2025年11月、東京・神保町の出版クラブホールにて株式会社未来の図書館研究所「第10回シンポジウム『図書館とWebサイトーユーザーエクスペリエンスを高める』」に参加してきました。1992年、日本で最初にホームページを発信したのは森田洋平氏。当時の森田氏でさえ、今のようなインターネット世界は想像できていませんでした。
シンポジウムを聴いて、タイトルが「図書館のWebサイト」ではなく、「図書館とWebサイト」と題した理由がわかりました。今回は、図書館のWebサイトの役割の変化についてのお話です。
最初に、コーディネーターの戸田氏より、1995年の神戸市立図書館のWebサイト開設のインターネット黎明期から現在までの役割の変化について話がありました。2010年までのインターネットサービスは、図書館の利用案内や資料検索など、いわば、リアルな図書館を利用するための補助的ツールが役目でした。その後、スマートフォンの普及や、デジタルアーカイブに電子書籍サービスなどネット上で提供される情報にも大きな変化がでてきました。特に電子書籍サービスは、コロナ禍に急速に増えました。更に最近は、AIを活用した資料検索や、情報の案内・相談などのサービスもでてきました。
図書館のWebサイトは、「リアルな図書館を利用するための補助的ツール」からそれ自身がネット上で情報を提供する「デジタル図書館」へ変わろうとしています。「現在の図書館のWebサイトは、利用者が必要とする情報を確実に提供するものになっているのか。わかりやすく使いやすい、快適な利用体験(ユーザーエクスペリエンス)を提供するものになっているのか」という問題提起をしました。そして、リアルな図書館において目指したのと同じように、利用者が満足できるエクスペリエンスを提供できるWeb上のデジタル図書館を構築・運営していくためにはどんな課題があるのかと投げかけて、二人のパネリストに繋ぎました。タイトルが「図書館のWebサイト」ではなく、「図書館とWebサイト」にした所以が理解できました。
パネリストの池内氏はそれを受け、リアルな図書館利用(オンサイト)とオンラインの違いを深堀していきました。たとえばターニングポイントとなった2013年に、文庫市場が縮小したのはスマートフォンが台頭したからなどと、総務省や日本図書館協会や電流協の統計資料をもとに説得力のある説明が展開されました。2017年には、年代を問わず電車内での情報行動の1位は「スマホ」となり、文芸春秋の松井清人社長が全国図書館大会で、図書館での文庫本の貸出中止を求める意見を表明して話題になりました。今は小学生でもスマホを扱う時代。紙の文庫市場は下落する一方で、TikTokを利用した出版にはメガヒット作品が登場しています。オンラインでの利用促進は「非利用者の情報ニーズをつかむこと」といっても、年齢や目的に応じて利用するアプリには、TikTok、LINE、YouTube、Instagram、Facebookなどさまざまです。Facebookは中高年には支持されているけれど、若者はXやLINEなど簡単に使えるものしか使いません。オンラインで利用してもらうには、バランスを考えていろいろな人に届くチャネルを持つことが大事とのことでした。
統計情報から、モバイルやデスクトップを利用したウィキペディア日本語版の閲覧を利用する時間、関心ごと、年齢層などさまざまな角度から分析した内容は興味深いものでした。ウィキペディアの閲覧は就寝前の21時前後が多く、見るのはデスクトップではなく手軽なモバイルというのも納得しました。ウィキペディアの閲覧は、婚姻や訃報などの巷のトピックスで急激に変わります。それをスパイク(バースト)現象というのだそうです。
電子書籍の利用についても統計が示されました。電子書籍の利用も就寝前が最も多いとのこと。電子書籍導入の課題には、予算の確保や費用対効果やサービスを提供する知識を深めることなどがあげられていました。日本の電子書籍の47%は青空文庫です。もし、図書館に行ってそこにあるのがパブリック・ドメインのものばかりだったら、どう思うでしょうか? 利用者の期待と電子書籍のコンテンツにズレがあるのではないかと池内氏は指摘します。電子書籍は紙の本のようには選書されていないのではないか。アメリカでは、電子書籍のコンテンツに占めるパブリック・ドメインの資料は6%、日本とは全く違う状況で、代わりに人気があって貸出されるコンテンツはたくさん入れるそうです。Webサイトをゲートウェイにするにはビジョンを描くことと締めくくりました。用意した78枚の資料のうち、こどもの読書環境の現状については、公立図書館と学校の電子書籍サービスの連携について触れるにとどまりました。
面白かったのは、電車内の行動調査から年代別統計を出すために、年代調査の前に調査員を特訓したこと。何人もの顔をひたすら見せて特訓すると、「この人は40代」など概ねの年代を当てられるようになるのだそうです。
パネリストの川嶋氏は、野田市立図書館で電算システムと郷土資料・古書の管理のほかに、漫画の選書も行っています。Webサイトの目的は、
要は、現実の図書館で提供している「何かがみつかった」という経験をWeb上でも経験してほしいといいます。現実の世界では、今日返却された本をブックトラックでも見られるし、カウンターに相談したら所蔵していない本でも「所蔵はありません」では終わりません。
野田市立図書館ではこれらをWeb上でも解決すべく、以下の仕掛けを実現しています。
ほかにこだわっているのは、
など。
野田市の図書館は、自前でホームページを作ってきた歴史があるから、少し特殊かもしれませんが、考え方は参考になるのではと感じました。
休憩をはさんでのディスカッションでは、電子図書館を自治体ごとで持つのではなく、長野県立図書館のように都道府県単位でコンソーシアムを組んではとの意見がでました。オンラインサービスは、時間にも場所にもとらわれません。いじめやジェンダーなど中高生が直接借りにくい本は電子書籍を借りるなどの具体的な話もでました。
AIの急速な発展で図書館DXが話題になっています。Webサイトのサービスは、これからますます充実していくと思います。野田市のようにプログラムに直接手を入れることは難しいかもしれませんが、利用者目線でのサービスは参考になりそうです。
今回のシンポジウムはUDトークの配信がありました。字幕のみ視聴することもでき、会場でも字幕表示用タブレットの貸出を行っていました。大事な視点だと思いました。
UDトークに力を入れているZoom参加の友達が、応援の意味もあって、チャットに書き連ねていました。こういうのもリアルでなくても参加できるツールのひとつで、可能性が広がります。