図書館問題研究会第66回全国大会:会計年度任用職員制度
図書館つれづれ [第64回]
2019年9月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

図書館問題研究会第66回全国大会が2019年6月末に千葉県成田市で開催されました。地方公務員法と地方自治法が2017年に改定され、2020年4月から自治体の非正規公務員に「会計年度任用職員制度」が導入されることになります。図書館で働く非正規公務員の方々の働き方にどんな影響があるのかを知りたくて、会計年度任用職員制度の分科会に参加してきました。

分科会での報告や関係資料に目を通しても、正直よくわからないのです。今回は、なんとも頼りない報告であることを先にお詫びしておきます。

なお、本コラムは、分科会の内容および私の個人的見解に基づいて書いています。ご了承ください。

まずは、図書館つれづれ第39回のおさらいから。

今回の分科会の講師でもある公益財団法人地方自治総合研究所(注1)の上林陽治著「非正規公務員」によれば、自治体公務員の常勤(正規)/非常勤(非正規)の区分には、定数、勤務時間、業務内容、任期の4つの要素があります。業務内容が恒常的・本格的で、任期はなく、フルタイムで働き、定員区分が定数内の職員が、常勤職員となります。退職後の再任用職員は、任期付きの定数内常勤職員です。本来的な非常勤職員とは、短時間勤務で、補助的・臨時的な業務につき、任期の定めのある職員のことをいいます。ところが、社会の変化が著しく、高齢化に伴う福祉事業など利用者の要求は益々高まり、自治体職員の定数内では仕事が収まらなくなってきました。実際には、本来的非常勤職員、常勤職員のほかに、業務内容も勤務時間もさして変わらない常勤的非常勤職員という3層構造になっているのが現状です。

図書館で働く職員の約7割が非正規採用で、民間企業の非正規社員より自治体非正規公務員のほうが、待遇格差があるともいわれます。自治体非正規公務員の給料は正規の3分の1から半分程度、任用期間は半年や1年の期限付きで繰り返し任用され何十年働いても昇給はなし、通勤手当など各種手当も不十分で、年休や各種休暇でも正規公務員と差をつけられているのが現状です。

会計年度任用職員制度とは

地方公務員法、地方自治法「改定」のポイントは、同じ非正規職員でも、「臨時職員」、「特別職非常勤職員」、「一般職非常勤職員」とまちまちだったものを、「会計年度任用職員」というのに統一しようというものです。これを、上林氏の職種と照らし合わせて、新制度の対象を確認してみます。

特別職非常勤(地方公務員法3条3項3号)

学校医や行政委員会の委員のように特別な専門職が該当します。会計年度任用職員導入後は、「学識・経験のある人」に厳格化されるので、司書を特別職として採用することはできないようです。

臨時的任用職員(地方公務員法22条の3)

「常勤の欠員が生じた場合」に厳格化され、それ以外は、会計年度任用職員待遇となります。あくまでも、常勤の正規職員の代替ですから、産休補助などがわかりやすい対象です。

会計年度任用職員(新・地方公務員法22条2)

ほとんどの非正規公務員がこの会計年度任用職員に移行します。図書館で働くフルタイム臨時職員もパートで働く非常勤職員も、会計年度任用職員の対象になります。
なお、会計年度任用職員は、フルタイム型とパートタイム型の2つに分けます。

フルタイム型

給料と全ての手当(期末手当も含む)、並びに退職手当を支給できるよう明記。
制度では支給することができるけど、報告では、支給されない自治体もあるようです。

パートタイム型

報酬(給料ではない)と通勤費などの費用弁償に加え、期末手当を支払えるとしています。

まず、任期はすべて会計年度以内の1年以内で、総務省のマニュアルでは、更新は可能ですが勤務評定が必要でその基準は明らかになっていません。更新を公募するのかしないのか、雇用制限についても最終的には自治体の判断となります。また1日当たりの勤務時間が常勤職員より1分でも短い場合は、パートタイム会計年度職員になります。働きたくても勤務時間をほんの少し減らされている非常勤常勤公務員は、「パートタイム会計年度任用職員」として扱われます。

フルタイムとパートタイムには格差があります。フルタイムには退職手当を支給することができますがパートタイムには支給されません。でも、現在パート勤務の方で通勤費が支給されていないケースは、費用弁償として支給されることになります。

また、期末手当はフルタイムでもパートタイムでも支払うことはできますが、強制ではなく、各自治体の条例で定めることとなります。

有給休暇は?あっても1年ごとの更新でリセットされるの?時間外手当は?と、疑問点を挙げていったらきりがありません。大枠は決まっているけど、これらも、各自治体の条例で定めることになるため実態が見えないのです。条例は2020年4月までに定めることになっていますが、定まっていない自治体が多いと聞きました。

一方で、会計年度任用職員は、一般職地方公務員とみなされ、地方公務員と同じく守秘義務や職務専念義務などが課せられ、フルタイム会計年度任用職員には兼業禁止が適用されます。労働者の、団結権、団体交渉権、労働行動権(争議権)を持たせない目的があるとの話も聞きました。労働条件の格差はあって、義務や処罰は同等に課せられ、この制度が採用されると、練馬区立図書館司書がストライキを構えて交渉したようなことはできなくなります。

給料水準の考え方は自治体によって条例も違うようですが、「正規職員の大卒初任給基準額を上限目安」という事例が分科会で報告されました。図書館で働く非常勤職員の司書は大学卒、中には大学院を出られた方もいます。そんな方々の給与が、ある自治体では高卒初任給を上限目安と定めている自治体もあります。これも自治体によってまちまちだそうです。

会計年度任用職員制度、期末手当の財源について

もう一つは期末手当支給など処遇改善関係です。フルタイム会計年度職員には期末手当を支給とありますが、では一体財源は何処にあるのか?

結局は、各人の月額報酬を減額し、その分を期末手当に充てるのであれば、実質減給ではとの話もでました。

財源を地方交付税にあてる件については、総務省報道資料「平成31年度の地方財政の見通し・予算編成上の留意事項等(平成31年1月25日)(注2)」で、わずかに14頁で「制度導入に伴うシステム改修に要する経費に対して、地方交付税措置を講ずる」と触れているだけです。

上林氏から、今後、消費税を財源交渉等の根拠に使うならと、交渉のアドバイスがありました。2019年10月に消費税2%が引き上げ予定です。このうち、地方には地方消費税分(0.5%分)と交付税引き上げ分(0.444%)で、約1%分が増収されることになるのだそうです。この地方に配分される、消費税約1%分は、一般財源となり、その使い道は各自治体の裁量になるとのこと。声が大きいところが獲得するというわけです。消費税の1%分は約2兆円にあたり、そのうち、4000億円は幼保無償化財源として費消されることが決定していて、他に公共事業費等として自治体内で取り合いとなると推測できるそうです。ところが、2020年以降の地方交付税の単位費用として、会計年度任用職員の期末手当分が算定され、その分の地方交付税は、必ず国から自治体に配分されるのだそうです。つまり、それ以外の処遇については、使い道の決まっていない一般財源はできるが、会計年度任用職員の処遇改善は他の財政需要が余った分として後回しにされていくことになります。

そこで、現段階では、次の2点を確認することが必要とのことでした。

  • 地方消費税+地方交付税で、いくらの歳入増? 期末手当分でいくらの歳出増?
  • 歳入増に比して、期末手当増額分は何%ぐらいを占めるのか。

上林氏から、この数値をもとに、交渉をするようアドバイスをいただきました。このコラムが公開される頃には条例は決まっているかもしれませんが、具体的な規則はまだ間に合うかもしれません。

そして、ここにも落とし穴があって、自治体の中には地方交付税が不交付となる自治体も一部あるようで、財源の行方はどうなるのか気になります。

ほかにも、例えば、正規職員が分館に1名いたのを引き上げて、数館で1名正規職員が管理し、代わりに非常勤公務員を増やすのでは、などと憶測が飛び交います。

給与の話など今までしたことがなかったのですが、東京23区の中でも給与に大きな格差があることを初めて知りました。

なお、今回の制度で、東京23区での任期が6か月以上の人への期末手当については、23区統一基準を決定しています。ただし、週15時間30分未満かつ週2日以下は対象外です。

会計年度任用職員制度とジェンダー

非正規公務員だけでなく、民間も含めた非正規職員の問題はジェンダーの問題ともいいます。女性が多い職場は、保育士・介護士・司書などケアに関わる職種が多く、「ケア労働(人の世話をする労働)」には女性のジェンダーバイアスがかかっているとの指摘があります。女性は育児や介護を一手に引き受け、フルタイムで働きづらい時期があり、働いても夫の扶養家族範囲で仕事をする女性たちが多いのです。女性の就労人口は増えているにも関わらず、非正規のワーキングプアを生み出している構図の一つになっていると感じます。

私の友人は以前、学校司書として働いていました。学校司書だけでは自活できないと愚痴ると、「だったら、結婚して働けばいいのよ」との言葉が、同僚から返ってきたそうです。色々な生き方があるのも認めたうえで、女性が自立できる道も認めてほしいと切に願っています。

これまた初めて知ったのですが、そもそも正規公務員の任用の根拠は地方公務員法17条で、臨時的任用職員や会計年度任用職員とは任用根拠となる条文が違うのですね。

会計年度職員制度の待遇面など不確かなことが多い中、2020年4月からは施行が決まっています。是非、非正規公務員として働いている方は、他人事として捉えずに、所属する自治体での動向に注目し今の待遇との違いを確認してみてください。

政治・行政のことなど頓着なかった私のなんとも不甲斐ないレポートですが、今後は非正規雇用の待遇改善を見守るとともに、自治体の「自治」とは何か考えてみようと思います。

最後に、「司書の専門性が今薄れている」と、警鐘を鳴らしてくださる方がいました。

特に、まちづくりやサードプレイスに取り組んでいる図書館では、司書というよりもファシリテーション力やコミュニケーション能力、情報検索能力が必要とされています。そんな人材なら司書でなくても巷にたくさんいます。司書しかできない仕事はなにか、業務をもっと広く自治体に周知し認めてもらわなければ、いずれはなくなる資格ではと危惧されます。そして、それこそが待遇改善にもつながり、図書館で働く人たちの今後の課題と感じました。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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