Code4Lib JAPANカンファレンス2025基調講演「戦災・災害のデジタルアーカイブ」を中心に
図書館つれづれ [第140回]
2026年1月

執筆者:ライブラリーコーディネーター
    高野 一枝(たかの かずえ)氏

はじめに

Code4Libとは、アメリカで生まれた図書館関係のプログラマ、システム技術者を中心としたコミュニティです。そのCode4Libの日本版を目指して結成されたのがCode4Lib JAPANだそうですが、最近の技術にはついていけないので、友達が頑張っている姿を遠巻きに眺めるだけでした。2025年9月に開催されたカンファレンスでは、8月に何度もテレビで放映された「ヒロシマ・アーカイブ(注1)」の渡邉英徳氏の基調講演「戦災・災害のデジタルアーカイブ」が聴けるということで申し込みました。

申し込んでみると、「以下のリンクから事前にDiscordのアプリをダウンロードし、インストールしておいてください」と返ってきました。何とかインストールしたけれど、そもそも「Discord」なるアプリの正体もわかりません。あとで調べたら、Discordは「誰もが居場所を見つけられる空間を」というコンセプトで作られたコミュニケーションサービスで、メッセージをやり取りするチャットサービスや音声通話、画面共有などさまざまな機能があり、パソコンのブラウザやスマホのアプリでも利用できるのが特徴のようです。2015年にゲーマーのためのコミュニティツールとして登場して以来、毎日サーバーで音声通話する時間はのべ40億分にものぼるほどコミュニケーションツールとして高い人気を誇っているそうな。昨今は会社や大学などでも利用され、さまざまなジャンルのコミュニティが存在しているそうです。でも、私にはまったくの初耳です。次から次へと登場する新しい技術についていくのが大変です。

ともあれ、今回は、渡邉英徳氏の基調講演「戦災・災害のデジタルアーカイブ」を紹介します。

基調講演「戦災・災害のデジタルアーカイブ」

1)ヒロシマ・アーカイブ

広島平和記念資料館、広島女学院同窓会、八王子原爆被爆者の会、中国新聞社をはじめとする提供元から得られたすべての資料を、デジタル地球儀上に重層表示した「多元的デジタル・アーカイブズ」です。2011年に制作されました。1945年当時の体験談、写真、地図、その他の資料を現在の航空写真、立体地形と重ねあわせ、時空を超えて俯瞰的に閲覧することができます。

2025年の夏に何度かテレビで見ました。たまたま柱の陰にいたから助かった話や、当時のすさまじい光景に胸が痛みました。私は大学を卒業して最初の就職が広島県大竹市だったので、周囲には被爆した方が結構いたのです。でも、皆さんなかなか当時の話はしてくれませんでした。

通常のインタビューでは、受ける側は緊張もありかしこまった表情になるのですが、爆心地から1キロほどにあった広島女学院高校の後輩である生徒が聞けば、答える側の表情も自然と和らいでいるから不思議です。一つひとつの記事は、若い力が後押しして当時の様子を聞きだし、記録されました。平和と核廃絶に向けたメッセージを世界中から募り、過去の記憶と現在のメッセージを実空間/Web空間で共有し、未来の物語を紡いでいくためのプラットフォームになることを目指しています。

注1:ヒロシマ・アーカイブ
https://hiroshima.mapping.jp/index_jp.html

2)ナガサキ・アーカイブ(注2)

公開は2010年と広島より実は早いのです。広島と長崎では原子爆弾が落とされた時間が違います。2発目の原子爆弾は、当初福岡県小倉に落とすはずでした。でも小倉周辺の天候が悪く急きょ変更になったのです。落とされた時間が違うのは、広島では標的となる建物(橋)が定まっていましたが、長崎では標的を定めにくい地理的な問題もあり判断に時間がかかったからとのことでした。長崎は東に山が連なっていて、落下後の明暗を大きく分けました。広島と長崎の地形の違いが被害にも大きく影響していることが、多次元地図から理解できました。

注2:ナガサキ・アーカイブ
https://n.mapping.jp/index_jp.html

3)震災犠牲者の行動記録マップ「忘れない」(注3)

東日本大震災から5年後の2016年3月、東京大学大学院渡邉英徳研究室が岩手日報社と共同で、岩手県における震災犠牲者の「地震発生時」から「津波襲来時」までの避難行動をまとめたデジタルアーカイブです。「震災犠牲者の行動記録」を含む「命の軌跡 ~東日本大震災5年 一連の報道~」(岩手日報社)は、2016年度日本新聞協会賞(編集部門)を受賞しました。

居場所が詳細に判明した犠牲者1,326人について、被災地の震災直後の立体的な航空写真・地図と組み合わせ、避難行動を可視化しています。さらに、ご遺族の了解を得た犠牲者687人については、氏名と当時の行動も閲覧できます。犠牲者の位置を地図上に表示し、青色は男性、赤色は女性で、震災発生時から津波襲来までの避難行動の動きをアニメーションで見られます。地元の新聞社の協力があってこそできたマップです。

私はあのとき松島にいたから、他人ごととは思えない「忘れない」記憶です。

注3:「忘れない~震災犠牲者の行動記録」
https://iwate.mapping.jp/index_jp.html

4)3D Photogrammetries Map of Ukraine(注4)

フォトグラメトリ(フォトグラメトリーも同じ)は、英語では「Photogrammetry」、日本語で「写真測量法」ともいいます。対象物をさまざまなアングルから撮影し、その写真をコンピューターで解析して立体的な3DCGモデルを制作する手法だそうで、今も続くウクライナの戦禍の様子を3D画面で見ることができます。3D画面は写真に比べ迫力に違いを感じました。

注4:3D Photogrammetries Map of Ukraine
https://ukraine.mapping.jp/3d.html

3D技術は進化を遂げていて、2023年8月、3D Gaussian Splattingという新しい3D生成技術が発表されたのだそうです。従来の3D生成技術のフォトグラメトリの大きな違いは、

  • 生成されるデータの容量が小さいため、圧縮作業が不要になったこと
  • 従来は1時間から3時間ほどかかっていた撮影時間がわずか10分程度までに短縮できること
  • 透明なもの、反射するもの、単色のものなども撮影対象にできるなど制限が少なくなったこと

があげられていました。

最近の技術では、ビデオを3Dに変換するのが極めて簡単になったという点に驚き、このような技術の進歩とともに、どのようにデータを保っているのか気になるところでした。継続の課題は、社会にニーズがあれば残せるとのこと。だから、データには手を入れずにインターフェースを改善しながら守っているとのことでした。

お話をお聞きして

誰でも作成可能なコンテンツにはリスクが伴うことから、信頼性のある情報源かどうかを見極めることが最も重要です。Webの世界では大きな力で操作される危険性を含んでいることも忘れてはならないと感じました。

渡邉先生は今、展示やワークショップなど、全国各地でリアルな会をあちこちで開催されていて、いろんな人たちに直に触れてもらいたいと活動中です。8月の終戦前後に限らず、図書館でももっと広まっていくといいなあと思いました。

図書館つれづれ

執筆者:ライブラリーコーディネーター
高野 一枝(たかの かずえ)氏

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