、実のところ図書館と変わらないどころかもっと内向きかもしれないと思うレベルです。何でかなあ?と考えてみたのですが、変化よりも蓄積を求める場所では、変化を作り出すのに責任を負う人が少ないからかなと思いました。特に、専門職も含め、働いている大多数がほぼ非正規職員で、意思決定に関われません。また、チャレンジしようとする人をフォローする体制もない。それが、変化を生みにくい空気になっている気がします。図書館も、専門職と言いつつ非正規率が高いので、そういう意味では、意思決定に関して諦めている人が多いのではないかなと思います。 |
「司書と上手くやっていくために、段ボールは一緒に運ぼう。書架は一緒に整理しよう」との提言もあり、上司と上手くいかないという質問にも、できることはコミュニケーションをとりながらその都度折り合いをつけていく。みんな悪気があるわけではないけれど、そっと孤立している。非正規雇用の話まで膨らむと、なんとも難しいですが、職場の状況を打開するのは「対話」しかありません。ビジョンについて対話すること、内外の人とも共通意識を持ち、自分にも相手にも妥協できる折衷案を見つけること。対話を率先できる人が、組織を推進していくのだなと共通の感想でした。
有山裕美子氏が司書教諭&司書をしている工学院附属中高図書館のLIVE配信は、滑り込みの申し込みで見ることができました。準備も構成も当日の配信も全て生徒たちでおこなわれ、その都度チャットで参加者とのやり取りがありました。皆さんには、当日の様子をZoomのチャット【 】で少しだけお伝えします。想像力を膨らませて、見学会の様子を思い描いてみてください。
最初に有山氏から学校の紹介があり、スタートしました。ところが、始まらない!
どうやらどこかで障害があったらしい。そんな状態に、チャットには、
【大丈夫!ライブ感あっていいと思います~楽しみ。これもまた経験!楽しんでるよ~】と、参加者がエールを送りました。そう、このライブは、学校の方針である「何事にも積極的に挑戦し創り上げ、人類や社会、そして、生命を育む地球のために貢献できる人間に」を生で経験する場なのです。
最初は図書館の2階から案内してくれました。感染症対策のコーナーもあります。
【カウンター内の活用も特徴そうですね。→すべて生徒がやっています(カメラも)】
レゴを楽しんでいる生徒には、すかさずインタビューをする余裕も見せました。
【わぁ!レゴ!レゴ、楽しそう~!LEGO!パラダイス!】
【展示もすべて生徒企画ですか?→はい、そうです】
・・・
と、ここでまたトラブル発生!「スタビライザーに不具合発生」とアナウンス。
【スタビライザーってなんだ?】【手振れをおさえてくれる仕組みです】と、他の参加者がチャットで回答しました。
館内のあちこちにホワイトボードがあり、付箋が貼られ、まるで大学のラーニングコモンズで見るような移動式の机が、これまたあちこちにありました。
【付箋が貼られていた掲示板が気になる・・・仕事が進みそう】
【多機能テーブル!ホワイトボード!】
そして、みんなが期待していたFABスペースでは、
【3Dプリンターが3万円!私10万円って思った。】
【充実のラボですね!3Dスキャナーも?!】
【もともとは本棚だった場所ですか?→ファブスペースとして、新しく作りました】
【学校図書館がこんなにも充実した学校は初めてです!!!未来の図書館だねっ】
【機器の操作講習は定期的に行っているのですか?
→不定期ですが、講師が教えてくれたり、先輩から後輩に教えたりしています。】
机をくり抜いて作った自作のゲーム機には、
【これはもうゲーセンのやつやないか!埋め込みしてる!】
【みなさん創造的で自由で素晴らしい!ゲームセンター.....普通に遊べるし....】
と、FABスペースは、想像を遥かに超えた充実ぶりでした!皆さんの感想はまだまだ続きます。
【学校が用意した図書館を自分達で活用してより良くする見事な循環】
【キミら絶対に高校生違ゃうやろ!】
【創造性にブレーキをかけなくていい、この環境は本当に素晴らしい。】
そして、一階は、二階とはガラリと変わって静の空間に、
【一階にはちゃんとベーシックな図書館が!】
【紙も、ITも。自然科学だけでなく人文も。理想的なハイブリッド。】
合間に、しっかりコントで笑いをとるのも忘れていません。さすが若者!
【生徒の自主活動が定着している様子がうかがえます。】
【まず、このように子どもを露出させてくれる保護者の理解がうらやましい。最近は卒業アルバム掲載却下の保護者も多いのに・・・】
東日本大震災の見学がきっかけで、YouTubeに「ちーむべりぃぐっと!」のチャネルを持ってボランティア活動続ける生徒もいます。
【ボランティアもクオリティがすごい】
【発想もさることながら、生徒たちの自主性がすごい。それをささえている図書館の存在感の大きさも感じます。】
【大人の見守る姿勢が生徒を伸ばすんだろうなぁ】
【ものづくり、ライブ配信、ボランティア活動、、、とまさしく創造の場ですね。】
皆さん、どんなライブだったか気になってきましたか?「図書館総合展_ONLINE 見学会_ONLINE」部門において2位を受賞した当日のライブの裏方の様子が、工学院附属中高図書館のホームページの公式ブログ(注3)に公開されています。気になった方は覗いてみてください。
ウェビナー、Zoomミーティング、YouTubeライブ、いろんなスタイルの総合展フォーラムに参加しました。若い方々の参加の多いチャット形式のイベントは、チャットで気軽に質問し、その場で回答すると、参加者どうしのつながりもでき、参加度が上がって楽しかったです。YouTubeライブはラジオ感覚でしょうか。ZoomもYouTubeも、質問の回答タイムがあると双方向での共有感がありました。
ウェビナーは、リアルな会場と違い、登壇者も参加者も一体感を感じることはできません。感想をお伝えしたら、とても感謝されました。