大学卒業以来誰にも会っていないという友達にせがまれて、書道サークルの同窓会のため、2024年11月に鹿児島へ行ってきました。私が学生時代を過ごした50年前の鹿児島市は、天文館通りの象徴といえば、電車通り沿いのバス乗り場も備えた林田ホテルでした。そのホテルは1998年に林田グループから岩崎グループに引き継がれ、2007年に解体されて、今は駐車場になっています。天文館通りで賑わっていたのは、白熊のかき氷で有名な「むじゃき」と、私もよく食べた「蜂楽饅頭」のお店だけ。地元のお店は影を潜めていました。
朝一番の飛行機で行ったので、時間はたっぷり。そこで、元鹿児島国際大学の種村エイ子さんの案内で図書館見学もしてきました。
今回は、そんな鹿児島中心市街地活性化策として天文館に建てられたセンテラス天文館の4-5階に開館した鹿児島市立天文館図書館と、福祉の社団法人が運営する「かもいけみらいの森」の中にある「えほん図書館」の報告です。
天文館図書館は、2022年4月にオープンした複合商業ビル「センテラス天文館」内に、会話や飲み物も楽しめる新しいスタイルの図書館として開館しました。「天文館の複合施設の中の図書館をどんな位置づけにするのか」、その基本構想の策定支援業務を受託したのが乃村工藝社。元田原市立図書館館長の豊田高広氏が研究員をしているフルライトスペース株式会社が協力会社になっていました。1年半ほどかけて検討し、「みんなをつなぐ図書館」とのコンセプトを打ち出し、テーマ別配架を採用しました。図書館は4-5階で延べ床面積2,120平方メートルという広々した敷地で、指定管理者の図書館流通センター(TRC)が運営しています。
複合商業ビルだから、外に看板らしいものといえば、ビルの案内図のみ。4階のエレベータを降りてすぐに、控えめな看板がありました。児童書から一般図書まで蔵書は約4万7千冊。一般書のコーナーも棚が低くゆったりとし、透けて見える書棚は全体に解放感があります。奥にレファレンスコーナーがありましたが、打ち合わせスペースなど職員のスペースは狭く、そこがちょっと残念でした。
図書館は、大きく「そだつ・くらす・はたらく・うみだす」の4つのテーマ別配架をしています。本の背ラベルは、NDC分類のほかにテーマの棚番号が記載され、棚の本は大きさ順で並べられています。こちらは、「はたらく」コーナー。
鹿児島市立天文館図書館:https://lib.kagoshima-city.jp/tenmonkan/
市民参加型のワークショップ「わたしのとびらプロジェクト」は天文館図書館の独自事業で、TRCから市民ワークショップの企画運営業務をフルライトスペースに委託し、豊田氏が担当しています。今年度はワークショップのやりかたを学び、図書館でワークショップを実際に開催してみる「みんなでワークショップをやってみる講座」を実施しています。
児童コーナーの閲覧スペースは伸び伸びとした空間でした。ベビーカー置き場もあって、街中では遊べる場所がないから、近くの保育園の子どもたちが来館した時は大活躍です。
豊橋市のまちなか図書館のように、真ん中にカフェがあります。カフェは同じフロアにある「グッジョブテラス」を実施している民間企業のグループ会社「ミエルカ」が運営していて、障がい者の自律支援や不登校サポートに就労支援などもしています。図書館との連携もあるようで、できればそのあたりの話も聴きたかったです。最近の図書館にカフェは必須のようですね。
テーブル席やソファなど約250席があり、このうち約90席はシステムで予約ができ、学習にも使えます。学生の使用が多いと思いきや、意外にも多様な層の人々や観光客にも使われているとのこと。
新聞コーナーでは、ときどき目当ての新聞を取り合うお馴染みの光景も見えるそうで、こんなに素敵な空間でもと、ちょっと笑ってしまいました。自由に使えるコーナーはワークショップなどにも評判で、図書館のイベントも行うため、いつも取り合いになるそうです。有料のギャラリーもあり、ギャラリーの使用料は図書館のカウンターで精算し、自治体へ納付しています。
訪問した日、市内の全中学校の力作揃いのPOPコーナーでは、生徒が数人だけの学校も、マンモス校と同じように気合が入っていました。たくさんの人に見てもらえるのだから、気合も入ります。
5階は、(はたらく・うみだす)のコーナーのほかに、セルフ貸出機がありました。事前にタブレットから背表紙を撮り、システム内で登録番号やISBNとリンクさせます。自動貸出機では背表紙を揃えて画像を認識して貸出します。「複本は?」と思わず気になるところですが、撮影不良や複本や背表紙を認識できない冊子などはエラー表示され、バーコードで直接入力して貸出します。所蔵数がさほど多くない上に複本が少ないから、ストレスは感じないとのことでした。ここは、商業ビルの中にあることもあり、2024年は1月1日だけ休館です。そのため、開館中に蔵書点検もやらないといけないので、タブレットをかざして、背表紙画像で本の点検をします。当初は幾つかトラブルもあったそうですが、少しずつ改善しているそうです。人の最終チェックは必要ですが、書架を整理する時間が限られている図書館には、そのうちドローンやロボットが開館中に蔵書点検を行う時代になるかもしれませんね。人がタブレットをかざすより手振れがなくてよいかもしれません。案内いただいた松田優子館長をはじめスタッフの行き届いたサービスに、天文館の未来を託したい気持ちになりました。
グッジョブテラス:https://goodjob.group/terrace/
公益社団法人教育・ヘルスケア振興節英会が運営する「かもいけみらいの森」は、福祉施設なので、マスクを着用して見学しました。設立者で元理事長の今村節子氏が住んでいらっしゃった場所にあり、鹿児島大学教育学部附属小学校のすぐ近くにあります。節子氏は、朝ドラ「虎に翼」に匹敵するほどの激動の時代を生き抜いた先駆者で、今も存命です。その波乱にとんだ人生の詳細は、公益財団法人慈愛会を参照ください。ちなみに、現在の理事長は節子氏の長男の今村英仁氏です。
預かり保育室に、学童保育、駆け込み寺のような保健室もあれば、看護小規模多機能型居宅介護事業所に訪問看護ステーションもあり、まさに「あなたの成長と健やかな暮らしを支援する」施設です。普段は入れない理事長のお部屋で、節子氏のこれまでの歩みを見せていただき、改めてこの事業への想いの強さを感じました。
「あらゆる世代が読みたくなる絵本を集めた図書館を施設の中心に据え、地域を限定しない誰でもが利用できる無料の絵本図書館を作る」という節子氏の想いを、建築家の安藤忠雄氏が鹿児島の地に実現しました。「えほん図書館」は、建物の中央部分1階から3階までの吹き抜けで、寄贈絵本が9割超、購入した絵本が1割弱というのも特徴です。3階は複本などの書庫になっています。
えほんだなのレイアウトにも工夫があります。
1階は、か(かんじる)・も(もりだくさん)・い(いっぱい)・け(けっしん)・み(みらい)・ら(らっきー・)い(いのち)の頭文字のテーマで本が並びます。2階は、の(のびのび)・も(もえる)・り(りっぱ)に続き、今村氏が提案するテーマである、5K「感性・感動・歓喜・感謝・完成」の字が目に留まります。
同行したサークル仲間の友人はサインの書体が気になったようです。聞けば、職員の方の字で、えほん図書館が休館の水曜日に書道教室を開いているそうです。
彼の好奇心は止まりません。「絵本のサイズの縦書きと横書きの違いは何か?右開きと左開きの特徴は?本のサイズはどうやって決めるの?」と、矢継ぎ早に質問が飛び交います。究極は、活字ではない手書きの文字の本はないのかと探しはじめ…そうしたら、ありました。
『おならうた』谷川俊太郎 原詩 飯野和好 絵 絵本館発行
今は菊池市立図書館の図書館ボランティアをしている彼の書体で、菊池がルーツといわれる西郷さんの絵本とか描かないかなあと、そんな妄想もした楽しい時間でした。
図書館には絵本専門士の森ゆかり氏がいて、色々な相談にも乗ってくれます。案内いただいた森氏の職歴がこれまたユニーク。もともと県の職員だったのが、自分のやりたいことをやりたいと、すっぱりと職を辞し、数年かかって絵本専門士の資格を取得しました。そんなときに、縁あって、非正規職員としてえほん図書館に採用され、今はやりがいを感じて働いています。年収の壁103万円が話題になっている昨今、女性の生き方の選択に幅があるのを応援する一方で、ちょっと複雑な思いも感じました。
かもいけみらいの森 えほん図書館:https://setsueikai.com/%E3%80%8C%E3%81%8B%E3%82%82%E3%81%84%E3%81%91%E3%81%BF%E3%82%89%E3%81%84%E3%81%AE%E6%A3%AE%E3%80%8D%E3%81%AE%E3%81%94%E7%B4%B9%E4%BB%8B/
今村節子氏のこと(公益財団法人慈愛会):https://www.jiaikai.or.jp/information/?id=1653
天文館図書館は種村さんの教え子がたくさんいて、「産休明けで戻りました」など皆さんが声掛けをしてくれたり、プロ顔負けのPOPの棚は種村さんの名刺のイラストを描いた教え子だったりと、始終穏やかな雰囲気の中での見学でした。天文館図書館のカフェしかり。えほん図書館も福祉施設の中にあります。福祉と図書館との連携は、相性が良いのかもしれません。