障害者サービスが専門の専修大学の野口武悟教授と、2023年から滋賀文教短期大学に講師として赴任の有山裕美子さん。読書バリアフリーに興味があった有山さんが野口先生とタッグを組んで、びわ湖東北部地域「地域を担う人材の育成プロジェクト」の一環として「LLブックをつくろう」研修は実現しました。LLブックが何かもわからずに誘われるままに、2024年8月から4回にわたり開催された、「LLブックをつくろう」研修に参加してきました。「LL」とは、スウェーデン語の「LättLäst」(英語ではeasy to read)の略。LLブックは、誰もが読書を楽しめるように工夫して作られた、「やさしく読みやすい本」のことを指します。今回は受講したLLブック研修の奮闘記です。
最初に、専修大学の野口先生から「LLブックとは何か」の話がありました。
読書バリアフリーが徐々に浸透しています。読みたくても読めない人は、ディスレクシアなどの障がいのある方だけではありません。外国にルーツのある人もそうです。
LLブックは、スウェーデンで始まった、知的障がいや暮らしにくさを持つ人々との共生社会を実現するために、ニーズに合った情報をやさしく、わかりやすく提供しようという試みです。
LLブックには3つのタイプがあります。
日常的な馴染みのあるテーマ(例えば、料理、健康など)について、写真を中心にわかりやすく伝える作品。
内容はシンプルで、わかりやすい単語と表現で文章は短い。ピクトグラムも文章を理解する手助けに使われる。
文章が長くなり、扱っている内容も登場人物もたくさん出てくる。
「LLブック」がなんとなく理解できたところで、ハートフルブックサイトを立ち上げた欧文印刷株式会社の井上竜介さんと松尾孝行さんから、LLブックの作成の説明がありました。
ハートフルブックサービスでは、障がいのある方や高齢者・外国人などに必要な情報をわかりやすく提供するために、LLブックをはじめとした様々な本を紹介しています。
サイトは、3つのパートで構成されています。
LLブックの特徴は、文章のほかに、ピクトグラムや写真、イラストなどを使ってわかりやすくしていることです。
作品の紹介と購入もできます。
専用の作成ツールを使いLLブックをはじめとしたわかりやすい本を作ることができます。テンプレートやピクトグラムが事前に用意されているので、はじめての方でも気軽にわかりやすい本を作ることができます。
ということで、今回は、この「作る」に挑戦しました。
ハートフルブック:https://heartfulbook.jp/
タイミングよく友人が都立図書館で開催された「やさしい日本語」研修を受講したので、その極意を紹介します。
やさしい日本語の「やさしい」には2つの意味があります。1つは「優しい心」、もう1つは「易しい言葉」。やさしい日本語作成には、漢字や言葉の使い方、文章の長さなどに工夫が必要です。
やさしい日本語のポイントは、「短く、かんたんに、はっきりと」。
短く:文を短くする=一文で伝えられることは1つのみ。
かんたんに:対象者の「難しい」を知る。
はっきりと:オノマトペや婉曲表現は伝わりにくい。
以下、表にしてみました。
表現 | 例や言い換えなど |
---|---|
オノマトペは具体的な言葉にする | 頭がずきずきします→頭が痛いです ざわざわしています→まわりの音が大きいです |
尊敬語・謙譲語は丁寧語にする | ご利用いただけます→使えます ご覧ください→見てください |
漢語は和語にする | 蔵書→図書館にある本 本の返却期限日→本を返す日 |
カタカナ語は、避けるか補足をする | キャンセルします→予約をやめます サインしてください→名前を書いてください インターネット→インターネット(Internet) |
どうしても必要で、この機会に覚えておいてほしい言葉については、表記をしたうえで補足をつけるというやり方もあります。
例:図書館利用カード→図書館利用カード(図書館を使うためのカード) 等
留意する点は、
一番大切なことは、正解は一つではなく、伝えたい対象によって変わるので、「コミュニケーションをとりたい」という気持ちとのことでした。
「当たり前で簡単」なようですが、平易でわかりやすい文章を作るのは、思っていた以上に難しい。そこで、便利なツールを紹介します。
文章中の漢字が、小学校何年生で習うか教えてくれます。基本は3年生までの漢字を使用とのこと。これはよく使いました。
http://denki.nara-edu.ac.jp/~yabu/edu/kanji/kanji_js.html?fbclid=
文章を入れると、「語彙・漢字・硬さ・長さ・文法」の5項目を判定してくれます。基本は、文章は一文で簡潔にして、難しい言葉は置き換えるようにしましたが、これが本当に手強いのです。
http://www4414uj.sakura.ne.jp/Yasanichi1/nsindan/?fbclid=
文章を入れると、他の文章に言い換えてくれますが、かえって複雑な文章になることもありました。
https://chuta.cegloc.tsukuba.ac.jp/
ピクトグラムは、ツールの中でも用意されていますが、JIS規格もフリー素材もあります。
https://www.kyoyohin.org/ja/research/japan/jis_t0103.php?fbclid=
さすが文化庁。上記のツールも含んでいます。こんなガイドラインがあることも初めて知りました。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/92484001.html
図書館案内や旅の話を題材にする受講者が多い中、私は、名古屋市図書館の地域との連携事業「ここにもライブラリー」と名古屋市南区にあるレンタルスペース「シバテーブル」の話を書くことにしました。シバテーブルは、外国人や子どもたちのコミュニケーションスペースになっていて、他の地域でも参考になると思ったからです。
構想ができて、まず、作成ツールの壁が立ちはだかりました。当たり前ですが、日頃使い慣れたWordやPowerPointとは勝手が違うのです。PowerPointで作成した文字をコピーすると、スペースが□の外字になるのか、何度もストールを起こしました。矢印の画像↓を登録したら、お化けのような↓ができました。ピクトグラムの画像も含めて、どうやら画像は均一サイズで登録されているようです。ページの複写機能は、思い込みから同じページに幾つも内容が重なってしまい、まるでトランプめくりのように、削除しても削除しても同じ内容が出てくるのには閉口しました。
教訓:説明書は、ちゃんと読みましょう。
印刷されたものを自分で本の形にしてみて、タイトルの次ページが裏表紙になるという初心者レベルの気付きも、体験したからこその実感でした。
私は、A5横サイズで作成したのですが、左から右へ、見開きには物語があることを、作ってみて今更ながら理解しました。ほんと、お恥ずかしい次第です。
簡潔で平易な文章で書くのは、本当に難しい。「やさにちチェッカー」で合格をしていても、2つの文章はできるだけ一文に分解する。改めて、絵本作家は凄いなあと思いました。一つの絵本を作るのに、何年も時間をかけて作る絵本作家がいるというのも納得です。誰を対象にしているのかも重要な要素です。ちなみに、知り合いの小学校3年生に見てもらって気付いた点は、
ちなみに、「などなど」などの、便利な言葉も御法度です。
「すぐに」には、場所をさすのか、時間をさすのか、接続詞や副詞の使い方も気を使います。
最後まで悩んだのは、分かち書きです。友人から、「~ね」と、「ね」を入れてみて違和感なければ、分かちした方がよいとのアドバイスをもらいました。
最後まで苦戦したのは、イラストのファイルが、編集ツールにアップロードできなかったこと。ブラウザのせいなのか、ファイルが大きすぎるのか、夜中に送信してみたり試行錯誤を繰り返すも失敗し、一時は作成を断念しようかと思うまで追い詰められました。
地獄で仏にあったのは、有山さんの息子さんでした。原因は、画像サイズが8Kと大きすぎて、編集ツールが対応していなかったのです。4Kにしてやっとアップロードできました。
ちなみに、画像サイズとは、画像の大きさで「横幅のピクセル数×縦幅のピクセル数」で表します。ピクセルとは、画像を構成する最小単位で、画像の色合いや明るさなどのデータを持っています。ファイルサイズとは、データファイルの容量のことで「B(バイト)」として表します。画像の情報量でファイルサイズが決まり、同じ画像でも保存方法によってファイルサイズが異なります。ファイルサイズをいくら小さくしてもアップロードできなかったのは、画像サイズが大きかったからでした。また、画素の密度を示す解像度(dpiまたはppi)は、1インチの中にピクセルが何個あるかを表しています。これは“プリンタ・モニタ・スキャナ”など「出力機器で使われる出力解像度を表す単位」となります。解像度が高いほど鮮明な画像になり、解像度が低くなれば粗い画像になります。「ppi」「pixel」は制作画面上の単位、「dpi」は出力用の単位と、改めて学びました。これでも私は元SEなのです(苦笑)。
フリーのイラストをダウンロードせずに画像コピーで使ったため、透かしが入るという泣くに泣けない失敗談もありました。知っている人には当たり前のことでも、わからない人に、はわからないことがわからないのです。
最終回は、受講者全員の作品のお披露目会が公開で行われました。滋賀文教短期大学の学生も受講していて、彼女たちの作品は若いエネルギーに満ちていました。なかでも、携帯アプリで描いたイラスト作品には驚きました。あの小さな画面で拡大しながら描くとは、まさに神業です。先日は電車の中で、英語の小説をGoogleレンズで翻訳して読んでいる学生を見ました。世の中は凄いスピードで進歩している一方で、取り残されていく人々がいます。
この講座は、実際にLLブックを作成することで、広くバリアフリー図書について知ってもらうとともに、障害児者サービスの拡充や、読書の提供を目指していました。実際に体験し、平易な文章は、単にルビを振ればよいわけではないと実感しました。大切なのは、相手を思いやり、如何に届けるかハートの問題です。
LLブックのリンゴの棚は児童書コーナーにあることが多いと聞いています。障がいのある方や高齢者・外国人などに、暮らしに直結する大事な情報が必要な人に届く工夫が必要です。棚の場所は児童コーナーでよいのかも気になります。自治体の各部署と連携を図り、暮らしに必要な情報のパスファインダーや栞などを置くのもありとも思いました。図書館は最後の砦なのだから。
ちなみに、私たちの作品は、以下のサイトで3月5日より公開されています。
https://heartfulbook.jp/Product/32/