私事で恐縮ですが、2021年秋に出版すべく、司書の皆さんと本づくりをしています。内容は、図書館で働く皆さんにはおなじみの「本の紹介」をする本です。私は、司書資格は取得していますが、図書館で働いたことはありません。最初は書く予定がなかったのですが、途中から書き手で参戦しました。初めて司書らしい仕事をすることになって、感じたことが幾つかあり、そんなことを今回は書いてみようと思います。併せて、タイミングよく2021年6月に機械振興協会経済研究所BICライブラリ主催の茂原暢氏によるウェビナー「ウェブサイトは閲覧室:渋沢栄一記念財団情報資源センターの事業スタイルについて」を聴いたので、ウェビナーでの話も補足してお伝えします。
古い本は書店では手に入りにくいので、その本を図書館で借りるときの手掛かりになればと、紹介本にはNDC分類をつけています。私がたまたま紹介した本の著者は、書店も営んでいて、エッセイの中で本の紹介もされ、書籍リストも掲載されていました。NDC分類は024(書店)ということで、総記の棚になります。東京都下で調べてみたら、30区市町村でエッセイ(NDC:914)の棚に分類されていたのはわずか3館。この本を手にする利用者にとって、どこにあるのが一番便利なんだろう? と疑問に思ったのです。今は、検索すれば本の棚に辿り着く時代。戸籍としての保管場所はもちろん大事ですが、本を手にする利用者目線では、どこに置くのが一番なのだろうと思った出来事でした。
単行本で出版された後、数年で文庫本が発売されます。単純に体裁だけと思っていたのですが、文庫本には加筆訂正が入る場合もあります。たまたま手にした本は、加筆に、本の感想のマンガも加わっていて、単行本との違いを実感しました。同じ出版社から出版されるというわけでもなく、最近は、いきなり文庫本で出版される本もあるようです。
同じ本なのに、装丁が違うだけで全く違うイメージの本もあります。よくあるのが、カバーだけをすり換えて店頭に並べなおすケース。そういえば、映画で「人間失格」が公開されたとき、生田斗真のカバー写真に変えたら、本が爆発的に売れたと聞いたことがあります。出版業界はわからないことが多いです。
書店に並ぶ本には、本を売るための「帯」と呼ばれる売るためのキャッチコピーがついています。図書館では帯を外して装備するケースが多いですよね。現在作っている「本の紹介」をする本では、紹介している本の書影(本の表紙イメージ)を入れるのですが、最近は帯付きの書影しか提供されない場合もあるようです。ネットで見た書影をたよりに図書館に来た利用者は、帯のない本を見て「この本ではない!」と、カウンターで押し問答もあるとのこと。最近は本全体を覆う帯もあると聞いてびっくりしました。
旧漢字については、あまり意識していませんでした。図書館のWeb検索では「文芸春秋」と表示される本も、手にしてみれば、「文藝春秋」出版の本もあります。これが、国立国会図書館のNDLサーチでは、ちゃんと旧漢字で出てきます。さすがNDLサーチ。司書の目録に対する想いを感じました。
門倉百合子さんは、2021年春の大河ドラマ「青天を衝け」のモデルとなった渋沢栄一の業績を広く公開する渋沢栄一記念財団情報資源センターで、12年間司書の仕事をされていた生粋の司書です。今回は多くの司書が関わって書くため、本としての統一感がなくなるのが心配でした。そこで、彼女に編集統括をお願いしたのです。快諾してくれ、全ての記事に目をとおし、校閲を一手に引き受けてくれました。書き方に慣れるまでのつもりで進捗をZoomミーティングで行っていました。ところが、門倉さんから学ぶことも多く、結局最後までミーティングは隔週で行い、司書の学びの場となりました。
紹介記事を書くにあたって、門倉さんより注意事項を挙げてもらいました。
と、叱咤激励が入ります。紹介文に自分の感想を書いていると、「ご自身の感想は出発点でとても大事ですが、客観的記述に重点をおいていただきたい。」と、これまた手厳しく指摘が入ります。皆さん悲鳴をあげながらも、愉しく原稿を書きました。原稿が全て揃う頃には、私たちの腕も随分と上がっていました(自画自賛?)。
門倉さんは、渋沢栄一記念財団にいたので、Zoomミーティングでは、なにかとホームページも参考にして説明をしてもらいました。
渋沢栄一記念財団は、1886(明治19)年に結成された「竜門社」まで沿革は遡ります。渋沢栄一は、企業の創設 ・育成に力を入れ、「道徳経済合一説」を説き続け、生涯に約500もの企業に関わったといわれています。また、約600の教育機関 ・社会公共事業の支援並びに民間外交に尽力しました。ホームページでは、業績を、部門に分けて紹介しています。
財団概要ページで公開している財団刊行物一覧(注2)は、書庫にある書籍の紹介文を少しずつブログに書き溜めて作ったもので、ウェビナー講師である茂原氏と門倉さんの二人三脚の作業だったと後日聞きました。Zoomミーティングでは、本の紹介の事例として、この中の渋沢栄一の長女である穂積歌子の『はゝその落葉』も参考に見せてもらいました。ちなみに、『はゝその落葉』の「ははそ(柞)」は落葉樹コナラやクヌギなどの総称で、和歌では「母」の意にかけて用いられる言葉なのだそうです。
渋沢栄一の略歴や多岐にわたる活動が紹介されています。渋沢栄一関連会社名・団体名変遷図(注3)では関連会社の変遷図などを知ることができます。アサヒビール、キリンビール、サッポロビールは、全て渋沢栄一が絡んでいたと知ってびっくりしました。団体の変遷図を見ているだけでも飽きません。
渋沢栄一の活動を広く紹介する博物館として、1982年に開館。栄一の生涯と事績に関する資料を収蔵・展示し、関連イベントなども随時開催しています。旧渋沢庭園に残る大正期の2棟の建築「晩香廬」「青淵文庫」の内部公開もしています。
情報資源センターは、固有の閲覧室を持たず、非来館型のリモート・サービスを中心とする財団の「図書館・デジタル部門」となる専門図書館です。
サイトでは、渋沢栄一と実業史に関する情報資源を開発・提供しています。渋沢社史データベースにビジネス・アーカイブズ通信、実業史錦絵プロジェクトなど多岐にわたり、専門司書が従事し情報を発信しています。
渋沢栄一に関する研究促進・研究者育成に加え、日本の近代化と国際関係において栄一が示したリーダーシップとユニークな発想を踏まえて、国内外における研究事業、シンポジウム、セミナー等の実施・支援を行います。
原稿を書いているタイミングで、渋沢栄一記念財団 情報資源センター長の茂原暢氏の話を聴くことができました。「Webサイトは閲覧室」をうたう事業スタイルには、コロナ禍における図書館サービスのヒントが隠されていました。
ウェビナーでは事業の詳細を説明してくださったのですが、ここでは、聴講者からの質問や最近の動向の気になった個所だけ記します。
2021年の大河ドラマ「青天を衝け」のモデルとなった渋沢栄一。ドラマの脚本は渋沢栄一の年譜(注5)に忠実に作られているようです。ホームページはどこから見たらよいのか正直わからないほどの情報が満載です。皆さんも大河ドラマを更に面白くみるために、一度覗いてみては如何でしょう。