2025年5月、東京の新宿紀伊国屋書店にて株式会社ボイジャー主催『アクセシブルブック はじめのいっぽ ~見る本、聞く本、触る本~』読書会に参加してきました。私は本を読まない人で、ましてや事前に本を読んでいく読書会など参加したことはありません。著者の一人である萬谷ひとみさんから、「本は読んでこなくてもいいし、持ってこなくてもいいのです」と言われ、疑心暗鬼で参加しました。
「手ぶらで参加OK」と言われましたが、早い話、1冊の本を参加者で分担し、各自が割り当てられた部分の内容を要約して、それらをまとめて発表すれば1冊読んだことになる! というわけです。この会は出版社主催で著者も参加ということで問題はありませんが、「本を丸ごとコピーして使用するのは著作権侵害になるのでは」と気になり質問してみたところ、そこは許諾を得た上でデータをいただくか、1冊の本を裁断して使用することで解決しているそうです。今回は、未来型読書法といわれる「アクティブ・ブック・ダイアローグ®(以下、ABD)」の体験報告です。
『アクセシブルブック はじめのいっぽ ~見る本、聞く本、触る本~』読書会
https://www.kokuchpro.com/event/abd20250412/
アクティブ・ブック・ダイアローグ®(ABD)公式サイト
https://www.abd-abd.com/
開発者の竹ノ内壮太郎氏は製造業の経営者。組織内での人材開発の手法としてファシリテーションを活用する過程で、読書とダイアログ(対話)を組み合わせたワークショップ「アクティブ・ブック・ダイアローグ®(ABD)」を2014年に開発しました。1冊の本を「分担して読んでまとめる」「発表・共有化する」「気づきを深める対話をする」というプロセスを通して、著者の伝えようとすることを深く理解し、能動的な気づきや学びが得られます。大きくは、人類の英知の結晶である本を受け取り、みんなで生かしたいという想いがあります。読書が苦手な人も、本が大好きな人も、短時間で読みたい本を読むことができる全く新しい読書手法です。魅力は以下の8つ。
無料のマニュアルも公開されています。日本全国で広がっている中、ファシリテーターのレベルアップや個別の要望に沿うべく、認定講座も実施しています。2025年4月現在、205名の方が認定ファシリテーターとして公開されています。
当日は山本一輝氏がファシリテーターを務め、まず、ABDの3つのグランドルールが示されました。
ABDは、ジグソー法、KP法、ワールドカフェ、ダイアローグ(対話)の手法が組み合わさってできていて、以下の流れで行われました。
集まった参加者で小グループに分かれ、全員で自己紹介し今の気持ちを共有しました。今回は、出版社や障がい者サービス担当の図書館関係者が多かったです。多くは私のような初心者。みんなドキドキものでした。
ABDの紹介と、その日の全体の流れを説明しました。課題図書やメンバーにもよりますが、通常2時間から3時間ほどで終了します。文具用品として、色付きペンや付箋などが用意されていました。各自には、B5サイズの紙が3枚支給され、そのうちの2枚は提出用で1枚はメモに使いました。
主催者から参加者に担当パート人数(当日は18人)で分割した本のページが渡されました。各自渡されたパートを読み、B5用紙2枚に要約文を作ります。与えられた時間は10分! 10分で読んで要約するのです! 当日は体調不良で咳き込んでいたものの、集中と緊張からか10分間は出ませんでした。
サマライズ(要約)のポイントは、ディスカバ-(発見)モードというのも特徴。著者の言葉をそのまま抜き書きします。自分の解釈は別にメモし対話で伝えるから、抜き書きは著者の意図から離れません。絵や図は自分の解釈が入りやすいので注意が必要です。担当分を読み切れなくてもOK。完璧を目指さないという言葉に救われました。まずは、担当ページを流し読みし、「何を書くか」より「いかにそぎ落とすか」という自分の視点がキーワードだと感じました。
B5用紙2枚にまとめた要約文を各自が本の流れで貼り出します。最初のページから一人ずつ、著者になったつもりで各60秒で発表し、次の人にバトンしていきます。短時間でいかにまとめて話せるかが問われます。全部終了すると、なんだか1冊読んだ気分になるというわけです。
その後二人一組になって、貼り出されたシートを見ながら、共感した言葉や気になる箇所にペンを入れていきます。これを「ペアギャラリー」といいます。人と話しながら眺めることで、疑問や感想が深まっていきます。自分が気になったことは、別途付箋にメモしておきます。
次に、対話(ダイアローグ)では、少人数のグループ(4~5人)に分かれ、自分がメモした付箋を貼りながら、感じたことや疑問に思ったことなどを伝え合いました。正解を追求するのではなく、解釈のずれも確認し合います。山本氏は早くに認定ファシリテーターを取得しただけにABDへの想いも強く、「ABDは一人で水をすくうのではなく、水を交換する場」と、オリジナリティあふれる表現をしました。まさに、対話の中でさらに解釈が深まっていくのを感じました。
今回は、一人残してグループの入れ替え時間もありました。残った一人は、そのグループの伝達者です。前のグループでどんな話が出てきたかをみんなに伝え、新たな対話へつなぎます。グループごとの話題の違いも確認できました。
A4用紙の表に自分の学びや気づきを、裏にはABDの感想を書き、みんなで共有し会を終了しました。グループの中に、高次機能障害になった方がいました。読書が大好きだったのに、今は本を読めません。読んでいても、文字が目の前を流れていくのだそうです。耳で聞くのも同じだそうですが、著者の朗読は不思議に入ってくるそうです。人間の身体はまだまだ不思議がたくさん。人は誰しも自分のことは健康だと思い込んでいても、いつどんなことに巻き込まれるかわかりません。彼女と出会えたことは、自分事として捉える良い機会となりました。
3時間はあっという間でした。「時間が足りない」という感想に、「対話のコツは腹八分目」。ちょっとの物足りなさが、このイベントのリピ-ターの多さにつながっているのだと感じました。「アクセシブルブックはまさに自分事」などの本の感想はもちろん出ましたが、ABDについての皆さんの感想を伝えておきます。
山本氏のファシリテーションには山本氏独自のABDへの以下の可能性が込められています。
実際に受講してみて、久々の緊張感はあったものの、参加を楽しむことができました。自分自身の読解力、サマリー力、プレゼンテーション力などの能力開発にも使えそうです。
ABDはハウツー本や啓発本には向きそうだけど、小説は無理かなあと思ったら、小説もファシリテーション次第でいけるとのこと。まさに、ファシリテーターの力量次第ということでした。
ABDの活用シーンは、以下のようなケースが考えられます。
ファシリテーターの派遣を依頼するにはそれなりの謝礼が必要なので、図書館でいきなりやるのはハードルが高いかもしれません。まずは、マニュアルをダウンロードして、気の合う仲間と体験してみてはいかがでしょう。