2020年、現在も世界中に猛威を振るっているCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)は、知の拠点と言われる図書館を休館の非常事態に追い込みました。状況が変化するその都度、図書館で働く人たちは対応に悩み、苦渋の決断をしてきました。
今回は、私が見聞きした2月27日の全国学校休校要請からこの数か月の図書館の状況と私の感じたことや周囲の思いなどを振り返ってみようと思います。
2月27日の安倍首相の突然の学校閉鎖発言で、あれよあれよという間に世間の形相が変わりました。「もしかしたら戦争に突入する時もこんな感じだったのかなあ」と、ふっと脳裏をよぎったのを覚えています。
小学校の休校や図書館などの公共機関の閉館が相次ぐ中、独自の判断で開校・開館している自治体や図書館がありました。視覚障害者等を対象とした対面朗読まで中止する図書館に、異議を申し立てる人もいました。ちなみに、図書館が開館しない状態を、「閉館」「休館」「閉鎖」など、いろいろな表現をしていました。
東京23区の図書館では、当初は、イベントを中止し予約本の受渡しや返却対応をしている図書館が多く見られました。私の近くの図書館では、予約資料の貸出は可能でしたが、カウンターの周り以外はバリケードがめぐらされていて、その光景に映画「図書館戦争」を重ねました。
地方の図書館では、本の貸出冊数に制限をなくし、期間も伸ばしてサービスを始める図書館もありました。学校が休校になった子どもたちに、本を届けたい思いがあったのだと思います。
自治体からの通達をそのまま鵜呑みにせず、知人の図書館では、対応目的を「長時間滞在させない・手続きの短時間化」としました。また、利用制限したことによる苦情を招かないために、職員向けQ&Aを作り、地域図書館を含め全職員に対処方法を周知しました。以下は、知人の個人的な経過メモです。
どこの図書館も、似たような苦悩と選択の日々であったのではと思います。
一方、制限下でどんなサービスができるか工夫もしていました。愛知県田原市立図書館では、会計年度任用職員の司書たちが学童保育の現場に赴いて、人手が足りない児童クラブの支援員の補助を行いました。慣れない仕事で大変だったと思いますが、これからの児童サービスに向けてのヒントがたくさんあったのではないでしょうか。
カーリルも情報発信しています。2月末から3月にかけて、図書館のインターネット関連サービス、特に蔵書検索サービスを停止する図書館に対し、カーリルでは資料の利用可能性に関わらず、検索サービスについては最低限提供されるべきだと明確に考えを表明しました。インターネット検索サービスを全て中止した図書館は、検索後に予約されると貸出が行えないため、かえって混乱を招くと判断されたのだと思われます。気持ちは分からなくはないですが、検索から予約することを防ぐなど手立てはなかったのかと思ったりしました。休校になっている学校図書館が提供する「郵送等による配達貸出」向けに、4月24日から、提供する業務用の横断検索API及び、この技術を応用して学校図書館と実験を進めていた検索サービスの無償提供を開始しました。その後、学校の休校が続く中、学校図書館の横断検索をリリースするなどもしています。
そのころの周囲の司書の声を拾ってみました。
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神頼みではないけれど「アマビエ」なる可愛いい妖怪が現われたのは3月中旬以降でしょうか。著名人の感染や訃報が重なり、やっとみんなが自分事と捉えるようになり、不要不急の外出を控えるようになったのではと感じています。
4月7日に7都府県で緊急事態宣言が発令されました。4月15日には世界の感染者が200万人を超える勢いとなり、緊急事態宣言は4月16日には全国に拡大されました。
図書館は休館を余儀なくされ、「テレワーク」や「遠隔サービス」が話題になっていきました。図書館内での司書やスタッフの受入業務などは、テレワークの対象になるのか?市民への提供サービス(閲覧業務やレファレンス業務など)は、遠隔サービスにできないか?そんな議論が展開され、館内の整備やサービスの見直しが行われました。図書館は休館していても、決して仕事をしていないわけではありません。蔵書点検や除籍作業や手付かずだった登録作業などのほかに、休館していても電話・メールでのレファレンスは継続しているところもたくさんありました。新型コロナウイルス感染症の情報提供やレファレンス以外にも図書の郵送貸出(無料・有料)も実施する図書館も出てきました。電子書籍を利用者に無償で見られるサービスもありました。退屈している子どもたちに、出版社やアーティストが個人的使用の範囲に限定して、無償で塗り絵用にとPDFファイルのダウンロード提供をしました。
5月の連休を控え、外出しなくても何とか生活を豊かにしようと、さまざまなアイデアが生まれてきました。Facebookでは、毎日1冊ずつ本の表紙を紹介し次の人へバトンタッチする「7days Book Cover Challenge」、幼少期の写真を1日限定で公開するゲームなど、多くのアイデアで賑わっていました。中にはチェーンメールまがいのものもありましたが、友だちと励まし合いながら、ストレスを溜めないほっこりした話題をみんなが欲していたのだと思います。
マスク不足が続く中、インターネット上で型紙や作り方を紹介されていたこともあって、手作りマスクが随分と普及していきました。スーパーでは床にソーシャルディスタンスの印がつき、そのうちレジには透明のビニールカーテンやアクリル板が設置されるようになりました。
連休が明け、saveMLAK(東日本大震災をきっかけに、博物館・美術館(M)、図書館(L)、文書館(A)、公民館(K)の有志で発足した被災・救援情報サイト)では、COVID-19による開閉館状況をみんなで可視化し調査結果をサイトで公開しました(注1)。単に数値で可視化するだけでなく、これが記録として残っていくことが大切なのかなあと思いました。
日本図書館協会は、5月14日に「図書館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン(注2)」を公表しました。来館者の安全確保のために実施することの中に「氏名及び緊急連絡先を把握し、来館者名簿を作成する。」(後日補足説明を掲載)の記述がありましたが、日本図書館協会図書館の自由委員会では、「こんなとき、どうする?『COVID-19に向き合う』に来館記録の収集は推奨しません(注3)」をWeb掲載しました。SNS上でも大きな反響があり、来館記録は感染拡大防止に本当に役立つのか、記録の収集によって失われる「図書館は利用者のプライバシーを守る」ことへの信頼と比較考量して判断してほしいなど、多くの意見が飛び交いました。
連休が明けて、友人が発した「休館準備より開館準備のほうが大変。早く普通に開館したい~」の一言が全てを物語っているように、休館を解除するほうがはるかに多くの課題を抱え、さまざまな工夫がされました。以下に例を挙げます。
インターネット環境のない利用者へのもどかしさを感じながらも、できることから始める姿勢に感銘を受けました。
規制が徐々に解かれていく中、それぞれの図書館がそれぞれの事情に合わせて基本方針を示し対策を講じていきました。図書館側の予防措置としては、席数を減らしたり、滞在時間を制限したり、飛沫感染防止フィルムの設置、定期的な館内の消毒と換気、返却本の拭き取りなどが多く見られました。一方で、利用者にも、体温測定、三密を防ぐ、マスクの着用、本を利用前後の手洗いなどの協力をお願いしました。
飛沫感染防止フィルム越しの会話は寂しいとカウンターで言われた知人は、「心の綺麗な人には、フィルム越し、マスク越しのわたしの最高の笑顔が見えるはずです」と返答すると、利用者の方も「見える見える!」と喜んでくださったそうな。そんな会話がほっこりとさせてくれました。
5月25日に全国での規制が解除になり、直後の周囲の司書の声を拾ってみました。
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ほぼ2か月に及ぶ緊急事態宣言が解除されました。今までの日常を取り戻すのではなく、COVID-19と共生しながらの新しい日常の模索が始まりました。私たちは、ここから何を学ぶのか。過去の記録をアーカイブとして生かし、「転んでもただでは起きない」図書館の動きに注目です。