法教育って、なんだか知っていますか? 私は知りませんでした。法教育とは、法律の専門家ではない一般の人々が、法や司法制度、これらの基礎になっている価値を理解し、法的なものの考え方を身につけるための教育のことだそうです。
友人がゲスト出演するとのことで、2021年3月の法教育推進特別委員会のウェビナーに参加しました。司会の委員長の山賀良彦氏は、2019年のライブラリーオブザイヤーの審査員を務めたこともあり、行政書士と図書館との法情報提供の連携に積極的に取り組んでいる方でした。
ウェビナーは第1部から第3部で構成され、全体を通じた共通のテーマは、
今回は、行政書士と図書館のコラボの可能性についての報告です。
東京都行政書士会(注1)が法教育についての特別委員会を立ち上げたのは、2012年。2014年から都内の各機関と法教育に関する連携活動を行っています。そのいくつかを紹介します。
誰もが利用できるよう図書館に決まりがあるのは何のためなのか、グループワークを通して、図書館法の定義や入館料など法律について考える内容でした。
購入した商品に不具合があったとき、商品トラブルに巻き込まれたときなど、どんな対処ができるのか。消費者の権利と責任について理解し、消費者はさまざまな法律によって守られていることや、自分が意思決定して消費行動をしなければならないことを学んでいきます。
ネットショッピングを題材に、クーリングオフや内容証明郵便など、何か起きたときは証拠を残すこと、近くの大人に相談することなどを学びます。ネットショッピングを含むインターネットに関わる問題は、学校現場だけでなく社会的にも関心の高いテーマであることから、今後、公共図書館での若年層向けの法情報提供サービスにおいて、また学校図書館との連携においても、大きな可能性があるテーマになると話されました。最近はスマートフォンの活用など、いずれも時代の流れに沿って問題点などを明記しながら、イベントを開催しているとのことでした。
公共図書館との連携事例もあります。東京都立中央図書館で開催された「図書館で学ぶ!新しい遺言の書き方」(注2)などの遺言、相続についての講座は、調布市立中央図書館、飯能市立図書館、中央区立日本橋図書館などでも実践しています。
そもそも行政書士とは何か? 行政書士は、行政書士法(昭和26年2月22日法律第4号)に基づく国家資格者で、他人の依頼を受け報酬を得て、役所に提出する許認可等の申請書類の作成並びに提出手続代理、遺言書等の権利義務、事実証明及び契約書の作成などに加えて、成年後見、ADRなどの新しいサービスも行っているとのことです。このことから、さまざまな士業の中でも身近な存在といえるでしょう。だからこそ、誰もが身につけてほしい法的なものの見方や考え方を広めるには、身近な街の法律家である行政書士がうってつけというわけです。
帝京大学法学部講師の長島光一氏が、「行政書士の行う法教育について」のテーマで話された法教育は、ズバリ、「価値を理解し、直感ではなく、事実の裏付けをすること」。大学では模擬裁判などを通して学生に、客観的・理論的に判断する力や傾聴力を養ってもらっているとのことでした。その中で、行政書士の業務に関係する実践例も示されました。わかりやすかったのは、アリとキリギリスの話でした。アリとキリギリスの寓話の本来の結末は、自業自得の教訓です。ところが、いろいろな結末の可能性があるというのです。例えば、優しいアリさんがキリギリスさんに食べ物を与えたのなら友情のハッピーエンドですが、キリギリスさんが食べ物を稼ぐためにコンサートを開けば交換経済の話になるし、働き過ぎのアリさんが過労死するエンドの可能性もあるといいます。そこに、行政などの第三者が入ることで、更に解決や展開が変わっていきます。それぞれの立場をロールプレイしながら、憲法には困った人を助ける条文があることに気づき、健康で文化的な最低限の生活を保障する生存権の話を理解してもらうとともに、憲法という根拠に基づいて、行政はいろいろな事情の人を助けて生存権を実現する必要があると実感してもらう、となんだかとてつもない広がりのある話になりました。そして、事実の裏付けを考える中で、事実をきちんと調査・活用するツールとして図書館の活用が考えられると、図書館へとつながっていきました。
墨田区立緑図書館館長の三浦なつみ氏をゲストに、皆さんで図書館の可能性についていろいろな意見交換がされました。最近、随分と浸透してきた図書館の医療健康情報コーナーは、医師法と密接な関係があります。困ったとき使えるように整備しているコーナーですが、図書館に法情報の資料が少ないのでは? との意見がありました。また、子ども向けに法情報を伝えるニーズはあるのか? との問いには、できることやあることを知ってもらうために、行政書士のリーフレットを図書館に置くのも一策。図書館はあらゆる人が居る場所だから、いつでも誰でも来られる場所に置くことに意味があるとのことでした。
図書館と他部署との連携は、例えば、ハローワークと連携して仕事の探し方を教えるのもあれば、地元の工場見学から地域情報を発信するなどさまざまです。
地域でのニーズの違いもあります。
法教育も地域性に見合った、身近な題材が良いとのことで、行政書士の寺田康子氏より墨田区のスカイツリーを使った授業案の紹介がありました。内容は、「スカイツリーの絵をかく」がテーマ。絵をかくにあたり、スカイツリーを立てるのには建築基準法など法や決まりが関係すること、法には目的があり、守られていることを学んでいきます。学校授業の後に、図書館で調べものをするのも法教育なのです。
イベントを行う場合は、みんなが知っていることを題材にするのが前提ですが、子供と大人では少し違いがあります。小中学校や高校の場合は、これからどんなことが起きるかに焦点を当て、大人向けには今直面している問題に焦点を当てると良いそうです。情報の使い方にも距離感の違いがあるとのこと。子どもは困っているけど、どうしてよいか、何から手を付けてよいかわからない。そんな時は、自分が困っていなくても、ほかの人が困っていることを教えて欲しいと伝えるのも一案だそうです。
コロナ禍で、図書館の情報開示についても変化がありました。最近は直接来館が難しくなったので、地域情報の発信や子ども向けのパスファインダーなどのホームページのコンテンツの充実が課題になっています。動画を取り入れる図書館も増えてきました。今は過渡期で、図書館を入口にして専門家につなげていける工夫を模索しているとのことでした。今後の行政書士との連携については、親子で参加できる講座があるといいなあとのことです。アイデアのある方は是非共有してください。
山賀氏が後日送ってくださった104回全国図書館大会(注3)には、調布市立図書館の「暮らしに役立つ法務ミニセミナー」、鎌倉市図書館の「暮らしのお役立ち講座」、鳥取県立図書館の「暮らしの困りごと解決ナビ」の事例発表がありました。実は私、山賀氏には以前お会いしていて名刺交換もしていたのです。でも、その時は全く関心がなくて、今回のウェビナーで、「そういえばお会いしていた」と思い出した次第です。どんな出来事も関心がないと掴むことができません。だからこそ、伝え続けることが重要なんだなあと思いました。 山賀氏は、今後も法教育を通じて、学校現場だけでなく、地域の教育機関・情報機関である公共図書館、そして、学校図書館との連携・協働を目指して活動を続けていきたいと話してくださいました。