オーテピア高知図書館と越知町本の森の図書館
図書館つれづれ [第59回]
2019年4月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

2018年12月の高知県下の図書館見学では、前回紹介した梼原町雲の上の図書館のほかに、オーテピア高知図書館と越知町本の森図書館にも伺いました。今回は、オーテピア高知図書館と越知町本の森図書館の報告です。

オーテピア高知図書館(注1)

オーテピア高知図書館(以下、「図書館」)は、高知県立図書館と高知市民図書館が合築した図書館で、複合施設オーテピアの中にあります。オーテピアの基本計画は2011年から動き始めましたが、東日本大震災の影響で免振装置に見直しが入り、計画は大幅に遅れて、2018年7月に開館しました。余談ですが、オーテピアの前には戦前の物理学者、寺田寅彦の銅像がありました。高知城の前には板垣退助の銅像があり、高知ではやたらに銅像が目につきました。目の前の通りで開催される日曜市に訪れる観光客を配慮してか、オーテピアの建物の外にトイレがありました。

案内くださった山重壮一氏は、10年前に、高知県立図書館の新館をつくるために、目黒区の図書館から高知県入りしました。その後紆余曲折があり、市民図書館と県立図書館を合体させた図書館をつくることになりました。最初話を聞いたときは、そんなことできるのかなとも思いました。山重氏をはじめ多くの方々のどれほどの苦労があったのか思い図ることはできませんが、10年目にしてやっと開館することができたのです。双方の図書館システムが違っていたため、システムだけ先に統合したのも混乱を避けられた一因だったと聞き、納得しました。以前、私も図書館システムの比較表づくりに挑戦したことがあるのですが、特に“予約”の概念は、システムごとに大きく違うのです。

小学校跡地に建てられたオーテピアは、とにかく広い。まずは、4階のホールで説明を受けました。このホール、土佐漆喰や土佐和紙を使っていて、和の雰囲気を感じる空間でした。壁は「リ-フルーバー」といって、自然光を取り込む仕掛なのだそうです。その他にも研修室や集会室などがとても充実しています。エントランスホールでは、旧市民図書館にあった「土佐桜」という大理石が絵画のように出迎えてくれました。

図書館は2階と3階にあります。図書館のコンセプトは、“高「知」の樹を育む”。幹は真ん中にある蔵書170万冊の閉架書庫です。巨大な、ガラス張りの閉架書庫は、「まんなか書庫」とよばれ、外からも親しめるようミッフィーなどのぬいぐるみが置かれていました。まんなか書庫の4隅に貸出やレファレンスのカウンターなどがあり、周りには新刊や特集テーマの展示書架が設けられていました。事務室では、市立図書館と県立図書館の方が肩を並べて仕事しています。でも、館長室は2つあるとのこと。選書も人件費の予算も別々です。開架の本は所蔵の区別なく混配していますが、背ラベルは色分けされていました。予算や人の配置など一体どうなっているんだろうと、“??”が並びました。

図書館運営の大きな柱は、情報拠点機能と課題解決支援です。データベースは、新聞記事、論文・雑誌記事索引、ビジネス・農業情報、医学・看護情報、法令・判例情報など24種類と豊富に提供しています。

図書館内のそれぞれのコーナーにも工夫がありました。棚の側板はリーフをイメージしてくり抜きがされていて、棚のサインはオシャレにマグネットで取り外し可能です。座る方の年齢を意識してか、段違いのおしゃれな椅子も用意されていました。パンフレット類は前に垂れない工夫があり、雑誌も前に倒れないようゴムで固定しています。子どもの読み聞かせの場所の奥にある空間は、本当に落ち着きました。小学校の1教室分の生徒数が座れる椅子と机があり、この場所で色々なイベントができそうです。館内は、広くて大きくて、老若男女はもちろん、席は中高校生でいっぱいでした。「図書館は静かな場所」という発想を打ち破り、静寂を求める人には“サイレントスペース”が用意されています。図書館の役目や雰囲気も、以前の図書館のイメージとは大きく違い、見学した誰もが羨ましがっていました。

まんなか書庫をはじめとして、建物についても工夫があります。入口から館内フロアへの動線やエスカレーターや階段、エレベーターでの上下階移動などに、商業施設のような洗練されたおしゃれな感覚を受けた方もいました。駐車場は地下に埋め込まれていて、外から車の出し入れが見られるようになっています。建物の外のトイレなど、観光や商業の拠点のほかに災害時の拠点にも図書館が一役買っています。

オーテピアの1階には「声と点字の図書館」、5階には「みらい科学館」があり、出入りする利用者層の幅も感じました。課題もたくさんあるのでしょうが、「図書館は成長する有機体」ですから、試行錯誤を繰り返していくのだろうと思います。

余談ですが、見学終了後、以前は市民図書館に勤務していた宮崎篤子氏をはじめ図書館の皆さんと、集合型の屋台村「ひろめ市場」で懇親会をもちました。2018年4月に開館準備のため栃木県立図書館から赴任した鈴木章生氏は、「仕事はとても大変だけど、高知の方々のおおらかさにいつも救われる」と言います。黒潮の流れる先は、はるかアメリカの西海岸。ひろめ市場では、よそ者でもすーっと受け入れる、小さなことには頓着しない高知の県民性とおもてなしに感激した夜でした。

越知町本の森図書館(注2)

本の森図書館の存在を知ったのは、2017年7月に開催された図書館問題研究会の会場で、赤木かん子氏から紹介されたからでした。児童文学評論家である赤木氏は、学校図書室は多く手掛けていますが、公共図書館を初めてプロデュースしたのが本の森図書館だったのです。山の上にあった公民館図書室が町に下りてきて、なおかつ手狭になったので増築したのですが、コンクリート丸出しの柱にとても苦労したと話してくれました。当初100万円の予算からスタートし3年計画で開館にこぎつけたとは、赤木氏から聞いた話です。赤木氏から司書の井上るみ氏を紹介していただき、梼原町の帰りに井上氏を訪ねました。

図書館に入ってすぐに目に飛び込んできたのは、柱をうまく利用した可愛らしいディスプレイ。実は、この柱、増築の際にたった3日間で補強したコンクリートの柱で5本もあります。本来なら邪魔になるコンクリートの柱を木材で覆い、素敵なディスプレイ空間として利用。柱の欠点を見事にカバーしていました。コンクリートの打ちっぱなしの壁に、プラスチック段ボールを貼って掲示板を作っていたのは驚きの工夫でした。使い終わったガムテープの芯を半分に切り取って奇麗に包装紙を巻き、「八百屋見せ」とよばれる本の見せ方の工夫も圧巻でした。どの部分をとっても、「ひと手間を惜しまず」工夫されています。

こどもコーナーは、どこを切り取っても可愛いの一言です。「ダーウィンのひきだし、あけてごらん?」と大きく書かれた張り紙の裏に回ると…昔は何処の図書館にもあった目録カード入れのボックスで、中の芯棒をとっていました。ダーウィンのひきだしには、恐竜ではなく大腸菌やペニシリンなどのパペットが隠れていて、皆さんから一斉に歓喜の声があがりました。「こんな使い方があったのか!」と、ボックスを処分した図書館の方は歯ぎしりしていました。使わずにしまっている図書館は、是非活用くださいね~♪

小さな図書館ですから児童書も一般書も混配です。書棚のサインは、およそ公共図書館とは思えないような、学校図書館に紛れ込んだような錯覚さえしました。私たちの感覚では、「本当に公共図書館なの?」と思う方もいたのではないでしょうか?でも、皆さんが批判的な見方をしたかというと、実はそうでもなくて、中には「自分が育ったまちに、こんな図書館をつくりたかった」と感想を述べる方もいました。限られた予算や環境の中で、知恵を出し合い、町の皆さんの協力も仰ぎながら作っている図書館の姿を見て、町の人たちが満足しているなら、それもありだと感じました。

後日、井上氏から、お話を伺うことができました。当初、図書室は町民会館(越知町山の上)にあり町民の方から利用しにくいとの声で、2000年に保健センター跡の建物に「公民館図書室本の森図書館」として開館したそうです。井上氏が着任したのは、2011年4月。その年に、高知県立図書館にて、越知町の山中弘孝教育長が赤木氏の講演を聴く機会があり、かねてから念願であった町立図書館へ踏み出すことを決め、赤木氏にプロデュースを依頼したのだそうです。2013年7月にリニューアルオープンし、現在に至っています。オープン当初は、町の図書館というものに対する町民の方の認知も薄く、「図書館は情報の拠点」という認識も希薄だったそうです。それが5年の歳月をかけ、少しずつ認知され定着しはじめたとのこと。赤木氏のアドバイスにより、町内の福祉施設へ定期的訪問し、入院されている方の要望に応える出前サービスもしています。利用者の数は少ないそうですが、まずは実績を作ることからと頑張っています。

山間部など点在している集落への対応が課題ですが、出張サービスをその地域の公民館と連携をとって行うべく歩みを進めているそうです。図書館に配属されて司書資格を取得した井上氏のチャレンジはまだまだ続きます。

規模も図書館のコンセプトも相異なるオーテピア高知図書館と本の森図書館。図書館の在り方はその図書館を利用する利用者と共に作っていくのだなと実感しました。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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