鹿嶋市立図書館(茨城県)や塩尻市立図書館(長野県)の館長をされていた内野安彦さんが2024年6月10日に亡くなって早や1年が過ぎました。享年67歳。あまりにも突然の訃報でした。
『図書館からのメッセージ@Dr.ルイスの“本”のひととき』や『ラジオと地域と図書館と』などの著書を残された内野さんは、早くからコミュニティをつなぐメディアの可能性に着目し、コミュニティラジオ(エフエムかしま76.7MHz)で図書館をテーマにした番組のパーソナリティを務めていました。2018年9月の「Dr.ルイスの“本”のひととき」の第300回には私も参加させていただきました。FMラジオを使って図書館や地域に関わる情報を発信する方は他にもいます。いつか紹介したいと思っていたところ、身近な人がポッドキャスト(Podcast)による「図書館員の立ち話」という番組を公開していることを知りました。それも、2022年からやっているとのこと。Podcastが何かもわからず、まずPodcastのレクチャーから始まりました。
今回は、都内の専門図書館で働く2人のPodcast「図書館員の立ち話」の紹介です。
Podcastとは、インターネットを通じて配信されるトークや音楽番組、またはその仕組みのことです。ラジオとPodcastの主な違いは、放送方法と視聴方法にあります。ラジオは電波を利用したリアルタイム配信が主流(radikoのようなインターネットを利用したサービスもありますが)ですが、Podcastは個人や企業など様々な配信者が制作した音声コンテンツを配信するサービスです。いつでも好きな時に視聴することができる柔軟な視聴スタイルが可能です。では、YouTubeと何が違うのか。AIによれば、PodcastとYouTubeはどちらも音声コンテンツを配信できるプラットフォームですが、主な違いはPodcastは音声ファイルが中心で、YouTubeは動画配信が基本であること。また、Podcastは様々なプラットフォームで配信できるのに対し、YouTubeは動画共有プラットフォームであるという点です。リスナーの違いもあるようですが、Podcastの一番のメリットは比較的低コストで手軽に始められる点にあるようです。
都内の専門図書館に勤めるシンヤさんとオリベさんは、職場が近いこともあり、お互い昼休みなどにふらっと立ち寄っては立ち話をし、一緒に活動しています。そんな日常の立ち話を皆さんにも聞いてほしいと思い立ったのがこの企画でした。2人とも元々Podcastは好きで他の番組もよく聴きます。内野さんのラジオ番組に出たことがあるシンヤさんは、自分でやってみたいという思いがありました。コロナ禍での距離をおきながらの立ち話は、2人にとって清涼剤になっていました。オリベさんはシンヤさんの話を聴きながら、もっといろいろな人の話を聴いてみたいと、シンヤさんに企画を持ち込みました。こうして、仕事にすると頼みづらいけど、知り合いにもゲストに来てもらって気軽に話が聴きたいと、20分を目安に番組制作が始まりました。
2022年12月2日に収録をし、12月8日に初公開。ちょうど図書館総合展が終わったばかりで、総合展の話で盛り上がり、司書になりたての頃の思い出や、ラジオならではの気安さで話が続きます。オリベさんは裏方参加のつもりだったそうですが、しっかり相槌も打っていました。
2回目の積読読書会の話は、シンヤ節炸裂でした。「積読は重さで測る、読みたい本を買うのと買わないのは違う」など、収録日の前日に参加した興奮冷めやらぬこともあって、2人の温度差は歴然としていました。本人も途中で気づいて時間切れ。こんな日常が微笑ましくてリスナーは増えていきました。
番組は毎週配信されますが、収録は公共施設を借りて月に1度、1カ月分5回を一気に収録します。その日シンヤさんは、収録するためのマイク2本、コード、マイクスタンド、パソコン、オーディオインタフェースなどの機材のほかに、5回分の話題になりそうな本をキャリーケースに詰めて運びます。公共施設は細やかな配慮が行き届いていない面もあるので、ゲストをお招きするときは喫茶店を利用することもあります。安易にできるとは書きましたが、お金も時間もかかっています。
Podcast「図書館員の立ち話」の中では、途中でBGMが流れ、編集をしているのがわかります。収録後の編集作業は有料の編集ソフトを使い、以下の工程でシンヤさんが担当します。
お金も時間もかけて、そこまでするのは何故なのかと素朴な疑問がわきます。でも、釣り好きな人、ゴルフ好きな人と同じで、Podcastが好きなのです。
企画の持ち込みもシンヤさんがダントツで多く、オリベさんは5回に1回の持ち込みです。番組の中での2人のエネルギーもシンヤさんが上。収録後の作業も含めて「4:1」の割合が2人の黄金比とわかりました。でも、オリベさんの内なる強さも含めたら、2人は互角です。
2025年6月現在、Podcast「図書館員の立ち話」は既に150回を超えました。まず、この数字に脱帽です。立ち話で気軽にのレベルではないですね。それだけ話のネタがあって、ゲストも面白がって参加してくれているのだと思います。20分をめどに始まったはずが1時間近い回もあり、リスナーも大変です。150回全部を視聴する気力もなく、2人に幾つか質問させていただきました。
始めた頃、シンヤさんは飲み会の席は苦手でした(第4回配信回「飲み会が苦手」)。ところが、最近では飲み会の席が苦にならなくなりました。立ち話を通じて雑談の面白さに気づいたようです。寄せられたおたよりは今までに78通(インタビュー時)あり、その一部がネタになるケースもあるそうです。全国の図書館員が聴いてくれているのが励みになると話していました。
2人が口を揃えて言ったのは、最初は再生回数など気になったけど、今は自分たちがまず楽しい。そして、こんなに続いていることにビックリしているそうです。楽しいから苦にならずに無理なく続けられる趣味なのです。
2025年の総合展では、図書館界隈のPodcastを紹介するポスターセッションに参加の予定です。図書館と一言にいっても館種は様々で、お会いして話を聴くのは難しい。図書館の話もあるけれど、全館種の図書館員をゲストに呼んで立ち話がしたいと語ってくれました。
Podcast「図書館員の立ち話」は2024年図書館総合展のポスターセッションにも参加していたそうですが、私は今まで知らずにいました。いやはや興味がないということは恐ろしいことです。内野さんの一周忌が気づかせてくれました。
Podcastは聴くだけでなく、プラットフォームによっては文字おこしをしてバリアフリーにも対応しています。Podcastの利用メリットが大きいため、現在、膨大な数のデータがPodcastに登録されています。芸能人などの有名人だけでなく素人が制作した番組も配信可能であるため、気に入る番組に出会いづらいというデメリットもあるそうです。20分めどの番組が長くなっているのには理由があって、YouTubeは短い方が、Podcastは長い方が好まれる視聴傾向があるのだとか。
趣味でやるにはハードルが高そうですが、気になった方はお試しあれ。
ポッドキャスト(Podcast)「図書館員の立ち話」
https://podcasts.apple.com/jp/podcast/%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8%E5%93%A1%E3%81%AE%E7%AB%8B%E3%81%A1%E8%A9%B1/id1658729336