ウェビナーとは、Webで行われるセミナーのことで、オンラインセミナーとかWebセミナーとも呼ばれています。新型コロナウイルス感染症の影響ですっかりイベントが影を潜めた中、ウェビナーは授業や研修などで脚光を浴びています。10数年前まで遠隔地をむすぶテレビ会議システムは、専用線を引いて多くの投資をしないと実現しなかったのですが、今では勇気を出してちょっと一歩踏み出せば、誰でも手軽に参加できるコミュニケーションツールになりました。
ということで、私も重い腰を上げてZoomを使った未来の図書館研究所(注1)主催のウェビナー「図書館の未来を拓くスキル〜ヒト・モノ・コトをむすぶ場づくり」全3回に参加することにしました。2020年6月第1回目のテーマは、「図書館の本来と将来を考える~図書館づくりの実践から」。講師は、図書館と地域をむすぶ協議会の太田剛氏。前半は、アフターコロナの図書館がオンラインを組み込みつつ地域社会との関係づくりを進めていくためのキーワードを紹介し、後半は、太田氏が関わっている7月開館予定の宮崎県椎葉村の図書館「ぶん文Bun」の図書館づくりの実践の話でした。
椎葉村図書館の紹介はまた別の機会にするとして、今回は、ウェビナー初参加の感想や研修内容を紹介します。
Web研修のツールは他にもありますが、大学生のアンケートでもZoom(注2)希望が一番多いそうで、理由は以下の3つがあげられるようです。
講師の太田氏は、既に大学のオンライン授業で試行錯誤を繰り返し、今回は2台のPCでZoomにログインし、3つのモニターを使い分け、参加者の顔を確認しながら、資料を共有し、しかも自分の写りも確認するという体制で臨みました。
一方、Zoom受講初体験の私は、まずは、ブラウザで“Zoom”を検索し、アプリケーションのインストールを行って準備をしました。アカウントを取るためのサインアップの方法は、GoogleやFacebookなど幾つかあって一瞬焦りましたが、なんとかZoomのインストールは終了しました。受講者は無料ですが、提供側は有料の契約をしないと機能が制約され、時間も40分で切れてしまいます。友人とのZoom飲み会レベルなら、それでも十分楽しめます。それにしてもインターネットのアカウントのパスワードには本当にうんざりします(普段使わないと直ぐに忘れる)。
受講する側は、招待メールのURLをクリックして参加ボタンを押すと会議に参加できます。カメラや音声の利用許諾のポップアップが出たら、許諾します。最近はカメラもマイクもスピーカーも内蔵しているパソコンが多く、外付けの心配はしなくてすむようです。スマホからの利用も可能です。
画面下のメニューに、画面の共有・参加者の表示画面・プロフィール表示など幾つかアイコンがあり、こちらも失敗を恐れずに実際に動かして確認して覚えていくのが一番の近道です。
友人がよくあるトラブルをまとめてくれていたので紹介します。
ちなみにZoomは、動画は軽くて綺麗なのですが、ウェビナーなど講習を主眼に作られているためか、誰か一人の声を捉えてしまうので、同時に会話する際には注意が必要とのことでした。
ということで、私のZoom研修はスタートしました。
図書館と地域をむすぶ協議会は、略して「とんち協」、「図&地協」と書きます。ゲシュタルト心理学に「図」と「地」という概念があります。「ルビンの壺」という絵があって、同じ絵が壺に見えたり男女の顔に見えたり、どちらが主になるかはその人の見方で変わってきます。ものごとには多面性があるのです。本研修では、情報を集めて分類し新たな価値を生み出す編集工学的な見方を通して、ネットワークコミュニケーションや免疫学や防疫や自然科学からの切り口、果ては仏教や神道や日本文化的な切り口などなど、多様な見方を提示しながら、キーワードのシャワーを提供してくれました。新型コロナ感染症対策の“3密”ならぬ空海の“三密”など仏教や神道に関する話には付いていけず、私が辛うじて理解できた範囲ですが、幾つかキーワードを紹介します。
自己は、他者を受け入れてこそ自己認識できます。その他者を受け入れるツールがコミュニケーションです。サービスは、もてなし(持て成し)・しつらい(室礼)・ふるまい(振舞)の3要素が揃って成り立ちます。図書館サービスは、そのために3連「連携・連帯・連続」とルル三条「ロール・ルール・ツール」を心掛ける必要があると言います。「ロール」は役割で、図書館のスタッフだけでなく自治体の中での役割分担も含みます。「ルール」は図書館サービスの役割を果たすための運用や仕組みです。ロールとルールは図書館運営ではセットで考えなければいけません。ところが、ロールとルールを見極めないままツール(道具やシステム)に走ると、上っ面だけのサービスになってしまいます。今回の新型コロナ感染症対応もしかり。たとえ同じ結果になったとして、どれだけコミュニケーションをとりお互いの同意を得たかは、図書館サービスに影響します。コミュニケーションは、その場に関わる人たちが、それぞれの思いにどう応えていくか、合意と工夫がなければ成立しない、はかなく弱いものというわけです。
今回の新型コロナ感染症対策による自粛規制で直接のコミュニケーションが断ち切られ、テレワークにストレスを抱えた方が多くいました。一方で、ネットワーク上の誹謗中傷によるプロレスラーの悲しい知らせもありました。ネットワーク上での負の感情の増幅は、断ち切る勇気があれば断ち切ることもできたはずです。だって、ネットワークは一つではないのだから。でも、それが、なかなか難しいのです。
従来のメディア(例えば本づくりなど)では、発信者は、間違いは許されない正の情報を発信しなければいけません(本づくりを経験した身としては、何度校正してもミスはあるのですが)。そして、受け手は、発信するメディアのミスを許さない、情報の発信者と受け手は対立構造にあります。
一方、ブログもそうですが、SNSの世界では、間違っていれば気が付いたときに修正すればよくて、最初から完璧を目指さなくてもよいのです。「とりあえず始めてみる」という見切り発車ができる気軽さがあります。ちなみに、5年ほど前、dlib(専門図書館を横断検索でつなぐプロジェクト 注3)に関わったとき、この見切り発車的構築を経験し、従来の開発手法との違いに、大いに戸惑ったのを今でも覚えています。
情報を持っていない人が、「教えて!」と器を差し出せば、みんなが足りない部分を補って満たしてくれる、SNSの本質は、中途半端が許される世界なのです。話を聴いて、思い浮かんだのはウィキペディアです。ウィキペディアは、修正の履歴を残しながら、多くの善意で成り立っています。
でも、この見切り発車的な考え方を、自治体はすんなり受け入れてはくれません。図書館で何かイベントを立ち上げようと企画を通すには、「とりあえずゆるやかにやります!」なんて許されません。それを実現すれば、どんな効果があるか、従来のメディアづくりの理論で追及されます。図書館の棚構築やホームページの作成もしかり。やりながら補足していくという考え方はまだまだハードルが高いのです。
ところが、ロールとルールの関係がしっかりしていれば、完璧を求めずに図書館運営ができると言います。それには、自治体の首長や図書館の館長の采配が大きく左右します。そして、その潤滑なコミュニケーションに必要な言葉は、「お願いします」と「ありがとう」。相手を認め思いやる言葉です。
太田氏は最近「レジリエンス」というキーワードに注目して図書館づくりをしています。レジリエンスとは、「回復力」や「弾力性」とも訳され、様々な外的ストレスに対応する柔軟性を示します。
研修の後半に太田氏が紹介された椎葉村は、人口2,500人の宮崎県と熊本県の県境にある小さな村です。その村が生き残りをかけ、村の将来のために図書館を造りました。図書館は村長直轄、観光協会が書店の役目を担い、村中でのお金を産む仕掛けを作りました。このしたたかさがレジリエンスと解釈しました。
パソコンの画面でZoomに向き合うこと2時間。やはり疲れました。途中、各自適当に休憩するように言われても、「しっかり聴かなきゃ」の想いがあるからできないのです。慣れてくると頃合いがわかってくるのかもしれません。リアルで感じられる場の雰囲気などは伝わりませんが、利点ももちろんあります。特に地方の方々は、交通費や多くの移動時間をかけなくても研修の時間だけ確保すればいいので、ハードルがぐっと低くなりました。とりあえず今回は、初めてのZoomを終えてホッとしているのが本音です。
研修の内容の全てを理解できなかったのは残念ですが、竹のようなしなやかさで、今後の図書館が共同知を作る空間として力を発揮するために、このネットワークコミュニケーションをどれだけ取り入れることができるかということが課題かなあと思いました。