公共図書館で課題解決型のサービス提供が叫ばれてずいぶんと経ちます。中小企業などの情報収集を支援することにより、地域の活性化、産業の発展に貢献することを目的としたサービスですが、高度な情報が求められます。
ビジネス支援図書館推進協議会主催の情報ナビゲーター交流会は、全国の公共図書館や専門図書館等の情報サービスを扱う機関の職員が集い、より広域な人と資料のネットワークを構築する目的で、4年前に第1回交流会が開催されました。今回140名ほどの参加があった情報ナビゲーター交流会の内容をお伝えします。
経済産業省経済産業政策局担当審議官の松永氏から、地域経済を担う中小企業・小規模事業者の現状の説明がまずありました。中小企業基本法では従業員の数と資本金で企業規模を定義しています。東京での大企業:中企業:小企業の従業員割合は、(6:3:1)とダントツに大企業が多いのですが、地方の大企業は1割もなく大半は中小企業です。中小企業といっても、製造業からサービス業まで多種多様で、経営を巡る課題は資金繰り、納税、販路の拡大、人材確保などさまざまです。この中小企業にどうやって情報を届け継続的に支援するかが政策局の役目だそうです。
中小企業は、毎年10万社減っているそうです。その原因として考えられるのは、経済・社会構造の変化です。高度成長で頑張ってきた社長の年齢が60才以上という会社が約5割。事業を継承するためには目新しい人材や技術が必要になってきます。もし支援の手があれば救うことができます。とはいえ役所の担当従事者は200人、対象の中小企業は385万社もあります。そのため、商工会議所と図書館が連携する必要性を説かれました。
ものづくり中小企業43万社。大企業と同じように研究開発をおこない収益に見合う成長余力のある企業は数万社、その中でも独自の技術で地域経済をけん引する企業は数千社と1割弱です。マーケットが世界と言うグローバルで通用する技術を持つ中小企業も日本にはあるのですね。仕事を地方に作り、中小企業が稼ぐ力を持つために、地方の人は当たり前と思っているものに価値を見出し支援することが、図書館で可能ではとのことでした。
例えば、エコツーリズムや農業体験などの都会と地方とのコラボなども地方資源の活用例です。
80年代は言われたままに仕事をしていた時代、今は自分で生きる力・イノベーションが大事。イノベーション企業の取り組みとしてある食品メーカーの話がありました。高齢で噛めなくなった老人の食事は流動食が主体です。でも、老人も目で見て触感も楽しみたいのです。そこで補助金を活用し、味わい彩も楽しめる食事の提供を実現したとのことです。あきらめの境地に光を当てた事例として紹介されました。
小規模事業者への補助金は、商工会議所の支援を受けて1枚の経営計画書を提出するのが条件で、50万円からチャレンジできるものもあります。この補助金対象者に支援をおこなったところ、6割が経営計画書を初めて作成、更には、書くことで、自社の強み弱みに気づいたとのことでした。
人も予算もつかない図書館ですが、こんな事業の支援も、肩ひじ張らずに、できそうなことからやっていけばいいのかなと感じた講演でした。
出演者:山本 尚史(拓殖大学教授、『エコノミック・ガーデニング』の著者)
領家 誠(大阪府中小企業支援室経営支援課長)
竹内 利明(ビジネス支援図書館推進協議会会長、電気通信大学特任教授)
皆さんは、エコノミック・ガーデニングってご存知ですか?私も最初、「図書館で園芸でもするの?」と、思ってました。エコノミック・ガーデニング(以後、EG)は、1980年代後半にアメリカのコロラド州リトルトン市で初めて実施された地域経済活性化施策です。軍需工場だった跡地を企業誘致に頼らず地元産業を延ばすべく、戦略的判断支援ツールとしてデータベースを市が購入し、情報を企業に届けて企業と支援機関との連携をはかりました。試行錯誤を繰り返しながら15年間で雇用2倍、税収3倍を実現したことで注目を浴び、現在では全米の多くの都市に広がりを見せています。
これまでの地域の活性化と言えば企業誘致が主でした。でもその企業が撤退すると町には何も残りません。この手法は企業誘致だけに頼るのではなく、地域の中小企業が成長することによる地域経済活性化を目指しています。そのために行政や商工会議所、 銀行などが連携しながら地元の中小企業が活動しやすく成長できるようなビジネス環境をつくるための施策を展開していきます。このEGに図書館がどんな支援ができるのかが話し合われました。
日本でも既に、鳴門市や大阪府で実績があります。EGは、これから育つ若い企業や高い成長率が見込める企業の、意識の強い経営者が対象です。それも金融支援にとどまらず5~6年の長いスパンにわたり事情に合わせた取り組みが行われます。ある意味EGは「えこひいき」をするのです。この批判には、「不公平をいっぱい作ったら公平になる。だから、延びる企業を重点的に支援する」と話していました。
EGは、今までの役所にはなかった「発掘」して「育成」する発想です。具体的なターゲット企業に繋げ、個別の企業の売り上げを増やしていきます。そのために、仕組みをつくり運営する人、経営変革に貢献する人、専門的な分野につなぐ人、と、新しいキーパーソンネットワークを作っていきます。話を聴きながら、紫波町の「オガール」が脳裏をかすめました。
図書館がEGに参画する理由は、図書館の敷居の低さです。図書館は商工会議所などに比べると、誰でも入りやすいのです。その特性を生かし、企業の経営者に足を運んでもらう仕組みを考えます。詳細はエコノミック・ガーデニング鳴門(注2)やEG大阪(注3)を参照ください。
豊中市の図書館の方が、「実際に活動に参加してみて、図書館は情報を探すプロ。EGに参加することで他の活動が見渡せるようになった」と、話していました。
一方、図書館に対する期待も述べられました。一番はやはり開館時間の延長です。そして、図書館職員が地域へ出ていくこと。更に、より高度な情報検索能力の向上を要求されました。せめてRESAS(地域経済分析システム)(注4)を使えるようにしましょうと言われたけど、私も初めて聴くシステムでした。
出演者:扇谷 勉(NHKエンタープライズ エグゼクティブプロデューサー)
松岡 資明(元日本経済新聞編集委員)
常世田 良(ビジネス支援図書館推進協議会理事長、立命館大学教授)
常世田氏からお二人に、ビジネス支援という「大人のための図書館」や「地域づくりの図書館」をどう思うかと、問いかけから始まりました。
マスコミの役割は問題提起。即効性や今あることを伝えることはできますが、それを深く掘り下げたり地域に特化した情報は図書館の方が強い。そのために図書館はまんべんなく資料の収集をしてほしいとのことでした。今回の鼎談は、話された内容よりも、まずは、図書館関係の交流会に、メディア大手が参加くださったことに意義を感じました。これも連携の第一歩です。
持ち時間9分というタイトな時間で以下のプレゼンがありました。コメントも短くてすみません。
M館長のいた町の図書館は、とてもユニークな図書館で知られていました。まず、児童書と一般書が混配されています。「カブトムシ」に関する本は、児童書も一般書も同じ棚にあるのです。小さな町には小さな町のルールがあります。マンガもあればジグゾーパズルや玩具も貸します。少ない人数で回しているため、訪問した時に館長がカウンターにいる時は、しばらく待つことになります。そんな時、館長から、「はい、これっ!」と言って手渡されるのがジグゾーパズルです。カウンターの隅で悪戦苦闘するのが常でした。
一見捉えどころのない軟派に見える館長ですが、実はしっかりした理念を持たれていました。板倉聖宣氏の認識論に基づいた仮説実験授業の考え方を取り入れ、村野藤吾氏の建築家1%論の影響もあるそうです。「図書館・図書館員にできることは1%、あとの99%は社会の側にある。『利用者が楽しくない×図書館員が楽しい』 は、99%が図書館の側にあり、『利用者が楽しい×図書館員が楽しい』は、99%が利用者の側にある」。要約すると、本の世界を知らない人を中心に考えるということでしょうか。
M館長の話はいつも難解で、平成の市町村合併前の地方には、こんな名物館長が他にもいて、みんな私の「図書館の先生」でした。