『大森町を元気にするプロジェクト』
図書館つれづれ [第113回]
2023年10月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

指定管理者が業務を担っている東京都大田区大森西図書館(注1)の館長をしている宮谷友美さんは、最初の出会いをどうしても思い出せない友人の一人。その宮谷さんから「地域の皆さんと連携して写真展を開催しています。見に来てください」と、お誘いがありました。地域の皆さんの総力を結集した『大森町を元気にするプロジェクト』第1弾 写真展に、一緒に行った友人ともども予想以上の感銘を受けました。今回は、小さな図書館の、地域との大きな連携の報告です。

プロジェクトのきっかけ

『大森町を元気にするプロジェクト』は、2022年8月に大森西図書館(以下、図書館)に社会福祉コーディネーターの梶原啓子氏が訪ねてきて、「何か連携できることはありませんか」と声をかけてくださったのが始まりでした。館長で着任して早々の宮谷さんにとって、地域と連携できるのは願ったり叶ったりの話。さっそく三輪町会長と鶴渡町会長、三輪神社の広報担当を紹介してもらったのを皮切りに、邦西町会・大森三丁目連合町会長とも繋がり、大森西特別出張所長・大森西児童館長・地域デビュー塾長・「あい・らぶ・大森町」代表も加わり、『大森町を元気にするプロジェクト』が結成されました。コロナ禍でも地域を元気にできること、新しく越してきた方や次の世代に大森町の良さを伝えたい。そんな想いが結集して、地域連携の第1弾として、写真展の開催にこぎつけました。

この写真展の特徴の一つは、開催協力をいただいた方々がパネルで紹介され、顔が見えること。さらに、写真提供いただいた学校や諸団体(大森学園高等学校(注2)〈以下、大森学園〉・東邦大学額田記念東邦大学資料室〈以下、東邦医大〉・メリーチョコレートカムパニー・大森町共栄会・大森第三小学校・吉野屋酒店・いき出版・大田区立郷土博物館、順不同)への謝辞も添えられていました。これだけでも、協力者の想いをくみ取ることができ、見学者は安心して見ることができます。

プロジェクト第1弾 写真展

写真展は、会場を5つのゾーンに分け、一巡するように展示されていました。各ゾーンには、協力いただいた皆さんのプロフィールや活動内容が写真付きパネルで紹介されていて、地域への活動理解にも一役買っていました。

1.『昔の大森町を知る』

大森西は空襲被害にもあった地区です。その頃の東邦医大や大森学園に大森町駅などの戦前・戦後の軌跡を見ることができました。昭和30年ごろの東邦医大通りを闊歩する少年は、プロジェクトに参加している地域デビュー塾の佐藤渉氏の小さい頃の写真。セピア色の写真に時代を感じました。

東邦医大のある通りは、戦前は「オニタビ通り」と呼ばれていたのだそうです。「タビ」は「足袋」のこと。足袋というと私は福助足袋を思い浮かべますが、かつて「西の福助、東のオニタビ」と称された鬼足袋はここ大田区で作られていたそうです。その看板をお借りしての展示コーナーでは、見学に来た方が、「うちに足袋があったから」と持参し、実物の鬼足袋も一緒に展示されていました。そういう人との繋がりが、この展示の隠れた醍醐味なのだと感じました。

80年の歴史を持つ大森学園にも変遷がありました。かつては中小機械工場が多かったこの地区に、大森機械工業徒弟学校を創立したのが大森学園の始まりでした。その後、時代のニーズに合わせた学校運営の変遷をたどることができました。

一番驚いたのは、昭和4年発効の看護師の合格証書。なんと警視総監が発行していたのです。看護師の歴史一つとっても、時代背景に理由があり、奥深いものを感じました。

2.『商店街を知る』

弁護士で「あい・らぶ・大森町」プロジェクト代表の神田英明氏は、お父様が残した「大森町界隈あれこれ(注3)」と題したブログを継承しています。その豊富な写真をもとに、皆さんにも声をかけ、賑やかだった頃の商店街部門の写真の収集を担当しました。「それぞれの家の押入れに眠っている写真が5枚ずつ100軒から提出されたら500枚になります。昔の写真は町を元気にさせるエネルギーを持っています。今集めなければ捨てられてしまいます。だから集めておきたいのです」と語られました。なお、大森町共栄会が提供する写真は、承諾がとれた人は顔を見せていますが、それ以外は、図書館が必要に応じて編集加工を担当し、ぼかしを入れています。

ちょうど50年前の昭和48年の大森町商店街を再現したMAPは、テプラにブッカーやトレシングペーパーなど司書が普段使う道具を駆使した力作でした。

3.『町内会を知る』

町内会は、その地区の住民等を会員として、住民相互の連絡や親睦、環境の整備、集会施設の維持管理等、地域社会の良好な協力推進等を行う目的で設立された任意の団体です。戦前の町内会は、戦後一旦解散を命じられましたが、その後、神社を中心に地区のお祭りなどの行事を遂行するため復活したケースが多いそうです。但し、任意加入なので、最近はマンションの住民などは町内会には加入しないことが多く、少子化もあり、衰退の傾向があるとのことでした。今回の写真展には三輪神社氏子会と4つの町内会の協力をいただき、かつてのお祭りの写真などが展示されていました。

4.『懐かし昭和グッズコーナー』

懐かしい雑誌やメンコや竹とんぼなどの遊び道具を紹介していました。今の子供たちはメンコを知っているのかしら?

5.『現在の大森西の地図』

地元の皆さんと協力した大森西の思い出MAPの作成コーナー。

皆さんの記憶をもとに付箋を貼っていくのですが、四角い付箋を半透明の小さな丸い付箋に変えるだけでも雰囲気が違うことを発見。そばには筆記用具のほかに、比較ができる現代の地図と和暦と西暦の年号変換表が用意されていました。

プロジェクトへの想い

大森はかつて海苔で栄えた町。1964年の東京オリンピックをきっかけに町の様子が様変わりした話や、学校の変遷など、何を聴いても興味深いお話でした。会場に来た方にはこの企画を連携する方々が仕事の合間に顔を出して、丁寧にガイドをしています。私たちには、大森三輪町会長の大杉正美氏と三輪神社広報担当の渡辺亮氏が率先して説明してくださるものだから、静かな展示には程遠い、心地よい華やかなカオスの空間でした。見に来られた方から、「もしかすると父かもしれない。ぼかしていない写真を見せてほしい」と頼まれ、確認したら父親だったり、「記憶にしかなかった父の店の写真に出会えた」と涙ぐまれた方に翌日複製を贈って喜ばれたり、オニタビのように展示を通して繋がっていく話もあるそうです。そんなコミュニケーションのキャッチボールが、この企画の狙いだったのかもしれません。

図書館との連携への想いを、渡辺氏が語ってくれました。かつては活動が盛んだった町内会も、人口の減少やコロナもあり、今は衰退の危機感を持っているとのこと。それは商店街もしかりです。賑わいを取り戻すには、子育て世代の地域教育に力を入れたいと、図書館との連携に協力したのだそうです。過去の資料や写真などの材料は地域の住民が持っています。その材料の提供を受け、図書館がうまく料理して今回の写真展にこぎつけました。渡辺氏から「館長をはじめ案内に立つ職員のガイドもなかなかです。この町のことを知ろうと、館長が職員を巻き込んでくれている」と、図書館への評価も聞けました。餅は餅屋のすばらしい連携プレイを、大田区の鈴木区長も見学に来られました。

見学を終えて

同行した友人の町内会では、100周年記念誌作成の写真集めで難航したとのこと。友人は、今回の写真展が実現した経緯を、興味深く聴いていました。

第2弾、第3弾もすでにテーマが決まっています。地域の皆さんの大森町を愛する想いと、「図書館は図書館のできることを考える」連携ぶりを頼もしく感じました。今後の地域活動を活発にするヒントになれば幸いです。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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