DX(Digital Transformation)という言葉が巷にあふれています。単にアナログの業務をデジタル化するだけではなく、蓄積されたデータや、効率化により創出した時間などを活用して競争優位性を確保するのがDXの本質だそうです。以前コラムにも書きましたが、図書館は1970年代には既にシステム化されていました。今では、ICタグによる読み込み時間の短縮に無断持ち出し防止、メールによる予約本の確保や督促案内、スマホによる貸出処理などと、進化を続けています。でも、これは今までの延長の考え方で、単純な省人化、自動化、効率化、最適化はDXではないのだそうな。
Webコラム第132回で紹介した岡山県真庭市立湯原図書館地域資料のコーナーに設けられていた、図書館のウィキペディアタウンで立項した記事へのリンクQRコードは、単なるデジタル化を超えた新たな試みといえます。気になっていた雑誌LRG(ライブラリー・リソース・ガイド)第49号の特集「デジタル資源による図書館DX」によれば、図書館DXとは、図書館の利用体験や図書館を介して広がる情報・知識の取得体験が根本から変わること。アナログとデジタルが融合する例として「デジタル資源カード」の特集が組まれました。
今回は2025年5月に開催された「デジタル資源カードを作ってみよう(オンラインワークショップ)」(主催:ブレインテック)の作成体験の報告です。
デジタル資源カードは、図書館などで利用者をデジタル資料やWeb情報(デジタル資源)にナビゲートする紙のカードです。このカードには、デジタル資源のタイトルや概要説明、画面イメージ、QRコードなどを記載します。紙の本と並べて書架や展示コーナーに設置することで、実空間である図書館とデジタル情報を行き来する入口となります。ワークショップでは、デジタル資源カードの企画・実践・普及を行っているデザイナーの間嶋沙知氏から、まずデジタル資源カードについてのレクチャーを受けました。
図書館は紙の資料が中心ですが、利用者が図書館でデジタル情報を見られるメリットとしては以下が考えられます。
この課題に、大阪府泉大津市とアカデミック・リソース・ガイド(arg)が連携協定を結び、「図書館における紙媒体資料とデジタル資料を融合した情報提供のしくみ」の実証実験をとおして実現したのが、デジタル資源カードです。泉大津市立図書館が場所を提供し、argが図書館とは違う視点から情報提供し、間嶋氏がそのデザインを担当しました。
これが、デジタル資源情報カードのテンプレートの一つです。デジタルデータベースのタイトルやリンク先の画面イメージなどに加え、QRコードが表示されています。そのQRコードをかざすと、リンク先が表示されます。図書館内にWi-Fi環境が整っていれば、利用者は通信費の負担なしにデジタル情報にアクセスできます。カードの置き場所は、該当する本棚の隣に置くのか、まとめて置くのか、それも図書館次第です。
なお、デジタル資源カードができるまでのLRG49発行記念連続企画「デジタル資源による図書館DX」Vol.1(間嶋沙知×河瀬裕子)の動画があります。
https://youtu.be/eFKPAUfOevs
最近、『ちりめん本とジェイムス夫人~ちりめん本が結ぶ世界に伝えた日本の昔話~』をいただき、読み始めたところでした。ちりめん本とは、手すきの和紙に、まず木版印刷で挿絵を、次に活版印刷で文字を印刷し和装本として製本します。印刷した後に、ちりめん上に加工するので元の大きさの80%ぐらいの大きさになります。元の平紙よりちりめん紙のやわらかい手触りが生まれるとともに、色も鮮やかな色彩に仕上がるのだそうです。初めて知りました。
ちりめん本は長谷川武次郎が、明治18年から明治25年にかけて、日本の昔話を外国語に翻訳した『日本昔噺』シリーズ(Japanese Fairy Tale Series)20巻21冊を刊行しています。収められている昔噺には、「桃太郎」「舌切り雀」「猿蟹合戦」「花咲爺」「かちかち山」の『五大昔噺』に加えて「ねずみの嫁入り」「瘤取」「浦島」「八頭ノ大蛇」「松山鏡」「因幡の白兎」「野干(きつね)ノ手柄」「海月」「彦火火出見尊(ひこほほでみことのり)」「俵藤太」「鉢かづき」「文福茶釜」「竹箆(しつぺい)太郎」「羅生門」「大江山」「養老の滝」などがあります。それらの翻訳者には、明治6年に来日し東京大学で多くの門下を育てたチェムバレン(Basil Hall Chamberlain)や、安政6年に宣教師として来日し和英辞書の編纂も行ったヘボン式ローマ字の創始者であるヘボン(James Curtis Hepburn)など日本人によく知られた人の名があります。このシリーズは好評で版を重ね、長谷川武次郎の息子の西宮與作に引き継がれ、昭和15年頃まで発行されていたそうです。その翻訳には、次回の朝ドラにも登場するラフカディオ・ハーンや、ジェイムス夫人もいるのです。シリーズは英語以外にドイツ語・フランス語・スペイン語・オランダ語・ポルトガル語などの言語に翻訳されています。本の中でも紹介されていますが、デジタルデータも幾つかあり、その中の国際日本文化研究センターの「ちりめん本データベース」を紹介することにしました。
https://shinku.nichibun.ac.jp/chirimen/index.php?disp=JP
テンプレートがあるので、内容を置き換えるだけで比較的簡単に作れました。とりあえず私が作成したカードです。右上の番号はNDC分類ですが、不要ならなくても構いません。
ラフカディオ・ハーンも翻訳に一役買った日本の昔話。ちりめん本とセットにしたデジタル資源カードの面出しも面白いかなと作ってみました。こんなテーマ本紹介にも使えそうです。
最後に皆で作ったデジタル資源カードについて紹介しあいました。
LRG49号から気になっていたデジタル資源カードですが、公共図書館では思っていたより浸透していないのが現状です。図書館内でのスマホ禁止や盗撮のリスクなどがネックになっているのだそうな。一定のエリアでの広報活動や、図書館に入ってすぐのテーマ本エリアなど試しエリアを作って利用者の反応を見るのもありかなあと思います。
デジタル資源カードのテンプレートは、B6サイズ、A6サイズのほかに、しおり型もあります。しおりなら、その場で利用しなくても持って帰れるし、狭いスペースでも置けるメリットがあります。しおりの減り方で効果測定ができるから、管理職や教育委員会にも説明しやすいそうです。
https://note.com/mjmjsachi/n/n6532e3dd5d0a
デジタル資源カードを作成する際に気をつけなければならないのは、著作権の問題です。著作権法で認められている「私的使用」や「引用」などの例外の範囲を超えて利用する際は、禁止もしくは許諾が必要なケースがあります。コラムの国際日本文化研究センターには使用許可をいただきました。著作権が切れた著者の隣に青空文庫のデジタルカードを置いたり、道の駅で地域アーカイブのデジタルカードを紹介したり、選書と同じように司書がデジタル情報へ導く時代が目の前に来ています。デジタル資源カードは、色やロゴを変えるなど自由に使えます。試しに作ってみてはいかがでしょう。
門倉百合子さんが自身のブログにて、NDC(日本十進分類法)を付与した「図書館DXとデジタル資源の一覧」を紹介しています。こちらも参考にしてみてください。
出典:Kadoさんのブログ 2023-05-09
https://lucyblog.hatenablog.com/entry/2023/05/09/100601
こちらは間嶋さんのデジタル資源カードスタートセット。いずれも誰でも自由に活用できます。
https://note.com/mjmjsachi/n/n9a62f5108fe9
Canvaはアカウントが必要で、自治体によっては使用できないと聞きました。そんなときは、WordやPowerPointに置き換えてみるのもありかなと思います。